才能は、水もの
「……で、香織ちゃんは大丈夫なの?」
「ああ。一応意識は戻ったんだが、熱はあるし顔は赤いしで、大事をとって今日は休ませた」
遅れそうだと連絡したのだが、美久は待っててくれたので、結局今日も一緒の通学である。
「大事にならなきゃいいね」
「おう。ありがとな。しかし悪いな美久、待っててもらって」
「時間の余裕はあるし、別に大丈夫だよ。……それにしても、ほんと仲良くなったよね、香織ちゃんと」
「……ああ」
逆に懐かれすぎて怖いんだが、あの愛くるしい笑顔で『兄さん(はぁと)』なんて言われちゃ、そりゃなんでも言うこと聞くだろ。兄バカになりそうだわ。
「香織ちゃんは、守ってあげたくなるタイプだもんね。大人になったらモテモテだろうなー、うらやましい」
「……おまえだって、それなりだろ」
「それなりって、どういう意味よ?」
「一時期ほどではないが、それなりに、モテる」
「………………」
美久は、とある大会で優勝したときに『天才美少女現る!』なんて、地元紙に特集組まれたくらいだからな。実は有名人だ。
「……まったく、天は二物を与えず、なんてのは、与えられなかった者のひがみにしか聞こえねえよ。おまえ見てると」
「べーつーに。もうただの人だし。それを言うなら、真一だってそうじゃない」
「……俺は……弱いだけだよ」
「そんなことないでしょ。……やめよっか、この話は」
「ああ。そうだな……」
変な話題を振るんじゃなかったな。お互いに、忘れたふりをしたいこともある。
「……ね。真一は」
「ん? なんだ?」
「真一は…………守ってあげなきゃならないって子と、一緒に戦ってくれる子、どっちが好み?」
「…………なんのはな」
そう問いかけてきた美久を見て、俺は思わずドキッとしてしまった。翳りのある真剣な顔は、今まで数えるほどしか見たことはない。
「…………さあな」
俺は、美久にドキッとしたことを悟られないよう、曖昧に答えを返した。
「……ふふっ。真一らしいね」
「どういう意味かはわからんが、あえてスルーさせてもらうわ」
「はいはい」
クスッと笑う美久。知られすぎているのも、なんとなくむずがゆいな。
まあ、正門までもうすぐだ。なんとかそこまでごまかすとしましょうか。