近くて、遠い存在
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さて、学校の課程終了。帰るか。
気がつけばもう夏の足音がする季節。香織とも仲良くなれて憂鬱も晴れたし、なんとなく浮き足立つ。
そうして教室を出ようとしたときに、何やら思案するような表情の美久とはち合わせた。
ちなみに俺も美久も同じB組だが、出席番号で決まってるため、座席は離れている。まさしく点対称の位置だ。
「……どうかしたのか? 美久」
「……なにが?」
「なんか考え事してるような顔してるぞ」
「……付き合い長いとバレバレね。大したことじゃないよ。……あたし、用事あるから。じゃあね」
「…………」
何だかなあ。ま、あいつは嘘はつかない。大したことないと言うなら、信じよう。
「……あれは、たぶん告られるな、有田さん」
「のわっ! ……恭平か、びっくりしたぞ」
後ろからいきなり話しかけられてびっくりしたわ。全く気配が感じられなかった。
話しかけてきたのは、同じクラスの菱本 恭平だ。悪いヤツではないが、非常につかみどころがない。
「大げさだぞ、真一」
「……俺の背後を取るとは、おまえ暗殺者になれるんじゃねえか? まあそれはおいといて……告られる?」
「たぶんな。有田さん、バスケ部の尾形が狙ってるからな」
「よく知ってるな、恭平」
「俺が尾形に直接聞かれたんだよ。『有田さんって、真一とつきあってるのか?』って」
「……なんでおまえに聞くんだ」
「さあな。真一に直接聞きづらかったんじゃないか」
……確かに、客観的に見れば、美久も美少女の類だ。俺は見過ぎて麻痺してるけど。
「なるほど。美久って結構モテるからな」
俺の言葉に、恭平があきれ顔をした。
「何言ってんだ、結構なんてもんじゃねえぞ。一年生の中では、D組の倉橋さんと並んで、ツートップだ」
「……そうなんだ」
「でも、倉橋さんは超絶なブラコンだし、有田さんにはおまえがいるしで、大抵のヤツは、一年ツートップはあきらめてるんじゃないか?」
「俺は美久とつきあってはいないぞ」
「そんなのわかってるが……それが不思議なんだよな。下手なバカップルより、おまえら仲いいのに。だからこそあきらめるんだろ、みんな。尾形のようなあきらめの悪いヤツが玉砕するだけでな」
「………………」
「そしておまえには、あのかわいい妹がいるだろ? 正門でおまえを待っていたとき、『あのかわいい子は誰だ?!』って、かなり話題になったんだぜ。ロリロリしくて庇護欲そそるっつーか」
「……香織はたぶん、来年ここにくるぞ」
「香織ちゃんっていうのか。へー、来年に……ってちょっと待て。あの子、中3か? ひとつ下なだけ?」
「ああ、そうだが」
「うっそだろー……恥ずかしそうに『真一兄さんを呼んできてください』って言ってたとき、中1にしか思えなかったわ……」
なるほど。ま、ただでさえちっこい上に、常に下向いてるからな。仕方あるまい。
「……とりあえずまとめるとだな、真一。おまえ、男連中から羨ましがられてるからな。気をつけろ」
「何に気をつけるんだ」
「さあな。ま、美少女な幼なじみと義妹なんて羨ましいぜ、って話だ。じゃあな」
言いたいことを言い尽くしたのか、恭平は去っていった。……俺も帰るか。
なんとなく、美久のことが引っかかるけど……俺には無関係だ。
……そういや香織、具合良くなったかな。お見舞いにアイスでも買っていってやるか。
俺は、途中にコンビニに寄り道をする決意をして、下校した。