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0019

 1時間ぶっ通しで走ったから、お腹が空いた。


「チキンだ。僕はどうしようもないチキン野郎だ。自分で自分の骨を折ることもできない、ダメダメなチキンハートだよ」


「そうかそうか。鳥が食べたいんだな。香草焼きがあるから持ってくる」


 カーチェが冷たい。

 慰めてほしいなんて思っていないけど、少しは付き合ってよ。

 でも鳥の香草焼きか。鳥は良いよね。豚とか牛なんかより、よっぽど好きだよ。唐揚げ、焼き鳥、蒸し鶏、その他もろもろ。良いよね~、魚介類の次にだけど。


「……明日からの剣術、武官科と一緒か」


 ピンキリなんだろうけど、平均はどの程度か。

 もしカーチェと同じくらい相手だったら、防戦一方で反撃なんてできない。僕が習ってた剣って、時間稼ぎが目的だもん。領主が先陣切って戦うなんて愚かだから、妥当っちゃ妥当なんだけど。

 授業で攻撃をしないってのは、なしだよね。


「こちら、よろしいでしょうか?」


「連れがいるのでやめていただけると」


「ありがとうございます」


 話を聞かない、厄介な人が斜め向かいに座った。

 体幹のブレの少なさ、周囲への気の配り方から見て、武官科の生徒だろう。

 性別は女性で、見覚えはない……んだけど、どこか引っかかる。知ってる人なのだろうか?

 ふむふむ、なるほどなるほど、情報収集が目的か。


「武官科のカーチェ・フランベルと仲が良いようですが、許嫁ですか?」


「許嫁じゃなくて幼馴染。校内では実質的な護衛役」


 時期領地貴族の情報は重要だ。特にうちみたいな引きこもり貴族の場合、王立学校への入学がお披露目みたいなところがある。取り巻きの態度からそれとなく察し、遠回りな質問で情報を確定させることが、必要になる。

 まあ、これは貴族に限らず、どの分野でも同じ。


「ではやはり、あなたが次期エルピネクト子爵ですか」


 こちらの意図が伝わったようで何より。

 ただ、今回は分かりやすくしたので、伝わってくれないと困る。

 ……でもな、やっぱり違和感がある。あなたが次期エルピネクト子爵って言ったんだから、初対面のはずなんだけど、知ってる気がする。見覚えがないのに知ってるとなると、聞き覚えがあるってこと?


「あなたは、カーチェの知り合いですか?」


「これは失礼をいたしました。私はドロテアと申します。オーブリー騎士爵家に仕えており、王立学校では武官科に所属をしております」


 仕えているってことは、陪臣か。

 王立学校に入学してるのに、仕えるって自己紹介をするんだから、大きいのかな?


「初めまして。僕はセドリック・フォン・エルピネクト。君の言うように、次期エルピネクト子爵です」


 別に名乗らなくてもいいんだけど、名乗っておこう。

 敵か味方かも分からないうちから敵対することはない。


「やはりそうでしたか。――ときに、エルピネクト様は城下街の市場に足を運ばれたことはございますか?」


「デートのお誘いでしたら、お断りしますよ」


「いえいえ、滅相もない。ただ先日、市場でエルピネクト様に似た方が、エビをお買い求めになる姿を見たもので」


 ……なるほど、そういうことか。

 見覚えがないのに知ってる気がするのも当然だ。

 あのエビ泥棒(美少女)さんを追い詰めたとき、僕を剣か何かで脅してた人だ。

 そうなると、僕に声をかけた理由も察しが付く。


「おや、市場に行かれたのですか。もしや、オーブリー騎士爵家の方の護衛ですか?」


「ええ、私と同い年のお嬢様の護衛として。もしお時間が合いましたら、ぜひご紹介をしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」


「そうですね、お時間が合いましたらぜひ」


 あの時の失態を互いになかったことにしよう、という提案だ。

 他にも下心はあるだろうけど、一番の理由はそこだな。騎士爵家のご令嬢と、次期子爵とじゃ、僕の方が立場が上。表沙汰になったら、彼女たちの立場が悪くなる。

 事を荒立てるつもりはないから、貸しにしておこう。


「お待たせ、セド様。ご注文の鳥の香草焼きだぞ」


 ゴトンッと。

 僕の目の前に乱暴に皿が置かれた。


「――で、なんでドロテアがセド様の近くにいるんだ? 大切なお嬢様がいいのか?」


「ライバルになるかもしれないカーチェさんの弱みが握れればと思っただけだ。大切なご主人様を取ろうとなんて思っていないから安心してほしい」


「誰もそんな心配してねえよ」


 カーチェとドロテアの間で火花が散る。

 僕は知っているんだ。こういう女の争いに首を突っ込むと面倒ごとになる。

 そして大切なことは、話を振られたときにどっちの味方をするかを決めること。今回のケースでは断然、カーチェだ。ドロテアにはもう貸しは作ってるし、カーチェは僕の派閥。考える間でもないことだね。


「鳥の胸肉か。香りはすごくいいけど、身のパサつきは減点だな。ソースはかかってるけど、パサつきを補えるものではない。問題はオーブンの火加減ってとこか」


 料理の質は、少しだけ残念なものだった。

 味と香りはいいんだけど、パサつきはいただけない。胸肉はパサつきやすいから調理が難しいんだ。しっとりとした焼き加減なら、あっさりした美味しさになるんだけど、パサつくくらいなら他の部位を使えって思う。

 この出来じゃ星はおろか、食事マークすらあげられない。


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