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喰らう盾 護る矛  作者: シュガームーン
第一話:自殺願望者とハジマリの道
1/18

自殺願望者とアルビノ少年

 ある少女にとって、この世界には色が無い。


 全てがくすんで見えて、灰色だけで、汚くて、嫌なモノばかりが映って……。


 だから死のう、と目の前で唯一茜色に染まっている景色を見て、決意した。


 今まで何度もしてきた決意だった。

 しかし、どうしても死ねなかった。

 そんな悩みも、今、この時をもって解消されると思って、でもまた死から拒絶されるのではないかと彼女は自嘲した。


 彼女は今、とある廃ビルの屋上に立っていた。とてもシンプルで分かりやすい飛び降り自殺。

 人がほとんど来ないこの場所は、意外と住んでいる場所から離れていなくて、来る時が楽だった、と屋上の端に足をかけて、彼女はそんなことを考える。


「(とはいえども、もうあんな所に戻って、私を待ってくれるような人は存在しない。 むしろ自殺これが成功して喜ぶ奴等ばかりだろうし)」


 彼女を待っているのは冷たく固いコンクリートの地面のみ。


 1歩踏み出せば自殺成功。

 ようやくこの世界から解放される、と足を踏み出そうと───


「……じゅるり………」


「…………」


 ───して、彼女の背後からよだれをすすったような、そんな音が聞こえた。


 ……なんだ?

 ニュアンスとか使う意味がちょっとおかしいかもしれないけどタナトフィリアとかか?自殺とか自傷行為に対して興奮を覚える異常性欲のアレか?

 出来ることなら1人でゆっくり死にたかったのにどうしてこんな所に人が来るん………


 ……振り向こうと目を向けて思わず固まった。


「…………じゅるっ……」


 ……確かにいた。人が。


 秋特有の夕焼けに照らされて茜色に染まった髪、顔、目……が……。

 もうそれこそ残り数センチでくっつきそうな位の距離で───


「ギャアアアアアアアッ!!」

「おぐぉっ!?」


 よだれを垂らしているその顔に思いっ切り手の平をぶつける。つまりは平手打ち、もしくはビンタ。


 その拍子に



──────────ズルッ



「えっ………」






 後ろへ引こうとした足が床を捉えなかった。

 空を切り、体は反射的に体制を戻せと空を掴む。


 そこで彼女は、こんな廃墟に来た理由を思い出した。



 ああ、私、死にに来たんだっけ、と。



 もう足掻く必要も無い。


 そのまま重力に身を任せた。



 最後に目に映ったのは、赤いモミジを頬に付けた男がそこから飛び降りた姿。


 …………。


 ……………………。


 ………………………………飛び降りた!?



 思わず私が目を見開くのとその男子が私を掴んで引き寄せたのがほぼ同時だった。

 死にかかっているのに、目の前の男は不思議そうに目を丸めていて、


「なあ、お前─────」


 彼が何かを言っているのは分かったが、私はそれを理解することなく、意識を手放した。











 ………。

 ……………。

 …………………。


『立原さん、これやっといてね。 ヨロシクー!』


 彼氏が出来たから、と私を下に見て日直の仕事を全て私に任せたクラスメイトの女子。



『トモダチでしょ? このくらいアタリマエじゃん』


 休日に私を呼び出して、その代金を全て私に押し付ける、トモダチだと名乗る女子。



『手間かけさせないでって言ってるでしょ!?

 どうして分かんないの!?』


 何か気に入らないことがあるとヒステリックに喚き散らす母親。そうして血走った目で私を睨むと手を振り上げた。





「─────っ!!」


 腕を振り上げて頭を衝撃から守る。

 しかし、いつまで経っても手は飛んでこなくて、瞑っていた目をゆっくりと上げれば知らない古びた天井が見えた。荒く息を吐いたことで、今まで息を止めていたことに気付いた。


 ああ、またこれか…。


 いつものことだけど嫌な夢を見たな、と起き上がって、髪をぐしゃぐしゃと乱す。

 全身に嫌な汗を掻いて気持ち悪い。

 着替えようと周りを見て、ようやく私は気付いた。


「…いつもの部屋………じゃ、ない……?」


 そう、言うなら廃墟のような、そんな場所。

 今まで寝ていたのは壊れかけの古びたベンチ。


 どうしてこんな所で寝ているのか、私は頭を働かせた。


 確か、私はビルの屋上から飛び降りた。

 ……で、飛び降りて………。

 …………。

 ……あれ………?


