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常在戦場! 武林高校  作者: 徳田武威
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エピローグ 戦いは武術だけでは無い

 全校武術大会から一週間……大会を制した雄一は――。

 ――病院のベッドで寝転がっていた。

「あ~いてぇ……つうか痛すぎてもう痛いのかどうかもわかんねえ……」

 久我に優勝を宣言されたあの時、雄一はそのままぶっ倒れた。それはもうぶっ倒れたという表現がスッキリするほど、いきなり倒れてそのまま眠った。

 急いで学校が医務室に運び、専門的な装置で検査した所、交通事故に三回ほど遭ったほどのダメージが雄一の体に発見された。

 そのまま緊急手術が行われ、今は病院のベッドの上というわけである。

「ふふ、無理するからですよ。雄一さん」

 そう言って瑠衣は剥いた林檎をフォークで刺して雄一の口元に運んだ。当たり前の様なその動作はまるで妻の様だった。

雄一は顔を真っ赤にして差し出された林檎を咥える。それを瑠衣は満足そうな顔で見た。

「な、何か最近優しいね」

 恥ずかしさを紛らわせる様に雄一はそう口にする。

「ええ。だって雄一さんは私の主人ですから」

「しゅ、主人?」

「そう。主人です」

(な、何だろう。瑠衣って古臭い言葉を使うから良く分からない。これはあれか? 俺のお嫁さんだからって意味か! いや、しかしただ仕えるからって意味かも! それだと勘違いした場合の俺のダメージは!)

 顔は固まったまま様々な思考が雄一の脳裏を駆け巡る。そんな雄一の葛藤も知らず瑠衣は機嫌が良さそうだった。

『コンコン』

 そんな風に二人がイチャイチャしながら過ごしていると病室のドアがノックされる。

「あ、どうぞ」

 雄一は今までの葛藤を一瞬で自分の中に収めると、外に居る人物に向って声をかける。

『ガチャ』

 静かに開かれるドア。その先に立つ人物を見て雄一は――。

「…………あのどなたですか?」

 全く見覚えが無かったのでそう言った。

 病室に入って来たのはワンピースを着たショートカットの少女だった。整った顔立ちをしていてどこか可憐で儚い印象を受ける。

 少女は雄一の言葉を受けてコクンと可愛らしく首を傾げて尋ねる。

「体調はどう? お兄ちゃん」

 その声を聞いて雄一の体がビタッと止まる。そしてわなわなと震えながらその少女を指差した。

「お、お前……まさか……りゅ、龍拳か?」

「うん。そうだけど?」

 雄一の疑問にすんなりと龍拳は答えた。初めから騙すつもりすらなかったと言わんばかりの態度だった。

「あ……もしかして、お兄ちゃん。僕の事が誰だか分からなかった?」

 そう言って悪戯っぽく手をグーにして口元に持ってくると龍拳はススッと雄一に近づいた。

「ふふ、それでお兄ちゃんは女の子の僕に欲情しちゃったと?」

 そう言って龍拳はワンピースの肩の部分をはだけさせた。するとその下から綺麗な肌と白いブラのヒモが現れる。

「バッカ! てめえ違うよ! その~えっと、ちげえよ!」

 見蕩れていたのは確かだったので雄一の言い訳はしどろもどろになっていた。

「……雄一さん」

「え、ちょっと……瑠衣……て、いだだだだだあ!」

 無表情になった瑠衣に思いっきり耳を引っ張られ雄一は涙目で悲鳴を上げた。

「それで……どういった用件です? 佐伯龍拳」

 瑠衣は静かな敵意を剥き出しにそう尋ねる。そんな圧力をそよ風でも受けるかの様に平然とした態度でやり過ごし、龍拳が口を開く。

「うん。僕ね。お兄ちゃんのお嫁さんになる事にしたから」

『……………………………………………………………』

 病室に長い沈黙が走った。

「はぁ? はぁああ?」

 雄一は限界まで目を見開いた。あまりに驚き過ぎて傷口の痛みが全身に走る。

「ちょ、お前! 何言ってんの? マジで!」

「うん。だからお兄ちゃんのお嫁さんになるよ。僕が」

「だから何でそうなる!」

「あ、理由を聞いてたのか~あはっ! だってさ、お兄ちゃんって僕に格闘技を止めて欲しかったんだよね?」

「? まあ格闘技って言うか。人を傷つける事を止めて欲しかったんだけど」

「そうだね。でも、それって佐伯家次期当主の僕に家を継ぐなって事だよ? そんな事をしたら僕の家は潰れちゃうじゃない。だからお兄ちゃんが僕と結婚して佐伯家の当主になれば、全部解決するでしょ? だから結婚するの!」

