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World of color  作者: 青依 瑞雨
12/15

BOSSクラスの魔物です

リアルで色々あったため、投稿が遅れました。申し訳ございません。

 洞窟の中はとても暗く、二人は頭にライトをつけて進んだ。

「……む、妙ですね」

 先行していたファントムが、洞窟の中を進んでる途中にぽつりと呟いた。

「うん?どうしたの、ファントム?」

「いや、この洞窟ですが……入り口が見つけづらく、とても小さかったじゃないですか。それなのに、この中は奥に進むにしたがって広くなっているのです。自然にできたというより、人工的な感じがしませんか?」

 チャネルは、ファントムの言葉を聞いて、頭につけたライトで来た方向を照らした。

 ……なるほど、確かに、ファントムの言う通りだった。

 入り口は、一人ずつしか通れなかったほど狭かったのだが、今では、七人ほど横に並べるであろう広さになっている。

「ん~、でも人間には造れないでしょう?ここらへんの海っていつもは荒れてるんだし。しかも、こんな海底になんて……」

「ええ。ですから、【人】には無理です。……用心して進みましょう」

 チャネルは、ファントムの言葉に無言で頷くと、ファントムの後に続いて奥のほうへ泳いでいった。

 しばらく泳いでいくと、二人は鍾乳洞のような空気のある空間に出た。

「うわぁ~、ここって深海だよね?」

 口に銜えていた魔法具を取り、勝手に水面からあがるチャネル。

「ああ!後から着いて来て下さいと言ったのに……」

 ファントムは、勝手に行動するチャネルの様子に慌てて、水面からあがった。

 足場となっているのは、ヌメヌメとした岩場だ。

「そんなことより、どうなってるの?ここって、海の底だよね?なんで、光があるの?」

 チャネルは、上のほうを指差してファントムにこの場所の説明をお願いした。

 チャネルの指差す方向からは、深海にある洞くつの中にもかかわらず光が差していた。

「ああ、あれは海草の一種【フラッシュカーニバル】ですね。深海で光合成をする珍しい海草です。自らの光で光合成をして酸素を作り出し、それで呼吸をしているのですよ」

 ファントムは、洞窟の空間の上いっぱいに生息している【フラッシュカーニバル】に違和感を覚えた。

 【光】、【空間】、【酸素】、これは間違いなく何者かが生息している証拠だと感じたからだ。

「【フラッシュカーニバル】は、密閉された場所によく使われるのですよ。海水さえ与えれば、酸素と光を一緒に取れる非常に便利なものですからね」

「……ほぉ~、ずいぶん詳しいな人間。何百年ぶりの客かな?」

「「!?」」

 突然の言葉に驚き身構える二人。

 声は、鍾乳洞のさらに奥のほうから聞こえた。

「誰なの?こんなところにいるなんて……」

「女、それはこちらの台詞だ。何故、ここにいる?」

 ずしん、ずしんと重い足音を鳴らして、奥からその声の主が姿を現した。

「うわぁ……」

