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World of color  作者: 青依 瑞雨
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秘密の話です

「昔々、ある国に女王様がいました。

 女王様は、綺麗なものが大好きで世界中の様々な綺麗なものを集め、自分を着飾っていました。

 ある時、女王様は大臣に命じました。

 『世界で一番綺麗なものを探してまいれ!』大臣は困りました。

 世界で一番綺麗なものが分からなかったのです。

 大臣は、村のはずれに住んでいる国一番の魔法使いに相談をしました。

 『どうか、世界で一番綺麗なものを教えておくれ』

 魔法使いが、水晶で占うとそこには綺麗な六種類の宝石が浮かんできました。

 星が創った自然の奇跡【オールカラーズ】。

 すぐに大臣は、兵隊を使いその宝石を捜しました。

 探索は、十数年続きました……。

 そして、見事すべての宝石を手に入れることに成功したのです。

 宝石の色は【青、赤、黄、緑、白、黒】の六色。

 女王様は、大変喜んでその宝石に名前を付けました。

 探し当てた場所にちなんだ素晴らしい名前を……。

 青い宝石は、【スカイマリンブルー】。

 赤い宝石は、【サンフレアレッド】。

 黄色い宝石は【サンダースターイエロー】。

 緑の宝石は【リーフマウンテングリーン】。

 白い宝石は【スノークラウドホワイト】。

 黒い宝石は【ナイトダークブラック】。

 女王様は、この素晴らしい宝石を探し当てた兵士たちと大臣を褒め称え、宝石の地の吟遊詩人に武勇伝を創らせました。

 そして、女王様は次の命令を大臣にしました。

 『この宝石のもっとも素晴らしい使い道を探してまいれ!』

 大臣は、また困って魔法使いに相談しました。

 すると、魔法使いは言いました。

 『この宝石は色の原石で最高の絵の具になる。宝石を純水に入れれば、たちまち世界最高の絵の具が完成するだろう。その絵の具を用いた絵は、まるで現実のような素晴らしいものとなるであろう』

 大臣は、さっそく女王様に伝えました。

 大臣の話を聞いた女王様は大喜びして、絵の具を創りました。

 女王様はすぐに最高の画家たちを集め、自身の絵を描かせました。

 その絵は、とても素晴らしい出来となり、女王様は【ミッケルンノ】と名付け部屋に大切に飾りました。

 続いて、女王様は自分の部屋の壁に絵を描かせようとしました。

 しかし、大臣は大慌てで反対をしました。

 魔法使いにこう言われたからです。

 『ただし、絵は必ず紙に描くようにしなさい。さもなくば、とてつもない星の怒りに触れるであろう』

 しかし、女王様は大臣の言うことを聞きませんでした。

 そして、画家たちにこう命令したのです。

 『色に合わせたものを我が部屋の壁に描け!』

 画家たちは、悩みながらも壁に絵を描きました。

 赤い色で炎を……。

 すると、異変が起きました。

 なんと、部屋が燃え始めたのです!

