内緒の話です
「安心しなさい!私は、口は堅いわよ」
胸を張ってのけぞっているチャネルを見て、ファントムはくすりと笑って話を続けた。
「美色の原石【オールカラーズ】ってご存知ですか?」
「ああ、あの伝説の宝石のこと?確か、世界で一番綺麗な原色を持つ宝石の総称だったわよね……」
とんとんと頭を指でつつき、チャネルは片目を閉じて言った。
このしぐさは、チャネルの何かを思い出すときのくせのようなものである。
「さすがは、吟遊詩人の卵ですね。伝説について勉強をしているだけはあります。そうです、その宝石です。」
「はぁ?まさか、その宝石があなたの捜している【完璧な色の原料】なの?」
こくり。
ファントムは、チャネルの言葉に無言で頷いた。
一瞬の間の後、チャネルは大声を上げて笑い始めた。
「あ~はっはっはっはっは!!冗談はやめてよ、【オールカラーズ】なんて作り話に決まってるじゃない。ただの伝説よ。そもそも、実際にあったら価値ってどれくらいか知ってる?」
ファントムは、大声を上げて笑い続けるチャネルを困ったような顔で見つめ、静かに首を横に振った。
「【伝説空想武器道具全集】って本で読んだんだけど、時価数億円よ!そんなものが本当にこの世にあったら、世界中の冒険者が一攫千金を夢見てとうの昔に探し終えてるわよ」
はんっと鼻から息を吐き、チャネルはふんぞり返った。
実は、この件に関してだが、チャネルの言ったことのほうが正しい。
住んでいる知性ある生き物の半分が冒険家のまるでRPGのような世界。
皆が富や名声を目指していると言っても過言ではない。
事実、新聞には、連日多くの冒険家たちの活躍が載っていた。
最近では、もう隠れている財宝やBOSSクラスの魔物なんてないんじゃないか?と言われているほどである。
しかし、ファントムはチャネルの言葉に首を横に振り、こう答えた。
「いえ、ところがそれはありえないのですよ。」
「はぁ?どうしてよ?」
ファントムの意外な言葉に、チャネルは眉をひそめた。
「えっと、チャネルは【オールカラーズ】って本当にあると思いますか?」
「そんなの、絶対に無いに決まっているじゃない!」
「ほぅ。何故、そう思うんですか?」
ファントムの問いに、チャネルは口を尖らせて答えていた。
どうやら、かなりいらいらしているようだ。
「そんなのおとぎ話にしか登場しないからに決まってるでしょ。……あると信じるのは、子供くらいじゃないかしら?」
腕を組み、そっぽを向くチャネル。
……彼女がイライラするのもしょうがないだろう。
実は、ファントムの言っている【オールカラーズ】は、チャネルの言ったとおり、おとぎ話の中に登場するものなのだ。
私達の世界で例えるなら、かぐや姫に出てくる【金の生る木】、シンデレラに出てくる【ガラスの靴】などである。
さすがに、本当に【金の生る木】や【ガラスの靴】といったものが在ると信じて、探すものはいないだろう。
ところが、このファントムという青年は、それが在り、自分は探していると言う。
チャネルが、ファントムを馬鹿にして笑い飛ばしたり、イライラするのは当然なのだ。
しかし、チャネルにそう馬鹿にされても、ファントムは真剣な顔で言葉を続けた。
「そうです。有名なおとぎ話……つまりは所詮は伝説の中の空想のもの。誰もがそう思っているために探す人がいないのですよ。それと、もうひとつ。……情報が圧倒的に少ないんです」
「情報?」
あまりにも、ファントムが真剣に話すので、チャネルは、少しうんざりしながらも話に付き合っていた。
彼女は、父親の酒飲み相手(絡み酒)をさせられていたので、とっても聞き上手だったりする。
おそらく、チャネルでなければ、もうファントムの話を本気で聞いていなかっただろう。
そんな事とは露知らず、ファントム青年は真剣にチャネルに話を続けていた。
「ええ、実は【オールカラーズ】の情報っていうのは、さっき話に出たおとぎ話しかないのですよ。……もし知っているのなら、すみませんが歌っていただけますか?」
「え?【オールカラーズ】のおとぎ話を?」
「はい」
突然の申し出に、少しキョトンとしながらもすぐに気を取り直すと、チャネルは、近くにかけてあった ハープを手に取った。
「ええ、いいわよ。え~っと、お話のタイトルは【飾る女王様】だったわね?じゃ、いくわよ」
「お願いします」
ファントムの合図をスタートに、チャネルは物語を歌にして語り始めた。