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喰らう盾 護る矛  作者: シュガームーン
第二話:死と踊る双銃は禁忌を罰する
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穏やかな朝と学校事情

「はっくしゅ!」

「ん? カゼか?」


 少し肌寒い朝、少し乾燥している空気、いつもの通学の道には2人の男女の姿があった。


「いんや、少し肌寒いだけ」


 そう言って鼻をさするのは、くたびれた制服を着ている女子、立原カナ。

 長袖の白いセーラー服は所々(ほつ)れていて、糸が無かったのか、黒や青で縫われている箇所がある。しかし、それでもまだ傷が残る制服だった。


「ま、昨日疲れてぐっすり寝たからなぁ」


 大きく欠伸あくびをしながらグッと背を反らして腕を伸ばす、アルビノの容姿を持つ青少年。

 白のパーカーに黒のズボンという簡素でラフな私服という、少女とは対照的な服装だった。

 しかし、彼は学生ではない。ましてや、人間でもない。彼は食欲を司る悪魔、ラプス=グリムである。


「それに背中にたてられた爪跡もちょっと痛ん、でぇっ!?」

「いつ私がアンタとそんな仲になったよ」


 変態じみたワードと妄想を彼女は水平チョップで一刀両断。ラプスの右頬には赤い水平線が残った。若干涙目になっているが、どこか嬉しそうだ。


 性欲の間違いではないか、とカナは疑っているが、間違いなく彼は食欲である。

 これは彼らの一種の日常茶飯事なコミュニケーションの1つだ。傍から見ればただの暴力だろうが、マゾっ気のある悪魔にとってみれば喜んで受けるコミュニケーションだった。彼女にしてみれば迷惑極まりないコミュニケーションなのだが。


「ってーな、からかっただけじゃねーか…」


「警察に突き出すよ」


「おーコワ、ま、どーぞご勝手に? 人間共には見えないんだからあんまりそっちの脅しは効かねぇよ?」


「チッ」


「これ結構なアドバンテージで、人間の女に様々なイタズ、」


 バチンッ!!






「(……あの口引き裂いてやろうかな…)」


 じとりと睨み上げれば、真っ赤なモミジを頬に貼り付けた性的犯罪者予備軍の悪魔の姿。


 いくら周囲の人に見えない、聞こえないとはいえ、ベタベタとくっついて変態発言を連発してきて、正直ちょっとウザい。


「……そういえば、」


「うん?」


「体育館って大丈夫なの?」


 数日前に学校で起こったあの死闘を思い返した。あの時は五体満足(?)で凄く疲れていたからそんなことを考える余裕なんてなかったし、忘れていたけど、今考えるとかなりヤバイ気がする。