 こうして、火は燃え広がりあっと言う間に、城ごと国をひとつ燃やしてしまいました。

 女王様は、言いました。

 『なんと!紙に描かなければ、現実となる魔法の絵の具なのか……』と」

 ぽろんっとハープをはじき、ファントムに一礼するチャネル。

 ファントムは、満点の笑顔で拍手を送った。

「素晴らしい、すっごく上手かったですよ」

「どうも。でも、これって『約束は守りましょう』と『物は正しく使いましょう』ってのを子供に教えるための作り話でしょ?」

 褒められて少し照れているのか、チャネルは顔を赤くしてぽりぽりと頬をかきながら言った。

「普通は、そう思うでしょう?でも、違うのですよ」

「はぁ?何を根拠に言ってるの?いいかげんに……」

 しなさいと、チャネルは言葉を続けるつもりだった。

 が、その言葉はファントムの言った驚きの言葉によって遮られた。

「僕が生まれた町の教会に実物の【ミッケルンノ】があったんですよ」

「えっ!それは、本当なの?」

 それは、本当に意外な言葉だった。

 おとぎ話の中の絵【ミッケルンノ】が実在していたと、この青年は言うのである。

 チャネルは、興味津々でファントムのほうに身を乗り出して次の言葉を待った。

「はい、本当です。ただ、専門家は偽者って言ってましたけどね。……確かに、実際はただの真っ黒に焼けた紙でしたからね」

「はぁ?それで、あんたは信じたの?その絵を?」

 チャネルは、な~んだと興味を失ったように、椅子に座りなおすとくいっとワインを一口飲んだ。

「もちろんです。これでも一応画家ですからね。あの絵には、なにか感じるものがありましたよ」

 えっへんと胸を張って答えるファントム。

 チャネルは、いかにも胡散臭そうなものを見る目でファントムを見ていた。

「あ~、信用してないのですね?」

「そりゃあね、普通はそんなもの偽物って思うでしょう」

「……まぁ、見てない人には分からないと思いますよ。城とともに焼けてしまったとはいえ、最高の絵の具で描かれた絵。ものすごい迫力がありました」

 その絵のことを思い出し、うっとりしながら話すファントム。

 チャネルは、まだ胡散臭そうな目で見ていた。

「ふ~ん、……で?結局、あなたはその【オールカラーズ】を探し出すことに成功したの?」

 チャネルにとっては、なんでもない質問だ。

 始めから、答えが分かっている簡単な質問である。

 しかし、帰ってきた答えは意外なものだった。

「はい、まだひとつだけですけどね」

 ぶぅ~!!!!!!!!!!!!!!

 チャネルは、驚きのあまり口に含んでいたワインを吐き出してしまった。

「はぁ~!?本当に!?」

 すっとんきょんな声を出して、ファントムの胸倉に掴みかかるチャネル。

 驚いて、気が動転しているようである。

「ええ、えっと……。これがそうです」

 がくがく揺さぶれながら、ファントムは、いつものようなへらっとした笑顔で懐から小瓶を取り出した。

「これが……魔法の絵の具?」

 チャネルの目の前には、血や炎なんかよりもっと紅くもっと朱くもっと赤い液体が入った小瓶があった。

 その赤は、言葉で言い表せないような完全で完璧な赤色だった。

「はい、僕が一ヶ月前にある火山の山頂付近で発見した赤の原石【サンフレアレッド】……から創った絵の具です」

「うわぁ……凄い……としか言えないわね」

 チャネルの目から見ても、それが魔法の絵の具であることがすぐに分かった。

 本当に、ただただ赤いのだ。

 それ以外に説明のしようがないくらい赤い。

 思わず、チャネルはその素晴らしい色に見惚れてしまっていた。

「どうです?信用しました?これが、真実ですよ」

 にやりと笑い、今度はファントムが胸を張り、鼻をふふんとならした。

 その言葉に、はっと我に返ったチャネルは、素直に頭を下げてファントムに謝った。

「ううっ、ごめんなさい。私、完璧に疑っていたわ」

「いえ、分かってくださればいいのです」

 ファントムは、にっこりと笑い、ワインをくいっと飲んだ。

 すでに床には、十数本のワインの空瓶が転がっている。

 二人とも、顔はほのかに赤いがしっかりと意識は保っていた。

 やはり、どちらもかなりの酒豪のようだ。

 そんな中、チャネルは酔い覚ましに部屋の窓を全開にしながら、ファントムにこう聞いた。

「ねぇ、そういえばなんでそんな大事なこと、さっき会ったばかりの私に話したの?」

「ああ、そんなの簡単ですよ」

 ファントムは、空の酒瓶を片付けながら言葉を続けた。

「あなたは、瞳が綺麗だ」

「なっ!!」

 ぼっ!っと顔を真っ赤にするチャネル。

 それに気が付かないファントムは、そのままのほほんと理由を続けた。

「長年、冒険家をやっていると分かる事ですが、目を見ればその人の良し悪しが分かります。チャネル、あなたの瞳はただ純粋な好奇心に溢れている。嘘や偽りがない素直でまっすぐな瞳です。だから、安心して信頼して話しました」

「あ、ああああんた平気ですごいこと言えるのね……」

「へっ?何かすごいこと言ってました?」

 チャネルは、真っ赤に火照った顔を風で冷やすために、窓から外に顔を出していた。

 そんなチャネルをよそに、ファントムは空瓶を片付け終えた後、先ほどの椅子に腰掛けて自分の荷物をあさり始めた。

「……なにやってるの?」

「え~っと、荷物整理ですよ。しばらく、この町に滞在すると思うので簡単に荷物をまとめてから、宿屋を探そうと思いまして……」

「ふぅ~ん……。ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 机の上に置いてある赤の絵の具を見たチャネルは、さっきからどうしても気になっていることを口にした。

「あのさ、その友人の絵を見せてくれない。あと、その魔法の絵の具の効果っていうのをさぁ~。お願い~」

「……さっきから、うずうずうずうずしていると思ったらそういうことですか。ん~、まぁいいでしょう。」

 ファントムは、はぁ~っとため息を吐き、鞄の中から一枚の絵と筆を取り出した。

 そして、窓を閉めカーテンをした。

「あれ?暗くしないといけない理由があるの?」

「ええ、暗いほうが分かりやすいですし、使用しているところを誰かに見られるとまずいですから……」

 そう言うと、ファントムは、小瓶の中の絵の具を少量だけ厚紙の上に垂らした。

 そして、赤い絵の具を筆に付けると、机の上においてあった銀の燭台の蝋燭に筆を近づけた。

「!!!!!!!!!!!!?????????????」

 ゆっくりと、ファントムは空間に炎を描いていく。

 そして、その絵が完成した瞬間!

