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0026

 お茶の勉強会の参加者は、あっという間に集まった。

 具体的には1日で10人が集まり、その翌日には30人になった。

 さすがに多すぎるので、募集はこの時点で打ち切り。その翌々日には開催が決定した。

 1週間もかからずに開催となったのは正直驚いたけど、会場は問題ない。準備の時間が足りないとネチネチ怒られてしまったが、人脈作りのためだ仕方ない。甘んじて受け入れよう。


「……ねえ……今日、いつもより……厳しくない……」


「若様の実力が上がった結果だ。厳しくなるのは当然だろう」


 7日に1度ある休息日だというのに、休ませてくれないなんて……ヒドい。

 まあ、エルピネクト男爵としてのお仕事があるから休みなんてないんだけど。


「忙しいんだから寝ているヒマなんてないぞ。特に今日は、勉強会と面接がある。とっとと風呂に入って汗を流して、身だしなみを整えてくれよ」


「……あい」


 ここからはいつも通り。

 風呂に入って、朝食を作って、用意してもらった服に着替える。


「トリム、今日の予定は?」


「昨日も打ち合わせをしましたが、午前中はお茶会と面接です。午後は書類仕事と、学生らしく授業の予習と復習。夜は鍛錬のみで、その後は自由時間です」


 お茶の勉強会は10時~12時の2時間を予定していて、座学と実技を合わせてみっちりと行う予定。合格点は80点。温度管理をしっかり行い、手順を厳格に守ればそのくらいはいく。僕は大雑把だからどっちも苦手。

 面接は11時からなので、勉強会の参加者と鉢合わせる可能性がある。


「午後はともかく、ネックは午前のバッティングか」


「若様が拷問パーティーなんて急に思いつくからです。思いつくのは仕方ないにしても、せめて開催日を決定してから人を集めてください」


「はい、反省してます。でも、拷問じゃないよ。お茶の勉強会だよ」


「若様主催の勉強会ですよ。最低でも、若様が飲める程度のレベルになっていただく必要があります。それにはカーチェ様だけでは足りませんので、わたし達も講師として参加しますが――勉強会の範囲に収まるとお思いですか?」


 思いません。

 拷問と大差ないスパルタを受けている身としては、思うとは言えません。


「最後には飴を与えるのを忘れないようにね」


「ご安心を。イチゴのタルトをメインとしたお茶会を最後に開きます。その時は若様にもご参加いただきますので」


「……お菓子だけじゃあれだから、お腹にたまりそうなサンドイッチなんかも用意してね」


 女の子達はお菓子が昼食でもいいかもしれないけど、僕は無理です。

 太ってるからとか関係なく、単純に足りません。


「あまり食べ過ぎると、太りますよ?」


「タルトだけでお腹いっぱいにした方が太るからいいんです!」


 太らないように頑張ってるところに太ると言われてたら、頬をぷくーっと膨らませて怒りますとも。

 中身にもよるけど、サンドイッチよりもタルトの方が太りやすいんですからね。

 砂糖とバターを使ってるから。


「理解しているのならいいのです。お茶会にはキュウリのサンドイッチを出しますが、終わった後にチキンサンドを差し入れますので我慢してください」


「チキンサンドにはチーズを忘れないでね。バターはいらないから」


 パンにバターを塗らない理由?

 ただの個人的な好み。日本人だった時から、サンドイッチに塗られたバターが苦手というか大っ嫌いだっただけ。さすがに誰かに出すなら塗るけど、個人的にはいらないと思ってる。


「若様のこだわりは理解できない時がありますが、分かりました。差し入れはいつも通り、バター抜きにいたします。……話は変わりますが、この方、本当に雇うつもりですか?」


 トリムは面接の書類を手に持っている。


「王立学校の生徒って時点で将来有望だし、魔法科3年で4位の成績だよ。宮廷魔法師団に入れるレベルの人が、うちに仕官したいだなんてこと滅多にないんだ。人格的に問題がなければぜひ雇いたいと思ってる」


 多少問題があっても、どうにでもなる。

 例え殺人鬼だったとしても、ソリティア母上に預ければ丸くなろうだろう。なにせソリティア母上は、アレだ。魔剣グロリアが入ってる腕輪のキーワードを「パピヨンリリース」「パピヨンストレージ」にするような感性の持ち主だ。

 あと大陸単位でも数えるほどしかいないレベルの魔術師でもある。

 学校を卒業したばかりの殺人鬼なんて軽くあしらうはず。


「……まあ、若様がいいのでしたら、いいんですけど。その代り、面接中は必ずグロリアを手にしてください。腕輪に入れたままではなく、出して柄を掴んでいる状態ですからね」


「分かっているよ。本当ならアンリが護衛として側にいる予定が狂っちゃったからね。危険なことになったら、叫んで時間を稼ぐから」


 剣術に自信はないけど、時間稼ぎの自信ならある。

 なぜなら、それしか出来ないから。剣術の授業でも、防御に徹しさえすれば負けたことはないから。攻撃すると負けるから、勝ったことはないんだけど。


「絶対ですよ、絶対ですからね」


「分かってる、分かってるから」


 領主にとってもっとも重要な技能。

 それは生き残ること。死んだら後継者問題が生じるし、最悪のお家断絶になりかねない。


「若様~、トリム~、いま大丈夫ですか?」


 ノックと同時にドアが開いた。

 礼儀作法的に問題はあるけど、お客様もいないので問題ないか。


「大丈夫だけど、どうしたのネリー」


「拷も……もとい、勉強会に参加する方々がお見えになりました」


 ああ、ネリーの認識も拷問パーティーですか。

 仕方ないと言えば、仕方ないけど。


「分かった、挨拶だね」


 両手をギュッと握って、よしっと気合を入れる。

 挨拶の経験はあるけど、北部内、身内同士での挨拶だ。今日集まっているのは、カーチェを除いて北部以外のご令嬢達。ある意味、僕のお披露目会でもある。

 失敗しないように頑張ろう。


(そういえば、どの派閥が集まったのかを聞いてないけど……)


 まあ、いいか。

 変なことを言わなければ大丈夫だろう。

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