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 権力闘争的な罠とか、予期せぬトラブルは色々あったが、謁見の間には無事到着。

 罠とかトラブルの解決で時間を取られて、僕への説明とか準備が最低限……でなくなあなあで会場入り。


(……やっぱり、学校の制服は場違いで目立つな)


 謁見が終わったら、授業に出席する予定だから。

 さすがに一ヶ月にも休んでたから。出ないといけないんだけどさ。謁見後に直行するってどうなのかな?

 制服ってのも、貴族としてどうなのかな?


(学生として出ることに意味があるってことだけど、晒し者になるのはな……)


 まあ、塵芥とお茶会するよりはマシか。

 価値観が分からない相手と命を賭した話し合いをするのと、価値観がある程度共有されている魑魅魍魎共の晒し者になるの。どちらがマシかなんて、分かりきったことだ。


「――アズライト王国国主、アシュフォード・エル・アズライト陛下、ご入場!」


 おっと、ようやくか。

 失礼のないように居住まいを正す、ことはない。マナ回路を起動してまで、臣下の礼を保ってるから無礼はない。警備的に不味くない? と思うかもしれないが、なあなあな打ち合わせの際に許可は取った。病み上がりという評判は、何だかんだで強いらしい。

 ちなみに、陛下は基本的に喋らない。

 あくまでも、延び延びになってた論功行賞をするだけだから。進めるうえで必要な、一言か二言くらいじゃないかな。


「面を上げよ」


 よく通る渋い声に従って、顔を上げた。

 初めて見ることになった国王陛下の顔だが「こんなもんか」という感想しかでなかった。

 親子だけあってバカな甥っ子と似ている部分はある。バカな甥っ子を後二〇年ほど老いさせて、バカな部分を聡明に変えて、色々と疲れた感じに加工すれば、きっと陛下と瓜二つ。

 ……うん、もっと素直に言うと「顔の作り以外は親子とは思えない」だな。

 第一王子と第二王子は、もっとマシであることを祈っておこう。


「セドリック・フォン・エルピネクト男爵。貴殿はエルピネクト領を荒らしていた幻獣を単独にて排除し、その遺骸を王家へと献上した。その功を讃え、貴殿の個人紋章と、遺骸を加工したマントを下賜する」


 司会進行をするのは、結構な幹部だな。

 胸元の勲章は確か、宰相を示すものだったはず。略式とはいえ中々に気合が入っているが……あれ? 幻獣って、夏休みのアレ? 言われてみれば下賜されるって聞いたけど、もう何か月も前のことで忘れてた。

 っていうか、ついでにやっちまおう的な感じですか?


「幻獣とは、あの熊の……」


「第四位冒険者も太刀打ちできなかったとか……」


「武功による紋章で百合とは……」


「真珠色、螺鈿か。確か魔剣グロリアの色が……」


 僕と参加者全員に見せるように広げた後、近衛騎士の一人が受け取り僕の肩にかけた。

 皮を贅沢に使っているようで、ずっしりとした重さが肩に。しかも、魔法具になっているようで、これだけでひと財産だな。


「そのマントには――」


 魔法の効果はちゃんと説明してくれるよう。

 でもさ、説明するなら一対一、もしくは少人数の場にしてくれないかな。

 略式といえど公式の式典だよ。大々的に吹聴してるのと変わらない……ああ、吹聴するのが目的か。王家はこんなスゴイ魔法具を作れるっていう見栄、頑張ればこんなスゴイ魔法具を下賜するよって餌、そして周知することによって生まれる箔。

 実に政治的なパフォーマンスだよ。

 まあ、防刃・防打・対魔法障壁までくっ付いてるのはスゴイと思う。ガタイの良い騎士様なら、戦場でだって使えるだろうけど、僕はガタイが良くないうえに騎士でもない。

 公式の場に出る時に、無理して纏うくらいかな。

 少なくとも、制服の上から羽織るものじゃない。


「続いて、先月の王立学校――」


 ようやく本番。

 内容としては、塵芥戦での僕の活躍の詳細。さすがにお茶会を開いてたことと、白い吸血鬼についての言及はなかったけど、随分と盛ってる。

 バカな甥っ子を逃がすために殿して、死闘を繰り広げて、エドワード君達が来るまで耐えたとか。魔剣グロリアを使って塵芥の不死を解除したとか、エドワード君が必殺技を撃つまでの時間稼ぎをしたとか。

 事実だけを見れば合ってるんだけど、過大評価が過ぎる。

 いやまあ、何度も死にかけたし、魔法陣を作ったのは功績になると思うけど、過大評価だよ。もう一度やれって言われたらゴメンこうむるし、もう戦働きなんてしたくないから困る。

 誰だ、こんな一方的な証言をしたのは!?