 なんと、蝋燭に火が灯ったのだ!

「これが、魔法の絵の具の効果です。どこにでも描き込む事が可能で、それは現実と化します」

 ファントムは、驚いて目を丸くしているチャネルに淡々と説明していく。

 そして、次は大切に布に包まれた一つのキャンパスを取り出した。

「唯一は、紙に描いた場合のみ現実となりません。紙に描かれた場合のみ、【絵】として機能するからのようです」

 ファントムが、ばっと布を取り払った瞬間、辺りが光で包まれた。

 そのキャンパスには、夕焼けの丘の風景が描かれていた。

 そして、その中で唯一色を付けられていたのは、夕焼けの赤色。

 真っ赤な夕焼けの太陽が光り輝き、カーテンで覆われた暗い部屋を明るく照らしていた。

「うわぁ~……すごい綺麗……」

「これが、友人の絵です。どうです?私が、完璧に仕上げたいと言ったのが分かってもらえましたか?」

 ファントムは、ばばっと手早く絵を布で包むとカーテンを開けた。

 そして、窓を全開にすると気持ちのいい風が入ってきた。

「はぁ~、うんうん。凄い!すっごいよぉ~!!」

 目をキラキラさせ、チャネルはその絵と絵の具を絶賛した。

 その様子に、ファントムはにっこりと微笑みを浮かべた。

 しかし、その微笑みもチャネルの次の言葉ですぐに崩れることになった。

「うん、決めた!私、あなたを手伝うわ!」

「はぁ?」

 突然のチャネルの申し出に、今度はファントムがすっとんきょんな声を上げた。

「この港町にしばらく滞在って事は、ここにその【オールカラーズ】があるってことでしょ?うん、楽しそう!」

 ぽりぽりと頭をかきながら、複雑な表情を浮かべるファントム。

 チャネルは、そんなの無視してさらに言葉を続けた。

「それに一人より、二人で探したほうが効率がいいでしょ?」

「ん~、……ありがたいけどやめておきます」

「え~!!なんでよ!!」

 ファントムの言葉に、不満の声を漏らすチャネル。

 ファントムは、ふぅ~っと息を吐き出すと真面目な顔になりこう言った。

「僕がやっているのは【宝探し】です。そんな、お気楽にできるものじゃないんです」

 ファントムの言うこの【宝探し】と言うのは、冒険家の仕事の1つである。

 彼のような冒険家の主な収入源は、【依頼】と【宝探し】だ。


【依頼】とは……

 斡旋所から、依頼された仕事をやってお金をもらう事。

 依頼内容は、魔物退治や薬草探しなど様々である。

 依頼の難易度は、A~Gまであり、難易度が高い依頼ほど、報奨金は高い。


【宝探し】とは……

 大昔の遺産や海に沈んだ宝石などを探してお金にする事。

 こちらはすでに探索により色々荒らされていたり、危険な魔物の生息域での活動が多かったりと、【依頼】より遥かに危険が増す仕事である。

 最低の難易度は、依頼ランクで言うとB以上。

 ただし、一攫千金が確実に狙える魅力がある。

 また、【ボスクラス】と言われる知識のあるもっとも危険な魔物は、宝物を集めたり、守る習性があり、これと戦い宝物をゲットするのも【宝探し】である。


「【サンフレアレッド】を手に入れたときには、死ぬか生きるかの大冒険でした。宝石のあった場所には、ボスクラスの魔物もいました。分かってください、女性をそんなところに行かせたくはないです」

 ファントムが辛そうに演技をして伏せていた顔を上げると……そこには、さらに瞳を輝かせていたチャネルがいた。

「きゃ~~~~~~~~!!ボスクラスの魔物ぉ~~~~!!最高じゃない。それこそ、冒険よね~~」

「……ちょ、っチャネル!僕の話を聞いていましたか?」

「聞いてたわよ。ねぇ、お願い。私を連れてって。私って伝説とかにも詳しいしさ~。足手まといにはならないと思うんだ」

『さぁ~てと……』

 甘えてくる猫のようにしつこいチャネルを前にファントムは考え込んでいた。

『どうやって、説得しようか?』

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