妄想で、卒倒
「に、兄さん……朝ですよー……朝ご飯ですよー……起きてください……」
……なぜ、香織の声が聞こえるのだろうか。夢か?
「ま、まだ起きないのですか……あうぅ、困ります……兄さん、遅刻しちゃいますよ……」
うん、香織の声はかわいいな。
「……こうなったら、布団をはがすしかないでしょうか……兄さん、ごめんなさい。えい」
バサッ。もっこり。
「!!!…………こ、これが噂に聞く、あ、あ、あ……」
「…………んん。……香織? 起こしに来てくれたのか……?」
夢じゃなかったらしい。どうやら香織が起こしに来てくれていたようだ。開いた目の前には、香織のやや赤みを帯びた髪が垂れ下がっていた。
「あ! あ! あ、あ、あさ、あさだ」
「……? 朝だな、おはよう。香織の夢を見ていた、と思ったら、本物の香織の声だったんだな」
「……あ、はぃ……お、おはようございます……わ、わ、わたしの夢を見て、兄さんのアレがあんなに……」
香織が、朝から顔真っ赤なのはなぜだ。……ん、布団がない。おかしいな……だめだ、眠くて考えがまとまらん。
「……あ、あの、兄さん、苦しくないですか? つらくないですか?」
「…………いや、眠くて頭が働かないけど、苦しくもつらくもないよ」
「そ、それなら、よいのです……つらかったら、わたしが鎮めてあげ……で、でも、どうやったら……お口? それとも……きゅう」
バタン。
「……おい、香織?」
俺が起きたのと交代で、香織が倒れた。びっくりして目が覚めた。……香織の顔が赤いのだが、やはり風邪じゃないのか。昨日から様子がおかしかったしな。
「しょうがないな……よいしょっと。うわ、軽すぎ」
倒れた香織を抱っこして、まずはリビングに連れて行く。父さん義母さんに、香織の具合が悪そうだと伝えなきゃ。
「あら、真一くんおは……あら? あらあら?」
香織をお姫様だっこしてる俺を見た義母さんが、パタパタと近づいてきた。
「あ、義母さんおはよう。どうやら香織が具合悪そうなんだ、突然倒れちゃって。今日は学校休ませた方がいいかもしれない」
「きゅうぅぅぅ……」
「本当? ……すごく熱っぽいわね。顔も赤いし呼吸も苦しそう。熱を測ってみましょうか」
義母さんにそう言われ、とりあえず香織をソファーの上に寝かせる。
「それじゃ、俺はタオルケットを持ってきます」
「あ、ありがとう真一くん。……この前まで全く会話すらなかったのに、もうお姫様抱っこするような仲になったのね、香織と真一くんは。ふふっ」
「…………うーん、兄さんのがわたしの……な……か……」
優しく微笑む義母さんと、うなされる香織を尻目に、俺はタオルケットを取りに行くため、リビングを離れた。
……今日は美久に先に学校行ってもらうか。遅れそうだしな。