黄色い瞳
0-1話目?という形でしょうか?
過去編の始まり。
過去編と言ってますが、この過去のお話だけしか考えていないので、少し投稿したら完結という形になります。
空には三日月がある。暗がりの町には小さな三日月の明かりが灯される。
それを大きな屋敷の部屋から眺める花梨。まだ7歳の彼女だが、だいぶ大人びている雰囲気を醸し出していた。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。「どうぞ」と、声を掛けると、父親の茎谷右近が顔を覗かせた。
「花梨、まだ起きていたんだね」
「はい。少しお月様が見ていたくて」
「そうかい。今から、出られるかな?」
「今から?」
「あぁ」
「……どちらへ?」
「行ったら分かるさ」
寝間着姿の花梨は急いで着替えをする。面倒だったからか、白いワンピースに袖を通す。
家の前に出ると既に黒塗りの車が準備されていた。運転手が後部座席の扉を開けて待っている。
「お待たせいたしました。お父様」
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
父親の隣に座ると、車が動き出す。夜も11時が過ぎているためか、花梨は少し眠気が襲ってきた。
「花梨、着いたら起こしてあげるから、少し寝ていなさい」
「でも、」
「大丈夫。私が側にいるから」
父親は花梨の肩を抱く。すると花梨は寝息を立て始めた。
花梨には母親はいない。数年前に病気で亡くなってしまった。父親はずっと側に居たいと思っているが、仕事の都合上、側にいることが出来ない。
「昨日の傷がまだあるね」
「申し訳ございませんでした」
「いや、お前が悪い訳じゃない」
昨日、学校からの帰り道。花梨は誘拐未遂に遭ってしまった。その時の傷が腕に少し残っていたのだ。
車がある施設で止まった。花梨を起こし、施設の中へと入っていく。
「ここは?」
「お前を守ってくれる人を探すために来たんだよ」
「守る?」
施設へ入ると、白衣姿の男が現れた。「お待ちしておりました、茎谷様」と、声を掛けると奥へと入っていく。
ガラス窓が張り巡らされた部屋が、無数に広がっている。その部屋の中には白い服を着ている子供たちがなにかをしている。
「こちらの部屋からご案内させていただきます」
一つの部屋の前に止まる。父親は部屋の中にいる子供たちの説明を白衣姿の男から聞く。
花梨はその話を聞いていなかった。ただ一人の少女に目を奪われていた。白い部屋の中に白い服。机の前に座り、微動打にしない子供たちは、様々な容姿をしている。だが花梨は瞳が黄色い一人の少女を見つめる。
「花梨、この中から一人選ぶとしたら、誰がいいかな?」
「選ぶ?」
「あぁ」
「……あの、子」
指さした先には、瞳が黄色い少女。しかし、「あの子供はもう予約が入っておりまして……」と、男に断られてしまう。
「花梨、あの子は無理だろうだよ」
「……そうですか。なら、誰でもいい」
「そうかい。じゃあここで待っていて。選んでくるから」
「はい」
父親は男の案内で別の部屋も見に行く。花梨は用意された椅子に座り、少女を見つめる。
「あの子がいい」
独り言は誰にも聞こえない。何故、少女に惹かれているのか分からないが、目が離せない。
しばらくすると、父親が戻ってきた。
「花梨、帰ろうか」
「もういいんですか?」
「あぁ」
父親とともに帰るために、立ち上がる。もう一度、少女を見るために振り返ると目が合った。黄色い瞳が、花梨を捉える。心臓が早まるのが分かった。
もしかしたら、これは恋かもしれない。そう思ったのは、花梨が少し大人になってから気付いたこと。




