兄妹は、ニセモノ
内気な妹が書きたかった。基本的に、まったり更新です。
俺の名は、矢吹 真一。今現在、高校一年生だ。
去年、俺の父親が再婚した。再婚相手には、ひとつ年下の、香織という娘がいた。
かくして、俺に妹ができたわけだ。『お兄ちゃんなんだから、妹を守ってやらなきゃだめだ』と父に言われ、俺なりに頑張ってきたつもりだ。
つもりなんだが。
未だに妹と、まともなコミュニケーションがとれないまま、すでに一年が経ってしまった。
『朝ご飯は、家族そろって食べる』
これは、再婚したとき、父と義母で決めたことらしい。我が矢吹家、唯一の決めごとだ。
だが。家族らしい会話が弾むことは今までにほとんどなかった。無言がデフォルトである。それどころか、何やら緊張感漂う食卓だ。
もちろん、今朝の食事タイムも。
「………………」
「………………」
「………………」
「…………なあ、香織は、どこの高校を受験するか、決めたか?」
秀人父さんが、沈黙の緊張感に耐えられずに妹に話題を振る。
「……まだ、決めてない……です」
「そ、そうよね。まだ時間はあるもの、慌てなくてもいいわよね。真一くんも、決めるの悩んだもんね」
妹の香織は、俺の前では基本的に素っ気ない。貴子義母さんは、いつもフォローに回っている。不毛だ。
「……ごちそうさま」
俺はこの食事の時間が苦手で、いつも一番早く食べ終わり、さっさとひとりで切り上げる。おかげで早食いの習慣が付いた。
「あっ……」
香織は、いつも何かを言いたそうにしてはいるのだが、俺と目が合うと、何も言わず下を向いてしまう。
いつになったら、家族団らんができるのかねえ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「……今日も、お話しなかったの?」
「できるわきゃねえだろ。あんなお葬式みたいな雰囲気の中で」
俺は、同じ高校に通う幼なじみの有田 美久と毎朝一緒に登校している。いつも俺が愚痴を言い、美久が聞き役に回るルーティンだ。
こいつは家も近くで、小中高とすべて一緒なので、気心はやたらと知れている。おかげで男女としての関係とは無縁なのだ。
「うーん……真一のお父さんと新しいお母さんは仲良しに見えるんだけどね」
「仲いいよ、実際。未だにデートとかしてるしな」
「そこに妹ちゃんが入るだけで、家族がぎこちなくなるわけね……」
「……というより、妹って俺と一緒にいるときだけ、やたら無口になるんだよ」
「妹ちゃん、中学三年生だっけ? うーん、思春期よねえ……」
確かにあいつはずっと思春期なんだがな。父さんが再婚したときから。
「義母さんとは別に普通なんだよ、俺も。ギクシャクしてるのは俺と妹だけ。嫌われることした覚えは全くないんだけど」
「……むしろ、真一って、妹ちゃんかばってたもんね。泣かされたりしたらお礼参りしたりして」
さすが美久、そのあたりはよく知ってる。転校してきたばかりの時に香織がいじめられて泣かされた時、下級生のクラスまで殴り込みに行ったのは……今考えると黒歴史だな。
「俺もバカだから、父さんに『妹を守ってやらなきゃだめだ』と言われて、その通りにやってたんだよなあ……先生にはこっぴどく怒られたし」
「バカじゃないよ。真一のそういうところ……すごくいいと思うよ」
「お、おう、そうか」
男女の関係とは無縁なはずなんだが……美久のやつ、最近やたらと大人っぽくなってきた気がする。ポニーテールの脇からうなじとかを見ると、たまにドキッとすることもある。……昔はこいつと一緒に暴れてばかりだったんだが。
「……でも、あいつのためによかれと思ってしたことはすべて裏目に出てるように思うわ。そのたびに、俺と距離を取るようになってるしな……」
「うーん……たぶん、たぶんだけど、妹ちゃんは真一のこと、嫌いじゃないと思うよ。ただ……」
「……ただ?」
「どうやって接していいかわからないんじゃないかな? きっかけがないんだよ、きっと」
「それが一年以上続いてると?」
「最初がうまくいかなかったから、時間が経つにつれてどんどん話しづらくなるパターンだと思うよ。妹ちゃん、ちょっと内向的みたいだし」
「……まあ、確かに」
香織は、あまり積極的には見えない。その性格は、初めて会った時から変わってないとは思う。父さんと話すようになったのも、わりと時間かかったしな。変わったのは……髪が伸びた、くらいだ。
「嫌われてるなら、もっと露骨に避けられると思うしね……そのうち、仲良くなれるよ」
「そのうちそのうちで、気づけば一年経ったわけだが……そのうちっていつだろうな」
はあ。
学校が始まる前に出るのは、ここしばらくはため息ばかりだ。