第二章 サバイバル 2
体育館に行くとズラァっと椅子が並べられていた。
「はぁ~広いなぁ」
雄一は体育館を見回してそう言った。
体育館は雄一の言う通り広かった。バスケットなら同時に六試合出来るくらいの広さが有った。
そんな中既にいくつかのクラスは着席していた。
「二―Bはこちらで~す」
ルネの案内で雄一達も席に着席した。
「しかし、凄い人数だな」
雄一は周囲を見渡す。まだ空席とは言え座席が千席はある。
(ていうか他のクラスもこんな感じかよ)
雄一は周囲のクラスの様子を確認するが、全てのクラスがギスギスしている様に感じた。
やがて全てのクラスが集まり着席する。それと同時に七三分けにした男がマイクを持った。
『え~ただいまより校長兼、理事長である。久我拾名先生が話されます。皆さん静粛にお願いします』
その言葉と共に全員の視線が壇上に向いた。
『ヌヌウ……』
すると壇上脇から紹介を受けた久我が現れた。
(で、でけえ……)
雄一は思わず目を剥いた。まるで山が動いた様なそんな錯覚を受けるほど久我は大きかった。
腰まで伸びた白い髭はまるで戦国武将の様、袴の上からも盛り上がった筋肉が見て取れた。
『おはよう。皆の衆。わしがこの学校の校長の久我じゃ。ほ。ほ。』
髭を撫でながら久我が生徒達を見渡した。それだけで猛獣に睨まれた様に雄一の体が硬直する。
『ほ。ほ。さすがに皆この学校に入学しただけあるわい。良い目をしておる』
久我は満足そうに頷いた。
『お主等は自らの流派を背負いこの学校に入学した。各流派の代表達じゃ。それぞれが自らの流派が最強だと思ってこれまで修練に励んで来たはずじゃ』
(は? 各流派の代表? 何言ってんだ? この爺さんは)
雄一が事情を飲み込めない様子で周囲を見渡した。だが、周囲に座る者達は真剣に久我の話を聞いていた為話を聞ける雰囲気では無かった。
『しかし、皆はおいそれと戦えなかったはずじゃ。自らの最強を信じながらも他者と戦う事は禁じられてきた。じゃがの皆の者。喜べ。この学校でお主等は自らの最強を証明出来るぞい!』
気迫の籠もった言葉だった。状況を理解出来ない雄一が飲まれてしまうほどの。
『この武林高校のルールはシンプルじゃ。強い者が生き残り、弱い者は去る! 最後に立っていた者が勝者じゃ! そしてその勝者の流派が、この武術界を統一する!』
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおう』
低い唸り声が生徒達から上がった。
(は? 武術界を統一? おいおい。俺は普通に学園生活を送るつもりなのに……)
何か異様な空気になってきた会場に雄一は怯えた視線を向ける。
久我はそれに太陽の様な笑みを見せると懐から分厚い巻物を取り出した。
『ブン!』
久我は何故かそれを広げた。長い。まるで道の様に長い巻物が壇上に伸びる。
『各流派の長達の血判状じゃ! ここでの戦いに全て従うと全ての者が同意しておる! 良いか皆の衆!』
久我が拳を握り締めた。まるで岩の様な拳。
『勝てば名誉も地位も金も全て手に入るぞ! そして……地上最強の称号さえも! いいか! 戦え! 戦い抜け! そして勝って全てを手に入れてみよ!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
生徒達から歓声が上がった。それは戦場に出る武士の様だった。
『わしからは以上じゃ。これから戦う場はわしが武林高校で提供してやるわい。あ、じゃが勿論。いつでも好きな時におっぱじめて貰って構わんよ』
久我は楽しそうにほ。ほ。と笑う。
『わしら武術家、常在戦場じゃて』
(俺武術家じゃねえええええええええええええええええええええええええ!)
雄一は頭を抱えた。どえらい所に来てしまったと、ここに転校した事を既にもう後悔していた。
『これにて久我先生の挨拶を終了します。各クラスとも教室に戻りなさい』
七三の男がそう締めくくる久我はゆっくりと壇上から立ち去ろうとした。
「あ、そうそう」
しかし、何かを思い出したかの様に立ち止まると生達を振り返った。
「わしさ。ちょっと思ったんじゃけど幾ら何でも千人は多すぎじゃね?」
「は……久我先生。ではどうしますか?」
七三の男と久我が世間話の様に話す。
「うむ。太平ちゃん。こんなのどうじゃ?」
そう言って久我は七三の男を呼んだ。久我と七三の男はこそこそと何かを話す。
やがて話が決まったのか、七三の男が大きく頷いた。
『ええ~皆さん。厳正な協議の結果。この学校の初めの授業が決定しました』
「どこら辺が厳正な協議だったんだよ……」
雄一が反射的に突っ込むんでいる間にも七三の男の報告は続く。
『皆さんの胸にあるクラスバッチ。それをこれから皆さんに奪い合って貰います』
ざわざわと会場がざわめく。雄一は自らの胸元を見た。するとそこには銀色に輝く二―Bと刻印されたバッチが有った。
『それを一人一つ集めてください。集めた者から体育館を出てよし。もし取られてしまった者はそのまま退学です』
「はあ?」
雄一は七三の男の言った言葉に目を丸くする。それは他の生徒達も同じ様で皆戸惑った様な表情をしていた。
「ほ。ほ。ま、弱い者は去れって事よ。合格率五十パーセント。まあ前哨戦には丁度いいじゃろう」
久我はそう言って今度こそ立ち去った。
『では……開始です』
戸惑う生徒達を残して七三の男が淡々とそう言った。