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 この世界には、幻獣と呼ばれる生物がいる。

 ただの動物との違いは、生まれながらにマナを活用するための器官――マナ回路を有しているか否か。

 このマナ回路は人間を始めとする人種も持っているのだが、残念ながら後天的な訓練によってでしか獲得できず、獲得できるかできないかは才能による。


「――すうぅぅぅぅ――」


 そして、マナ回路は二種類ある。

 マナの保有量と変換効率に優れる代わりに、身体操作に難が生じる、神経系マナ回路。

 身体能力が爆発的に向上する代わりに、マナの保有量と変換効率が低い、循環器系マナ回路。

 僕に適正があったのは、後者である循環器系マナ回路だ。


「――はあぁぁぁぁ――」


 マナ回路は、呼吸によって取り込んだマナを消費することで真価を発揮する。

 循環器系マナ回路であれば、身体能力や五感を強化することが出来る。


「エビの匂いは、こっち!」


 今、僕が強化したのは嗅覚。

 さすがに嗅覚に優れた動物ほどではないが、エビ泥棒が持つ強烈なエビの匂いであれば辿れるくらいに強化することはできる。問題があるとすれば身体能力や持久力は低いままという点だけど、匂いの発生源に近づいているのでなんとかなりそうだ。


「見つけたぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」


「な、なんなのよ――!?」


 ついつい雄叫びを上げると、エビ泥棒が速度を上げる。

 おそらく、循環器系マナ回路の出力を上げたのだろう。なので僕も、嗅覚強化から身体強化へと切り替える。

 この感覚強化と身体強化は、循環器系マナ回路の基礎中の基礎なんだよね。どっちかが出来ることが、次の段階に進むための条件なんだけど……戦闘の専門家は両方同時に強化できるんだよね。けど、僕は出来ない。

 普通なら数年は鍛えれば出来るようになるらしいんだけど、僕は10年鍛えても出来ない。

 使うたびにヘコむから使いたくないんだけど、使わないと追いつけないから使います。


「いやああああぁぁぁぁぁ――――」


「待てええええぇぇぇぇぇ――――」


 しかしまあ、追いかけて1つ、分かったことがある。

 エビ泥棒は女で、マナ回路の性能は僕並みだ。つまりヘボい。神経系マナ回路を重点的に鍛えている可能性も低い。なにせマナ保有量が僕と変わらないのだ。その証拠に、距離は段々と、段々と詰まってきている。


「つ、捕まえ……た……」


 まあ、僕が速かったから追いついたのではない。

 エビ泥棒(女)の体力が尽きたから追いついて、が正しいだろう。僕も疲れ果てているので、紙一重の差かもしれない。


「つ……捕まえて、どうするつもりなのかしら……? わたくしは、金目のものとか……持っていないのよ……」


 疲れ果てて顔が上がらないので見えないが、どうやら怯えているらしい。

 握った手も小刻みに震えているし、よほど怖がらせたのだろう。まあ、小太りの男が全力で追いかけてこられれば誰だって怖いか。


「……その、エビ……を、……返して」


 僕は、彼女の腰を指差す。

 そこには、服の装飾に引っかかった、エビの入った袋があった。


「え、これ……いつの間に? じゃ、なくて。君の、なのかしら?」


 声を出すのも辛いので、うんうん、と頷いた。


「ご、ごめんない。すぐに返――ダ、ダメなのよ!」


 ダメと叫ぶので、返してくれないのかと思ったが、違った。

 彼女がダメと言ったのは、僕の後ろにいる人物に対してだ。


「なぜですか、お嬢様? 悪漢を斬るのが私の仕事ですよ?」


「悪漢じゃないからなのよ。あたくしが、彼の荷物を取ってしまったことが、原因で……」


 背中に固くて鋭い金属が当たっているので、僕は静かに両手を上げた。

 だってこれ、刃物なんだもん。

 手を上げると同時に、顔も上がる。そこにいたエビ泥棒を見て、刃物を突きつけられた理由に納得がいった。

 金髪碧眼の、十代半ばの女性。全力疾走をした疲れと、後ろの人をとめようとする焦りが見えるが、それでも、ついつい見惚れてしまう。肌も雪のように白く滑らかで、手のひらには肉体労働をした形跡がない。間違いなく上流階級のお嬢様だ。美少女の。

 そして護衛の過激さを見るに、十中八九、貴族のご令嬢。

 僕は面倒な事になったな、とため息が出そうになる。ため息をしたら刺激しちゃうから、必死で我慢したけどね。

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