「…何か、重要なことを忘れているような……」

「おっ? やぁ~っと起きたなぁ?」


「…………」


 横を見れば真っ赤な目が凄い近くまであって───


「気分はどうだ? 自殺希望暴力小むす、」

「いやあああああああっ!!!」

「ぶべぇっ!?」


 その顔面に拳をめり込ませた。


「…………あ」


「ってぇ……!」


 そうだ、コイツだ。

 コイツが私の後に屋上から飛び降りたんだ。


 真っ白な髪に、先程見た赤い、鮮紅色の目。髪と同じ真っ白なパーカーと黒の長ズボンを着こなしている。


 でも、私は名は知らないし、こんなヤツを見たことも無い。(まずアルビノを見たことが無い)


 そんなヤツが目の前で悶え苦しんでいる。


「いつつ…。 確かに俺は喰らうのは好きだから別に良いが、一体どこでこんな怪力を……」


 腫れた頬を押さえて何故か嬉しそうに呟くコイツがそう言っ……。


 ………怪力?

 今、私が怪力だって?

 ……うん、それは女子に禁句なんじゃないかなぁ?というかほぼ非は100%アンタにあるでしょうよ……、えぇ……?


 ……ブチッ、と頭の中でナニカが切れた。


「フッッザケんなあぁっ!! いきなりよだれ垂らしたヤツが目の前にいたら誰でもああなるわこのボケェ!!」


「はあ? だからって本気で殴ることはないだろ? テメェゴリラかよ」


「誰がだこの変態野郎!!」


「お前こそ結構なぼっちの不良女じゃねぇの」


「誰が不良だ!!」


「ぼっちはいいのか。

 …気の強い女は好みだけどなぁ……。 あんまり騒がしいのは黄色い歓声レベルで大嫌いなんだ、助けなきゃ良かったかもなぁ……」


「誰が……! ………助けた?」


「あん?」


 そうだよ、私は何で生きてるんだ?

 私の最後の記憶は、今目の前で首を傾げている男と屋上ダイブしたところまで……。


「……ねぇ、私達って生きてるの?」


「………それ以外何かあるか?」


 いや、普通に落ちたはずだから、大怪我ならまだしも、こんなにピンピンしてるのはおかしいでしょ。コイツも一緒になって落ちたんだから死んだはずで……。


「だぁかぁらぁ~、俺が助けたって…、というかそうだ。 お前だよ、お前」


 面白いモノでも見るように笑って、ピッと指差してくるコイツの行動にちょっとイラッとくる。

 私は何だ、と口を開こうとして、彼の次の言葉に私の言葉は口から出てこなかった。




「お前、人間か?」




 ………。


 …………。


「………………は?」


「いや、は?ってなんだよ。 自分のことだろ?」


 やれやれ、というように呆れたようなため息をつくところ悪いけど………は?


 ……だめだ。質問の意味が全く分からない。


「私が人間以外の何に見えんの?」

「いや、ただの(・・・)人間じゃねぇだろ?」

「即答か」


 …いやいや、ただの人間ですが。超能力とか霊能力とか何も持っていませんが。むしろそういったものに憧れるごくごく普通の一般人ですが。


 なのにコイツは馬鹿にするように笑って「間違いなく一般人じゃねぇよ。自覚ねぇの?」とかぬかしやがるシバくぞコラ。


 …今までを振り返るも、他人よりも多少不幸だよなって自覚できる位の普通のもので、私がただの人間じゃないという心当たりはない。

 しょうがないので、不本意ながら目の前の男に聞いてみることにした。…不本意ながら。


「じゃあ、私のどこが普通じゃないの」


「ん? やっぱり自覚ねぇの? 俺が見えてること自体が普通じゃないけど」


「……頭、大丈夫? アンタ」

「俺はお前の頭の方が心配だけど?」


 ……いや、人じゃん、アンタ。

 確かに見た目はアルビノで珍しいなって思ったけど、服も着てるし、喋るし、普通に人じゃん。


「俺は決して人間に見えない、絶対な。 なのに俺が見えている時点で人間じゃないのに人間だとお前は言う。 矛盾だろ? 俺は結構そういうヤツ好きだから首突っ込んでみたけどさぁ、流石にちょっと怪しいだろ?」


 「2回も痛いヤツ喰らったし」と薄く笑いながら頬をさするコイツはそう語った。


 ……じゃあ何?この人で言うと私は人間じゃないの?自殺未遂と思ったら人外宣言?

 ……というかちょっと待てよ、それだったら一体コイツは……?


「……じゃあ、アンタ…誰?」


 一体コイツは何者なんだ。

 訝しげに私が尋ねると、男はニタリと笑った。


「暴力で忘れてたわ、まだ自己紹介してなかったな。 んで、悪いんだが本名は自称人間には教えられねぇんだ。 まあ、名前にちなんでウサギとでもラピッドとでも呼んでくれ─────


 ─────俺は悪魔なんでな」



「………悪魔?」



 どうやら私は自称悪魔に助けられたようだ。


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