忍び寄る影
「……ねぇ、ほんとにレヴァナントが発生したの?」
「おかしいな。 確かに魂の反応があったんだが……」
「んじゃあ先越されたっぽいねぇ、残念」
とある大通り。行き交う人達を見下ろす影が3つ、ビルの屋上にあった。
「というかぁ……仕事熱心だよねぇ………ま、それに付き合うウチラもあれなんだけどさ」
「仕事を承った以上、完遂することが私達の役目だ。 付き合う、付き合わないの問題ではない」
「はいはい、分かってるよ、分かってマスヨ。 仕事だからショーガアリマセンネーっと」
「もー おねぇちゃん! わたしもがんばるからねっ、いつまでもだらだらしてないで一緒に頑張ろーよ!」
「………はあ、だっる…」
凛としたアルトの声、元気が良いソプラノの声、そしてやる気の感じられないアルトより少し低めの声。
3つの声が騒がしいように響くが、下を歩く人達は全く気付いていない。
「ドロドロを見るためにっ、いざ!」
「ねぇ、コイツだけ外せない?」
「無理だ」
ふと上を見上げる人も少なからずいた……が、その全員は背伸びをしたり、疲れた、と呟いているだけで、決して彼ら3人には目を向けなかった。
「とにかくだ、私達のやるべきことは1つ」
また口論を始め出す2人を置いて、1人は地面へと飛び降り、着地。
その人物は黒いフードを被っていた。
ポンチョに似たコートの下には、シワがなくパリッとした黒いスーツ。
道の傍らでその人物はしゃがみ込んだ。そこは数時間前、カナとそのクラスメイトの女子が異形…レヴァナントを倒した、死闘があった場所である。
一見、何も無い無機質的なコンクリートはフードの人物の目にはどのように、何が映っているのか…。手を伸ばし、ちょん、と指先でそこへと触れる。すると、そこからポツポツと光の粒子が現れ、宙を舞った。微風が吹くだけで消えてしまいそうな、薄く、弱く、かすかな光。それが道に沿って続いているのである。
「後が詰まっている。 早く済ませるぞ」
フードの人物の呼び声に、屋根に居た2人もようやく口喧嘩を終わらせる。そして、その人物の傍に同じくして降り立った。
3人は今にも消えそうなそのかすかな光の後を追うように、その場から姿を消す。