双子
0-2話目です。
花梨と双子の出会い。
感情がない双子が登場します
生まれた時から施設と呼ばれる所に子供達がいた。白衣を着た大人達が毎日、毎日、子供達を使い実験していた。
生まれたばかりの赤子、捨てられた幼児、そして人工的に作られた子供。
それらは感情も何もかも抑えつけられた状況の中で、様々なことを教えられてきた。様々な薬や訓練により、頭脳も肉体も限界まで鍛え上げられていた。
そして毎日のように子供たちを選び、買っていく大人達。
「耳の良いのがほしい」
ある日の夜、施設に現れた男、茎谷が研究員にそう言った。
「では、この部屋にいる子供がいいでしょう」
「……あの奥にいるのは、双子?」
「えぇ。一人だけを作ろうとしたら、副産物で生まれましてね。ですが、条件の耳の良さ、それと肉体的にもとても素晴らしい水準をしております」
二人は部屋の中で、何やら複雑な暗号式を解いていた。見た目は男の子、花梨とさほど年は離れていないように見えるが、頭脳は全く違うようだった。
「名前は?」
「ここでは番号で呼んでいます。608と610です」
「何故、一つの飛んでいるんだ?」
「本当はもう一人居たんですが、体が実験に耐えられなくなったので、破棄しました」
「惨いことをするな」
「なんと言われようと、構いません」
「……私も同じくようなものか。あの二人を貰おう。言い値でいい」
「ありがとうございます」と、男が双子の値段を提示してきた。茎谷はそれにサインをする。
「調整などしますので、少々お時間貰ってもよろしいですか?」
「分かった、明日の朝に迎えを寄越す。それでもいいか?」
「はい、大丈夫です。では明日よろしくお願いします」
その日、608と610は茎谷に買われた。
翌日の昼。
運転手に迎えられていた双子は、茎谷家の屋敷に到着した。何の感情もないのか、大きな屋敷を前にしても、驚くような素振りすら見せない。
屋敷に着いて、茎谷が双子を迎えた。
「二人には娘を守ってもらう」と、言うが双子は何も反応しない。
「娘はもしかしたら、君たちのとの距離を取るかもしれない。その時は、娘の声を聞いて守ってほしい」
茎谷は双子を連れ、花梨の部屋へと向かう。
花梨の部屋に茎谷が現れた。すでに花梨は起きて、家庭教師に勉強を教えてもらっていた。
「失礼、花梨と話がしたい。少し外してくれるか?」
「かしこまりました」と、一度頭を下げると、部屋から出ていく家庭教師。
入れ替わるように、茎谷と二人の男の子が入ってくる。
「どうしたんですか? お父様」
「昨夜のことは覚えているか?」
「……はい」
「この二人が、これからお前を守る」
茎谷が後ろにいる双子を紹介する。双子は数度、瞬きはするが、それ以外の表情は動かない。薄い水色の瞳にも光が入っていないように思えた。
「守る……。別に大丈夫だと思いますけど……」
「この前のような事が起こるのは、流石にもう避けたいからね」
「お迎えさえ来てくれれば……」
「私の心臓が持たない」
「……分かりました」
「彼らには、花梨の言う事を聞くように言ってあるから、何かあったら言いなさい」
「……はい」
茎谷は仕事があるらしく、部屋から出ていく。けれど、双子は花梨の部屋から出ていこうとしない。
「……名前は?」
「名前?」
「……番号ならあります。僕は610」
「僕は608」
初めて口を開いたから、声が発せられる。しっかりと受け答えをしてくれた事に、花梨は驚いたが、それ以上に名前の無いことにも驚いた。
「……名前、無いんだ」
「608、610と呟くだけでも、あなたの声はもう覚えたので、どこにいても駆けつけます」
「そう、ありがとう……。名前、付けてあげる。だから、もう番号は忘れて」
「あなたが言うなら」
608は表情一つ変えずに答える。その答えに、少し寂しげな表情を見せる花梨。二人のことをよく見ると、そっくりだが、違う所もある。
「……花梨。私の名前」
「花梨、様」
「そう、よろしくね」
「はい」
花梨と双子の出会い。これから、双子は花梨が死ぬまで守り続ける。