次の日です
日付は変わって、次の日の翌朝……。
二人は、小型のボートをレンタルして沖のほうに来ていた。
「ぷはぁ!ん~、なんにもないなぁ」
ボートのすぐ近くの海面から顔を出したのは、ファントムだった。
先ほどから、ずっと潜って海の中の捜索活動をしているようだ。
短パン型の水着姿で、頭には水中ゴーグル、腰には小型のバッグを付けていた。
「うぇ~……。あたまいたいぃ~……」
一方、こちらはチャネル。
いつもの服装で、ボートの上に寝転がっていた。
頭には、氷袋が乗せてあり、非常に気分悪そうにしていた。
「だから、無理について来なくていいって言ったのですよ……」
ファントムは、呆れ顔でボートに戻り、置いてあった飲み物を手に取った。
「ん~、昨日の夜がまずかったのよねぇ~。酒場であんな余興があるなんて……」
「『全員酔いつぶしたら一週間宿泊費無料』でしたっけ?ただでさえ、朝に僕と飲んでいたのに……無謀すぎますよ」
「へへへ……でも、一週間ただになったでしょ……」
そう。
チャネルは昨晩、宿屋もかねる酒場のイベントに参加したため、二日酔いになってしまったのだ。
「そんなに状態が酷いのなら、なんで部屋でゆっくりしていないのですか……」
ファントムは、はぁ~っとため息を吐くと、ボートに積んであった荷物の中から【酔い止めの薬】と【水】を取り出した。
「これを飲んで、ゆっくりしていれば気分が良くなると思います」
「ううっ、ごめんねぇ~……。なにか手伝えることがあるかなって思ってついて来たんだけど、足ひっぱちゃったね……」
「別に良いですよ。気持ちだけいただいておきます」
ファントムは、にっこり笑うとゴーグルをしっかりと顔に装着した。
「それでは、また潜ってきますので、荷物の番お願いしますね」
しゅたっと片手を挙げると、ファントムは元気よく海の中に飛び込んだ。
ゆらゆら揺れるボートに横になったままチャネルは、一言「最っ低」と呟いた。
……それから、数十分後。
捜索を終えたファントムがボートに戻ってきた。
ざばぁっと海からあがると、そこにはチャネルがハープを持って座っていた。
「ん、薬が効いたようですね」
「あはは……。ごめんね、迷惑かけちゃって。だいぶ良くなったし、私も探すの手伝うわ」
「あ!それなら先に聞きたい事があったのですよ」
「えっ、何かしら?」
ファントムは、水分を補給しながらチャネルに聞いた。
「この辺りに伝説や武勇伝みたいなものはないんですか?」
「伝説?」
「ええ、例のおとぎ話の中にも出てくるでしょう。『宝石の地の吟遊詩人に武勇伝を創らせました』って。【サンフレアレッド】を探した時にもその地に伝わる物語がありまして、それがヒントになったので……」
チャネルは、とんとんと人差し指で頭をつつきながら片目をつぶった。
何かを思い出すときのくせである……。
やがて、頭をつつく手が止まると、チャネルはゆっくりとハープを奏でた。
「……あったわ。タイトルは【兵士長クリンパス】」
ハープを弾きながらチャネルは、ちらりとファントムを見つめた。
ファントムは、それに頷き返すと『お願いします』と呟いた。
チャネルは、にっこり頷いてから物語を歌い始めた。