(真面目に考えればカーチェだろうけど……エドワード君達も証言してるだろう? 何で盛る? エルピネクト的には嬉しいけど、恩を売りたいってこと?)


 でも、誰が僕に?


「以上の功績により、一等金十字勲章を授与するものとする。セドリック・フォン・エルピネクト男爵、前に」


 ……え、一等金十字勲章?

 混乱しながらも、僕は宰相の言葉に従って前に。


(……確か、十字勲章は軍事系の勲章。金は、王家にしか出せない格で、一等はその名の通り一番上……つまり、つまり……戦働きとしては最上位の勲章ってこと?)


 所定の位置で止まると、陛下が金色の勲章を手にした。

 父上がいくつか持ってるから僕には分かる。この勲章、本物だ。本物の一等金十字勲章だ。


(いや、この場で偽物とかあるはずないけど……なんで?)


 意図がまるで読めない。

 勲章は名誉と箔の塊で、貴族として大変に価値のあるものだとは知っている。

 だからこそ、解せない。

 勲章は賄賂を贈った程度じゃ得られない。戦争なりなんなりがあって、多くの貴族を巻き込んだ謀略を仕掛け、そこまでして三等の銀が得られれば良い方。逆もまたしかし。渡すことが話題に上がった時点で、渡すことはほぼ決定。せいぜいが等級を落とすので精一杯なのに。

 なのに、なんで、一等金十字勲章?

 誰も反対をしなかったのか?


「あのケイオスの息子に、一等金十字勲章を贈る日が来るとは。実に感慨深いものがある」


「……身に余る光栄です」


「これからも励め」


 混乱はしていたけど、機械的には対応できた。

 学生だから緊張しているのだろう、武功はあっても貴族としてはまだまだ未熟、とかそんな感想が出る程度にはなったはず。

 そう、これでいいのだ。

 目立つのなんて正式に領地を継いでからでいい。戦でしか使えない狂犬程度の扱いでいい。


「では最後に、王位継承第三位、アイザック・エル・アズライト殿下、およびその婚約者、ロズリーヌ・フォスベリー様の救出の――」


 ……え?

 それって、功績と言えば功績だけど、一等金十字勲章でしょ?


(いや待てよ。エドワード君達を集めるための時間稼ぎのため、一人で殿したって喧伝してたけど、バカな甥っ子がいたってくだりは言っていなかったような……)


 ……よくよく考えてみれば、だ。

 当機だのちゃんマスだのとうるさいグロリアのヤバさで印象が薄れてたけど、塵芥も充分すぎるくらいヤバい吸血鬼だったわ。

 王立学校を覆う規模の奈落領域を展開して、その中でさらに奈落領域を展開して、干渉型の不死とやらになった。おまけにグロリア基準で一九%のマナを放出しても元気いっぱいで殺し合いが出来た上、父上が殺したのに復活もしている。

 そんなヤバい吸血鬼を完全に殺して、功績を箇条書きにしたら、そりゃ一等金十字勲章には届くね。というか、これで出さなかったら誰に出すんだよって話か。


(カーチェとシルディーヌさんは分からないけど――エドワード君は確実に一等金十字だな)


 王族を救った者と、救ってない者が同じ勲章。

 それでは王族の格に傷がつく、ということか。なら納得だ。


(勲章に並ぶ何か、か。なんだろう? 屋敷か宝物でもくれるのかな?)


 くれるなら、茶器の類がいいな。

 武器はグロリアがあるから論外だし、盾とか鎧は使う機会がないだろうし。屋敷もね、今のでも持て余してるくらいだもん。

 よし、納得した。政治的意図が分かれば気楽に対応できるぞ。


「さらに、エルピネクト家代々の功績を加味し、セドリック・フォン・エルピネクト男爵の爵位を、伯爵へと昇爵するものとする」


 神妙な顔をしたまま、僕の中から感情がなくなっていった。


(――ああ、なるほど。恩を売りたいのは王家で、首輪を付けてマウント取りたいのも王家ってことか)


 恩を売るのも、首輪を付けるのも構わない。

 主君と家臣の関係なんてそんなもの、ご恩と奉公というやつだ。僕に名誉を渡す裏では、姉上が実利を取ってるから、そこは全く問題ない。

 でも、マウントを取らせっぱなしというのは、いただけない。

 エルピネクトは北部の盟主。うちが舐められると、北部全体に影響が出る。合法的に、ここにいる全員にマウントを取るために行動することを、僕は決めた。


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