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0028 カーチェ

 あたい達、北部の貴族には王立学校でお茶会関連の授業に出席しない、という不文律がある。

 セディが飲めるお茶が淹れられれば出る必要がないことが理由なんだけど、その意味を実感している。


「まっず」


 いや、あたいは別に飲めるよ。

 この不味いはあくまでも、セディ基準だから。


「特にヒドいのは、コレとコレ。味はマシな部類だけど、カップと中身がアンバランスさが最悪。私には財力と出自以外に誇るものがありませんって、薄っぺらい人間性が透けて見える。今すぐにカップを叩き割った方がいいんじゃないか?」


 なんでこんな、セディが言いそうなことを――いや、実際にセディが言ったことをアレンジしただけなんだけど――あたいが言わなきゃいけないのかっていうと、勉強会の講師だからだ。

 とりあえず参加者全員に淹れさせた結果が、これだ。

 分かってたけど、これじゃ全員不合格。特に、セディ狙いで付いてきた大貴族の女どもが最悪だ。大方、高い茶器をセディに見せて取り入ろうって考えだったんだろうけど、考えが甘いとしか言えない。

 連中もここまで言われるとは思ってなかったんだろうな。

 顔を真っ赤にしてプルプル震えて、取り巻きがオロオロしてやがる。


「――も、物を知らない田舎者がなに――」


「愛好家が多いことで有名なダンタークブランドと、コルトベル工房だな。どっちもマイスタークラスの最高級品だけど、紅茶色の泥水を注ぐようじゃ品性が疑われるぞ。自分だけじゃなくて、こんなの淹れるような娘を育てた家の品性もな」


 セディは、ブランド名を当てるような器用なことはできない。

 興味があるのはあくまでも味と香りで、カップなんてどうでもいいと思ってるからな。

 でも感性は悪くない。中身に合う茶器を選ぶと、必ず最高品質になるからだ。あたいはそんなマネはできないから、ちゃんと知識を付けてるけど。


「――ぐぬぬ」


「言いたいことは以上か? まあ、安心しろ。今日はお茶の勉強会だ。猿にでも一流のお茶を淹れられる方法を用意している。0.1度、0.1秒単位を守ればの話だけどな」


 あ、ユーリの顔が青くなった。

 挑発しても大丈夫かって言いたそうだけど、大丈夫だいじょうぶ。

 セディはあの体型って時点で舐められるからな。どっかでガツンとケンカ売っておかないと、セディが報復に出て被害が増えるから。最終的には、こっちのが被害が少ない。

 それに、迷惑をかけないようにシメとかないと。


「今日の合格ラインは北部基準で80点だ。点数だけ言われても実感できないだろうから教えとくけど、この品性が最悪なので――63点。最悪のクセに、現時点での最高点なんだよな。井の中の蛙って言葉が良く似合う」


「私のお茶が63点!? あなたどんな舌を――ひっ」


「バカ舌は黙ってろ、説明の途中だぞ。文句は説明が終わってから言うもんだ」


 首筋で手刀を寸止めしたら、顔色が赤から青に変わったな。

 荒事に慣れてない箱入りか。他家の、他派閥のタウンハウスなんて敵地だろうに。なんで粋がれるのか理解できねえな。

 こっちはセディから、迷惑をかけないように躾けろって言われてんのに。


「北部の基準はセド様の舌だ。そのまま飲めるのが90点以上、ミルクで誤魔化せば飲めるのが80点台で、ここまでが茶会に出せるラインだ。これに砂糖を加えて味を変えなきゃ不味くて飲めないが70点台、レモンを加えなきゃ香りもないが60点台。これ以下は紅茶色した泥水。白湯を飲んだ方がマシってレベルだと思え」


 何度でも言うが、あくまでもセディ基準だ。

 あたいは35点でも大丈夫だぞ。後、ストレートは好みじゃないから、80点台でも砂糖とミルクを入れて飲む。でも90点以上は別格だ。

 何も加えないで飲むのが礼儀って思えるレベルで美味い。


「今からあたいが、80点台のお手本を淹れてやる。飲んだら座学で、その後は合格ラインに達するまでひたすら実技だから覚悟しとけよ」


 ここまで言いたい放題するとスカッとするけど、参加者の全員(ユーリとドロテアは除く)から敵意が向けられるな。

 自分が淹れたのと大差なかったら潰してやるって顔に書いてある。

 ま、心配はいらねえか。セディにボロクソ言われ慣れてる身としちゃ、この程度はプレッシャーでも何でもない。実力行使に出る気のないお嬢様連中の敵意なんて、そよ風みたいなもん。手を抜いて調子に乗られる方がよっぽど怖いからな。


「今日は砂糖とミルクは禁止だぞ。あくまでも、美味い茶を淹れることが目的だからな。何も入れない茶本来の味と香りを身体に叩き込め」


 アンリ、トリム、ネリーの3人に手伝ってもらって、30人分のカップに紅茶を注いでいく。

 貴族のお茶会では、砂糖とミルクを入れることは標準だから、戸惑っている参加者も多い。

 だが、カップを口に付けた瞬間、全員が目を見開いた。


「……これが、紅茶?」


「茶葉は同じはずなのに、……なぜ香りが」


 自分の常識にない味と香りに、戸惑いを隠せないようだ。

 あたいは騒ぎが収まるまで待つために、自分で淹れたお茶に口を付ける。


「点数はこれで81点。合格ラインギリギリってところだけど、これ以上のが淹れられる自信があるなら帰っていいぞ」


 30秒ほど待ったが、帰ろうとするヤツは1人もいなかった。


「なら、これからお茶の勉強会を始める。まず紅茶に使うお湯の温度から――」


 さて、何人が合格するか楽しみだ。

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