「……なるほど、これが『甲冑の戦士』ですか」

 姿を現したのは、一匹の巨大な魔物だった。

 その姿は、青い色をした蟹。

 ハサミを4本も持っていて、体中トゲトゲの甲羅で覆われていた。

「もう一度聞こう、何故ここにいる?」

 ファントムは、水中メガネを外し、いつもの眼鏡を掛けた。

 それは、ファントムのいつもの戦闘態勢だった。

「【オールカラーズ】の青色【スカイマリンブルー】を探しています。ここにあるはずですが、知りませんか?」

「ほぅ、男。貴様、捜し当てたか。……ここが初めてか?」

「……いえ、赤色を所持しております」

 魔物は、ファントムの言葉に驚くと、遠くを見て口を開いた。

「そうか。男、名前を聞こう」

「ファントム・シェイク。画家です」

「……なるほど、絵の具が目的か。して、何に使うつもりだ?」

「完成させたい絵があるのです」

 魔物とファントムは、それっきり黙りこみ、お互いの目を見た。

 しばらく後、魔物のほうがふぅ~っと息を吐き出して、ニヤリと笑みを浮かべた。

「良い目だ。ファントム、お前が悪人でないことは分かる。……確かに、【スカイマリンブルー】はここにある」

「では、くださいますか?」

「ふふふ、我がそう簡単にくれてやると思うか?赤色を取ったときに知っておるであろうに……」

 じりじりと魔物がファントムとチャネルににじり寄ってくる。

 そして、ハサミを大きく振りかぶり、攻撃態勢をとった。

「え~、頂戴よ!別に悪いこと目的に使うんじゃないんだからさ~」

 そんな魔物の行動に不満の声を漏らすチャネル。

 その可愛らしい少女の発言を聞いて、魔物はフッと鼻で笑う。

「そうもいかんのだ。我は、あれを守るためだけに存在し、あれのおかげで生きていけるのだから!!」

 そう言うと、魔物はそのままハサミを振り下ろした。

 二人の立っている位置に大きな轟音とともに大穴が開く。

「ふぅ~、せっかちな方ですね。こちらの準備ができるまで待っても良いでしょうに……」

 チャネルをお姫様だっこし、ファントムはいち早くその場より逃げていた。

 そして、チャネルを降ろすと荷物の中からナイフを取り出した。

「チャネル、あなたも戦闘の準備をして下さい。相手は、BOSSクラスの魔物です。さすがに、庇いながら戦うことはできません」

「ってか、あの魔物さん、話せば分かってくれそうな感じがしない?無駄かな?」

 まともにくらったら確実に死んでいた一撃を目にしても、チャネルはまだ話し合いでなんとかなると思っているようだ。

 ファントムは、そんなチャネルの言葉に少しあっけにとられたが、やがてにっこりと笑った。

「BOSSクラスの魔物って言うのは知識を持った魔物です。こちらの言葉も分かりますし、あちらの言葉も理解できます。ですが、魔物には私たちに理解できない使命というものがあります。赤色を取りに行ったときに、そこの魔物と何回も話し合いましたが、結果は戦闘になりました。『宝石を守る』という使命を全うすることが、彼らにとって生きるということなのですよ。だから、無駄じゃなく無理なんです」