「……大丈夫じゃねーの? ここ数日『キョーガク!!数十分にして崩壊寸前の体育館!?』なんて記事は無かったし」


「神の世界にも新聞とかあんの?」


 無駄にリアルな見出しを想像するラプス。ちなみに新聞はあるらしい。



 あの後、意識をギリギリ保ちながらなんとか家に辿り着いた後、自室で泥のように眠った。起きたのが次の日のほぼ同時刻。起きた時は一瞬長い夢を見ていたのかと思ったが、


『あ、起きちゃった? カワイイ寝顔ごちそーさごふぉお!?』


 すぐ近くでラプスが私の寝顔を堪能していたらしく、寝起きの左ストレートを叩き込んだ。それと共に今までが現実だと再確認せずにはいられなかった。



 ……まあ、ラプスが傍に居て、ホッとしたのは…本当のことだけど。


「…ん? おい、おいっ、カナ、」

「何、なにか珍しいモノでも、」

「魂だ魂、レヴァナントが居るぞっ。 くあーっ、食欲とよだれが湧きでゅる、」

きたなっ! しかも朝あれだけ食べたのにまだ食うか!食い足りねぇか!!?」


 ペシペシと叩かれたと思ったらよだれをギザ歯から垂らす悪魔の姿が。汚ぇ……。感動返せ。


「別腹だよ、べーつーばーらーっ。 それともどうする、放っとくのか?」


「……………」


「まっ、そうは言っても俺は行くんだけどなんぐぇっ!?」

「行かないなんて言ってない」


 逸るようにどこかへと行こうとするラプスの首元を掴めば、一瞬息が出来なくなったのか奇声を発した。変態を1人にしておくと色々と面倒だし。

 いい加減によだれを拭け。


「うっしゃ、んじゃ行こうぜ!」

「うわっ!?」


 ……と思ったらお姫様だっこされた。思わず顔をぶん殴ったのは許してほしい、ゴメン。


「むふふっ、公的にカナを好きに出来るからイイんだよなぁ♪」


 前言撤回。殴って正解だった。欲を言うなら後二発くらい殴りたかった。


「そういえばさー、悪魔と契約したヤツを『魔女』って言う人居るらしいじゃん?」


「……ナニ、いきなり」


 急に話が飛んで眉が寄った。

 …いつかは忘れたけどそんなことが書いてあったウェブサイトを見たことがある気がする。


 …今頃だけど、世界の見方が変わったのかもしれない。あんまり実感湧いてないけど、ラプスと出会う以前よりも、やっぱり色付いているような気がするから。

 自分が魔女と呼ばれてもいいなって思ったり───


「魔女って言ったらやっぱ黒猫じゃん? 1回ネコプレイやらせてみた、」

「ふんっ!!」

「い″っ!!?~~~!!?、っ!?」


 感動を返せ煩悩。

 なんでこんな変態と契約を結んだんだろう……。


「早くしろ変態、キビキビ動く、動け」


「き、鬼畜だなテメ…、今一瞬意識トンだじゃねーか……うぶ、吐きそ…」

「吐いたら殴る」


 フラフラとしているから、ラプスの腕の中からさっさと降りてさっさと歩く。

 全く、アンタの食事に付き合ってやってるんだから、少しくらい自重してほしい。











 ガラリ、と3ーCの後方の扉が開いた。入ってきたのは立原カナ。


「立原さん、家に連絡して誰も出なかったから心配してましたよ、どうかしたんですか?」


 板書していた先生がカナに声をかけた。


「あー……すいません、ちょっと用事があって…」


 無表情、無感情で朝の挨拶と遅刻の謝罪。今は授業中、3時間目だ。


 彼女は先程までレヴァナントと戦っていたのだ。カナの後ろではラプスが満足そうに舌なめずりをしている。制服はなんとかボロボロにならずにすみ、学校へ登校することができた。


 真っ直ぐに自身の席へと向かい、荷物を降ろして現授業の準備をする。

 ……が、


「…………」


「ん? ……おい、どうした」


 机の中に手を突っ込んで固まったカナ。それを不審に思ったのか、ラプスが彼女の手を引き出しから抜いて顔を歪めた。


「……うわぁ~…、悪質でじみ~ないじめだなぁ」


 悪臭を放つふやけたパン。それが机の中に無造作に入っていて、カナがそれを潰してしまったのだ。その他も、カナが探れば紙くず、ペットボトル、丸まったテープなどのゴミ類、更にはカミソリや欠けたカッターの刃まで入っていた。教科書類は水で濡れて、ぐちゃぐちゃに入れてあった。


「……はぁ、」


「どうかしましたか? 立原さん」


「いえ、なんでも…」


 今までは教科書まで被害に遭ったことがなかったため、少し陰鬱な気分になり、今度からは持って帰ろうと決めた。


 クスクスと笑い声が聞こえて、顔を上げればあの2人が嗤っていた。おそらく主犯だろう、とカナは小さく息を吐いた。


「なぁ、腹立たねぇ?」


「よく分かるけど手の骨鳴らさないでくれる?」


 ゴキボキ、とカナ以外に聞こえない音を鳴らして口元だけが嗤っている彼に、彼女は呆れた。


「食べ物を粗末にするとかウジが湧いてんぞ、アイツらの脳……」

「そこかよ」


 思ったよりも声が大きかったからか、全員がカナを見た。


「独り言かなぁ? 立原さぁ~ん」


「まさかとは思うけど…用事って精神系の病院だったりして」


 主犯らしい、いや主犯の女子2人がクラスに笑いの渦を作り出す。カナは内心ホッとしていた。


「(バカ共がたくさん居て助かった…)」


 流石にヤバイヤツだとは、まだ思われたくなかった。


 ちらりと隣を見れば、不快そうに怒気を露わにする悪魔。

 そこまで食にこだわるか、とも思ったが、こんなヤツだった、と納得した。自身の食欲に忠実な分、こうしたお遊びに折角の食べ物を無駄にすることが許せないのだろう。よく店から出る生ゴミを見ては「もったいない」と呟いて、最悪の時は食べようとしていた。勿論止めさせるのはカナ。


「……なあ、そのパンまだ捨てないよな?」

「食べるなよ」

「俺は食べねぇよ」

「……?」


 再びラプスを見たカナ。彼は悪魔の笑みを浮かべていた。一体何を思いついたんだ、と首を傾げて眉を寄せるカナだった。

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