画家です
「いよいよですか」
港町よりはるか沖の海の上。港町へ向かう船のデッキで、一人の青年が呟いた。
「あそこにあるんですね……。【スカイマリンブルー】が……」
「よぉ、にいちゃん。ここにいたのかい」
青年の後ろの船室のドアからおじさんがでてきた。歳は50~60といったところだろう。
貫禄とたくましいひげからこの船の船長であることがうかがえる。
右手には、酒瓶。左手には紙のような物を持っていた。
「ああ、船長。ありがとうございます、なんか無理やり乗せてもらっちゃって……」
「なぁ~はっはっはっは!!いいってことよ!まさか、こんなにいいもん描いてもらえるなんてよぉ……。感謝したいのはこっちだぜ!ありがとよ!」
ぐいっと酒瓶から酒を飲むと、じっと左手に持っていた【肖像画】を見つめた。
その肖像画には、可愛らしい少女の絵が描いてあった。
栗色の髪の毛に赤い瞳の12歳ほどの少女の絵である。
「あんたの絵は、本当に素晴らしいよ。まるで、生きてるみたいだよ」
「あはは、そんなに褒められるとうれしいです。描いたかいがありましたよ」
青年は、照れくさそうに笑うとじっとおじさんの顔を見た。
おじさんは少し涙ぐみながら、まだ絵を見ていた。
「孫娘が生き返ったようだよ。特にこの瞳なんか命を宿しているようだ」
確かに、その絵には船長が言ったとおり、赤い瞳にすさまじい迫力があった。
まるで意思を持ち、こちらを見つめているような……そんな感じさえする。
その絵を見て喜ぶ船長に、ニカッと笑いかけ青年は船長にこう言った。
「ああ、その赤色は特別製なんですよ……。すごく苦労して手に入れた【赤】なんです」
魔物と人間が戦い争う世界【世竜界】。
その世界のはるか南にこの港町はある。
港町【グラスコト】。
別名【海の幸の町】―------
この港町には、様々な海の幸が獲れる。その為、世界中の美食家たちが集まる町として有名だ。
しかし、それ以外は何もないため、危険や名声や財宝を求める冒険家達が来ることはめったにない。
そんな港町に、冒険家で【画家】である青年がやって来たのだった。
ブオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!
そして一隻の貨物船が、港町【グラスコト】へ到着した。
「ありがとうございます、船長。お世話になりました」
深く頭を下げてから、青年は船長と握手を交わした。
「おう!またな!元気でやれよ」
「はい、では失礼します」
もう一度、頭を下げてから、青年は港町の人ごみに消えて行った。
船長は、荷を降ろす船員たちに何かを命令した後にもう一度、手の中にある肖像画を見た。
そこの隅には小さく『ファントム・シェイク』と描いた人の名前が記してあった。
「ファントム……画家が旅に出る時代とはなぁ~」
船長はにやりと笑った後、絵を胸ポケットにしまってぼそりと呟いた。
「名前、わすれねぇぜ。いつか、世界中に羽ばたいていく名だろうからな!」
船長は、青年『ファントム』の成功を祈ってじっと目をつぶった。