態度は、豹変
「……あ、あの……真一さん」
香織が、帰宅した後の自宅リビングにて、おそるおそる話しかけてきた。
「……? どうしたんだ?」
「真一さんの高校のこと、聞きたくて……よければ、少し詳しく教えていただけませんか」
「いいけど……真一さん、って」
なぜ突然名前呼び。なんとなく他人行儀な感じがして、いまいちしっくりこない。
「あっ、あっ、『真一さん』って呼ばれるの、イヤ、でしたか……?」
「イヤ、ってわけじゃないけど。家族なんだから、『兄さん』とかでいいよ。今まで通りに」
「あ、そ、そうですよね。父さん母さんには秘密にしないとならないですもんね……」
「……ん? よくわからないけど、なぜ秘密にする必要があるんだ?」
「えっ、えっ、だって……わたしたち、兄妹ですよ?」
「わけがわからん……まあいいや。俺の高校に、進学するつもりかな?」
「はい。……兄さんと一緒にいたいですし」
「お、おう……」
今までの一年は何だったんだろうな、香織のこの態度の変わりよう。……いや、きっかけが欲しかったんだよな、香織も。きっと。
「……わかった。じゃあ、俺の部屋に来い。いろいろ資料もあるし」
「えっ……そんな。いきなり……でも、兄さんならわたし……」
微妙に話がかみ合ってない気もするけど、気のせいだな。うん、気のせいだ。
もちろん、高校の説明だけだぞ、部屋の中でしたのは。……なぜだか香織は赤面しながらうわの空だったけど。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「妹ちゃんと話せるようになったんだ。よかったね!」
「ああ。美久のおかげもあるよ。ありがとな」
日が変わった朝。俺は、いつも通り一緒に登校する美久に、昨日の顛末を説明した。
「ん? あたし、なんかしたっけ?」
「きっかけ、って言葉を教えてくれたからな。うまくいったのはそのおかげだ。感謝する」
「何言ってるの、あたしと真一の仲じゃない! でも、本当によかった。妹ちゃんを見たことは数えるほどしかないけど、かわいい子だよね」
「ああ。少しずつ、慣れてくるといいんだけど。敬語はやめてほしいんだがな」
「ふふっ、まだ緊張してるんじゃない。……真一、手を出しちゃだめよ」
「出さねえよ! おまえは俺を何だと思ってんだ」
「……まあ、真一がそんなに手が早いわけ、ないか」
「……?」
ため息の出ない通学路は久しぶりなんだが、俺の代わりに美久がため息をついたようである。
「よっ、バイオレンスコンビは今日も仲良く登校か」
美久と一緒に正門をくぐると、クラスメイトにそのような声をかけられた。
「……ねえ、そのバイオレンスコンビって、いい加減にやめてくんないかな?」
「だな。美久はともかく、俺も一緒くたにされるのはマジ勘弁だ」
「……真一。骨、折られたい?」
「やっぱ美久がバイオレンス筆頭じゃねえかよ!」
こいつと一緒に暴れていた頃のイメージが、まわりにも残っているようだ。黒歴史だな、これも。