 子供らしい無邪気な笑みを浮かべ龍拳が雄一の腕に抱きついた。その行為にビキリと瑠衣のこめかみが青筋を浮かべる。

「ちょっと待て! 話が飛躍しすぎている! それならお前の家族で他の誰かが当主になれば良いだろうが!」

「う~ん。佐伯家の当主は一番強い者がなるって決まってるから。僕以外は無理なの。でも僕に勝ったお兄ちゃんなら大丈夫。というか僕はお兄ちゃんと結婚しなかったらまた佐伯家に戻されて戦いの日々を送る事になるよ。今だって、お兄ちゃんと結婚して家をお兄ちゃんに継いで貰うって条件で自由に行動しているんだし」

 そう言って龍拳はヒラリと一回転した。ワンピースを着こなすその様は今の自由を満喫しているようだった。

「な、何だその俺の意志を完全に無視した条件は……」

 だが到底雄一には受け入れられるはずも無く、その場で頭を抱える。

「ふふ、別に良いじゃない。お兄ちゃんは毎日僕の体を好きにして良いんだから。ウィン、ウィンの関係でしょ? それとも、また僕は佐伯家の当主として暴れちゃった方がいいのかな?」

 ニコニコと尋ねる体からは今にも殺気が吹き出そうだった。それに雄一は頭を抱える。

「い、いや……それは困るけれども……」

「やった! じゃあ今日からお兄ちゃんは僕のおうちで暮らしてね!」

 龍拳が再び雄一の腕に抱きつこうとした時だった。

「ちょっと待ちなさい」

 その前に手が差し出された。その持ち主は勿論瑠衣だ。

「何? お姉さん」

「さっきから聞いていれば勝手な事を。雄一様はお前とは結婚できない」

 瑠衣の言葉に龍拳の目が細まる。それは戦闘態勢一歩手前と言った所だった。

「ふ~ん。それは何で?」

「そ、それは……雄一さんはわ、私と結婚するからだ……」

(や、やっぱりそういう意味だったのか……)

 最後の方は何処か恥ずかしそうに視線を逸らしながら言う瑠衣に雄一は胸を高鳴らせた。

「ふ~ん。でもさぁ。お姉さんみたいなおばさんよりは僕の方が良いと思うよ。長く楽しめるし、おばさんは色んな所が緩そうじゃない?」

「ふざけるな。貴様の様な凹凸も無い男か女かも分からないような奴が雄一さんを満足させられるわけが無いだろう」

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』

 瑠衣と龍拳の殺気がぶつかり合い部屋全体が凄まじい圧力に包まれた。雄一は静かに、しかし確かに自分の傷口が開くのを感じた。

「ちょ、ちょっと二人とも待って! 落ち着いて!」

 雄一は慌てて二人の間に割って入った。このまま放置しておけば病室が物理的に破壊される気がしたからだ。

「いててて……」

 しかし、無理が祟ったのか、雄一は床に膝を着く。

「大丈夫ですか! 雄一さん!」 「大丈夫? お兄ちゃん!」

 すると二人が同時に雄一を支えた。雄一はそれに苦笑いを浮かべる。

「はは……喧嘩はよそうよ。俺の為に喧嘩するなんて馬鹿らしいよ。本当に二人とも可愛いんだから。今はちょっと張り合ってるだけだって」

 雄一がそう言うと二人はシュンとした顔で俯いた。

「おい佐伯。今日の所は止めておいてやる。雄一さんのお体に障ると良くないからな」

「……まあ良いけどね。お兄ちゃんがそう言うなら許してあげる」

 二人は雄一の腕を掴んだままそう言った。そして先に離した方が負けだと言わんばかりにがっしりとその腕から離れない。

「雄一さん。私の家に来てくれますよね?」

「お兄ちゃん。僕の家だよね?」

 雄一の説得を受けても結局ライバル心を剥き出しにする二人を見て雄一は。

「はは、はははは……はぁ……」

 戦っている時にも出した事の無い様な重たい溜息を吐いた――。

                                            


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