「そういうことだ、女。我は、宝石を守ることで生を感じる。すまんが、頼まれてもやることはできん」

 魔物は、大きな体を揺らし二人に近づいていく。

「それでは、戦闘開始といきますか!」

 ファントムは、眼鏡をくいっと上げると荷物の中からナイフを取り出した。

 その数、全部で六本。

「得意は、投剣術です。いきます!」

 ファントムは、指の間に挟んだナイフのうち二本を魔物の目に向かって投げつける。

 続いて、間髪いれずに四本を魔物のハサミと体の関節部分に打ち込んだ。

「甲羅は硬そうですが、覆われていない部分はどうでしょうか?」

 ファントムは、正確に魔物の目と甲羅の隙間を狙った。

 普通の魔物だったら、目はつぶされ、ハサミは解体されていただろう。

 しかし、ファントムは忘れていた。

 この魔物は、BOSSクラスだということ。

 そして、クリンパスの物語にはこうあったことも……。


 『 繋 ぎ 目 さ え も 通 ら な い 』


「……っ!!しまった!?」

 がしゃんと音を立てて、目と全ての関節部が鎖帷子のような網目状の甲羅で覆われる。

 ファントムが飛ばしたナイフは、それらに弾かれて地面に突き刺さった。

 残念ながら、ダメージを与えるには至らなかったようだ。

「数百年前に訪れたクリンパスという名の男も、同じ事をやったが……我には、刃物の類は通用せんぞ!」

 魔物は、ハサミをファントムに向かって連続で振り下ろす。

 しかし、ファントムはそれらの攻撃をひょいひょいと軽やかなステップで躱していた。

「致死級の一撃でも、そうも大振りでは当たりませんよ?ノーダメージです」

 ファントムは、にこにこと笑いながら軽口を叩くが、その額に汗がにじんでいた。

 余裕をもってかわしているが、BOSSクラスの魔物が放つ一撃は致死級。

 画家というひ弱な職業のファントムにとって、当たれば即死である。

 魔物は、そんな一撃必殺の一撃を何度も連続して放ってくるのだ。

 汗をかかないわけがない。

「それにしても、見事なりファントム!先ほどのそなたの攻撃、一寸の狂いもなかった。その動きも実に素晴らしい」

「それは、どうも!」

 ファントムの手に魔力がともると、先ほど地面に突き刺さったナイフが、彼の手の中に移動した。

 ナイフ自体が破壊されない限り、持ち主の元へ戻ってくる【帰還】の魔法が施された特別製のナイフであった。

 一心不乱に攻撃を避けつつ、ナイフを戻し、ひたすら投げ続けるファントム。

 そんなファントムのポテンシャルの高さに、魔物は感嘆の声を漏らした。

「その若さで、よくぞここまでの強さを手に入れたと感心するぞ。フッフッフ……どうやら我も本気を出さねば、止められぬようだな!!」

 その言葉を皮切りに、魔物の攻撃のスピードが徐々に上がっていく。

 びゅんびゅんとハサミが空を切るたびに、洞窟に斬撃の痕が出来ていく。

 そんな魔物の攻撃を軽やかなステップでかわしつつ、ファントムはあるものを完成させた。

「……攻撃を褒めてくださった事は、大変嬉しく思います。ですが、僕は画家です。投剣術より絵を描くことのほうが得意なのです」

 ファントムは、地面に筆を滑らせる。

「なっ!?ナイフは、囮か!!」

 魔物は、愕然とした。

 自分の足元には、赤色の絵の具で炎が描かれていた。

 なんと!ファントムはナイフを投げつつ、攻撃を避けつつ、地面に絵を描いていたのだ。

 足の指に挟みこんだ筆で、炎の絵を……。

「正解です。そして、避けつつ、僕はあなたをその絵の中心までおびき寄せました」

 ファントムは、足の指に挟み込んでいた筆を手に取ると、仕上げを一筆描きあげた。

「完成です」

 ファントムの言葉と同時に魔物が一気に炎に包まれる。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

「蟹の丸焼きの一丁上がりですね……。 !? これは!!」

「ふん!!」

 大きな掛け声とともに、魔物の体を包んでいた炎が掻き消される。

「くっ!これならどうです!」

 ファントムは、思い切り飛び上がると、天井からぶら下がる鍾乳石の根元を持っていた筆で一閃する。

 すると、赤い絵の具の線が引かれた部分が溶け切れて、鍾乳石が魔物めがけて降り注ぎ始めたのだった。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

 しかし、その攻撃も魔物には無駄だった。

 魔物は、4つのハサミを思い切り振り回すと、自らに降り注いでくる鍾乳石を粉々に粉砕する。

「くっ、さすがはBOSSクラスですね」

「炎は惜しかったな。だが私は、水属性の魔物だ。火は、効果が薄い」

 魔物が鍾乳石を破壊している間に、ファントムは地面に下りる予定だった。

 空中という身動きができない無防備な状態。

 その状態で攻撃されるのは、非常にまずかった。

 だから、目一杯の鍾乳石を落とす攻撃は、自身の無防備な時間を無くす働きも計算したものだった。

 だが、ファントムは下りた場所を計算に入れていなかった。

 そこは、先ほど水面から上がった場所よりヌルヌルした場所だった。

「!?」

 ヌメりに足を取られて、膝をつく。

 とっさに身動きが出来ない一瞬の隙。

 魔物はそこを攻撃してきた!

「しまっ……!!」

 ガゴォン!!

 凄まじい爆音と共に砂煙が舞い上がる。

 魔物のハサミは、確実にファントムがいたところに命中していた。

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