廃れた狩り場より放たれた者達
カナとウサギが去った後───
静まった廃ビル、そこには痛々しい戦闘痕が残っている。
元々からあった重苦しい空気は少し和らぎ、死者の魂がゆっくりと浮遊するほどに安らかになっていた。
そこに、コツン、ひた、カツン、ぺたり、と2つの異なった足音が混じり、響いた。
「………なんだぁ、こりゃあ」
「荒らされてんなぁ、遊び場が」
2つが声を発した途端、魂は逃げ出し、どんよりとした嫌な気配がその場を支配した。
現れたのは、2つの人影。
いや、フードを被った人間と、ゾンビの容姿を持つ人間だった。
「どうするよ?」
そう隣の人物に尋ねたのはゾンビのような容姿を持つ人物だった。
肌は灰色で血色がなく、ツギハギだらけ。白く長い前髪が緑色の片目の隠している。見えている片方の瞳は輝きがなく、死人のように濁っていて、折角の色が台無しになっていた。なのに、体には生気が漲っていて、三日月形に歪む真っ青な唇は動いている。
「それはアレか? 遊び場を荒らしやがった奴等をグチャグチャにしようってアレか?」
そんな異常を話しかけられた人物は当然というように受け止めていた。
被っていたフードを脱ぎ、その下の顔が露わになる。
若い見た目の男だった。
無雑作に切られたボサボサの青い髪、異様に光っている黄緑の両目は、隣のゾンビのような男と違った濁りを持っていた。冷たい風が吹き、膨らむコートの下にはくたびれたスーツらしき衣服。
2人は人間ではなかった。
ゾンビの容姿をした片方は悪魔。
青い髪が特徴の片方は…………。
少しだけ浄化された空気が濁っていく、2人の気配が汚染する。
人ならざる2人から発せられるオーラと呼ぶべきモノは、どんよりと、ネットリとした黒い不吉そのものだった。
「それはアレだ、決まってんだろうが」
ギラリと輝く黄緑の目は狂気に満ち、唇は三日月に。
視線を受け、悪魔が姿を変えた。ドロドロと溶けるように、人の形を保っている流動体のような。そしてその人の形をした黒い液体は男の右腕に纏わり付く。男は液体を払うようにその腕を振り落とした。
液体が飛び散り、ベチャベチャと音を立てる。
直後、その液体の付着したものはジュウジュウと、シューシューと、音を立てて溶けていく。
振り下ろしたその手には、全長が男の身長程にもありそうな大鎌が握られている。
溶けたものから発せられる悪臭と煙を切り裂きながら、男は殺気を撒き散らしながら、その場を後にする。
「さあ、ナワバリを荒らしやがった奴等を八つ裂きにしようじゃねぇか……、なぁ……?」
血を欲する大鎌を持ち、自身は溢れ出る邪気を隠すことなく、次の獲物を切り刻まんと、探し始めた。
その後ろ姿はまるで、死を具現化したとある神のよう───