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常在戦場! 武林高校  作者: 徳田武威
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最終章 戦う心 2

「ふぁ~あ。ねえ? 気付いてる?」

 蛇由がつまらなそうにそう呟く。

「ああ、無論だ」

 それに剣崎が端的に答えた。ミハエルもニコニコと頷く。

「ン~。コノ殺気。何処か懐かしい感じがシマス。これは戦場の感じデスネ」

『コツコツコツ……』

 廊下に小さな靴を鳴らす音が響いた。軽快なはずのその音は、しかしまるで死神の足音の様に不気味だった。

「あれ~三人か~。可笑しいな~残りの二人はどうしのかなぁ~」

 ニコッと天使な様に無垢な微笑みを浮かべ現れた龍拳がそう尋ねる。

「二人は今、絶賛恋愛中だ。残念ながらここにはいない」

「うわぁ~剣崎ってそういう冗談言うんだ~なんか引くわぁ~」

「あはっ残念だな~ハズレの人しかいない。もう早坂君ってば、僕を焦らしてどうするつもり?」

 龍拳は興奮した様に身震いしながらそう言った。

「ハズレかどうか試してみるといい。蛇由。ミハエル。私が行くが異論無いか?」

「? 俺は別に良いけど~。どうしたの剣崎? 何かやる気じゃん」

 いつに無く好戦的な剣崎に蛇由が首を傾げる。それに剣崎は手首のウエイトを外しながら答える。

「ふ……強い者と戦いと思うのは武人の性だろ? それに奴の専売特許がちょっと気にかかっている」

 剣崎は拳を握り締めた。するとまるで鋼の様にキリキリと音が鳴る。

「佐伯流の真髄は五体の硬質化に有るらしいな。だが……俺の琉球唐手も五指の武器化を旨にしている。どちらが本物か試してみたいのさ」

「はぁ……僕は正直三人同時にかかって来て欲しいんだけど。だって、一人一人だと弱すぎて早く終わっちゃうでしょ? あはっ!」

「ほざけ!」

 龍拳の挑発に剣崎は乗った。凄まじい踏み込みと共に一気に龍拳に肉迫する。

鉄貫拳てっかんけん!」

 剣崎が十分に気の練りこまれた正拳突きを放つ。その一撃は容易にコンクリートブロックを貫くほどの威力。

「あはっ!」

 それに龍拳は微笑みながら迎え撃った。簡単な調子で放たれた拳はしかし、凄まじいスピードと人を殺せる威力を持っていた。

『ガギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!』

 およそ人肉同士がぶつかった音では無い、金属的な音が鳴り響く。

「あはっ! 僕と拳を合わせて壊れない人は軍次おじさん以来だなぁ」

「くっ……」

(こ、こいつ……)

 剣崎は痺れる右手を見て驚愕していた。剣崎はこれまで人体を硬質化する訓練を自分の流派の中で誰よりも積んできた。そしてそれは流派一との呼び声も有る。

 そんな剣崎とまともに打ち合って龍拳は平然としている。それは驚異的な事だ。

(……今までどれほどの地獄を……)

 だが剣崎が驚愕したのはそれよりも別の事だった。一合打ち合ったからこそ分かる龍拳の事。

 本来。この体を硬質化する訓練は痛みを伴う。その訓練の方法はシンプルで自分の柔らかい部分を硬い物に打ち付ける。皮膚が破れ、拳が腫れても。何度も何度も砂袋に拳を叩きつける。この修行は格闘技の中でも最も痛い物で、この痛みに耐え切れず途中で挫折してしまう者も多い。

 そんな修行を剣崎は持ち前の精神力で誰よりも数をこなして来たのだ。拷問とも言える苦痛と戦ってきた。

 だからこそ剣崎は驚愕していた。龍拳のその拳の硬さに。こんなに幼い少年が剣崎以上の地獄をくぐり抜けて来たなど、剣崎にとって理解出来ないほどの異質だった。

「まだ壊れないでよ!」

 龍拳が純粋な殺気を撒き散らしながら弾丸の様に迫る。剣崎は唐手の三戦立ちで構え龍拳の拳を腹部で受け止める。

「ぐはぁ……」

 だが龍拳の拳は易々と剣崎の腹筋を貫いた。硬いだけでは無い、タイミング、角度共に見事な一撃だった。

「あれ~肉体を武器化してるんじゃなかったのかなぁ~? 随分痛そう……あはっ!」

 龍拳は鼻歌を歌いながら上機嫌に剣崎を見る。その視線は何処から剣崎を壊そうかと品定めしている様だった。剣崎はその視線を受け止め大きくそして鋭く息を吐く。

「コホォオオオオオオ…………確かにお前は強い。認めよう。その鋼拳。私が今まで戦った中でも最強だ。しかし……ただで負けるわけにはいかない」

 深い呼吸。それは空手の伊吹だった。だが基本のはずのその呼吸法は剣崎が行うとまるでそこだけが静寂に包まれる様な不思議な感覚を周囲に与えた。

「ネル師範の呼吸法と唐手の呼吸法。この学園で練り上げた奥義。とくと味わうが良い」

 グっと……剣崎が拳を構える。それはまるで銃を構えるガンマンの様だった。一撃で決めるという思いがその構えから感じられる。

「あはっ! 付き合ってあげるよ! グッてね」

 龍拳はそれに応える様に同じ構えをした。それと同時に二人の距離がジリジリ縮まっていく。

 やがて……二人の制空圏が完全に重なった。お互いがお互いに攻撃の届く距離、しかしお互いに微動だにしない。

(ただ……無心に――)

 剣崎の頭から全くの雑念が消える。それは明鏡止水の境地。空手に先手無し。ただ相手が攻撃を仕掛けた瞬間に己が全ての力を籠めた正拳突きを放つ。それのみが剣崎の中に存在していた。

『ちゃ……』

お互いの靴が触れた瞬間だった。龍拳は拳を放つ。

「破!」

 同時に剣崎も拳を合わせる。

『バキン!』

 骨の砕ける鈍い音が廊下に響く。剣崎と龍拳はお互いに拳を放ったままの姿勢で止まっていた。

「………………結構楽しめたよ。お兄さん」

 龍拳が拳を引いた。それと共に剣崎がグラッと地面に倒れる。その拳は骨が砕け肉から外に飛び出ていた。

 全ての力を使い果たした剣崎は深く目を閉じたまま目を覚まさなかった。

「剣崎……」

 ギュッと組んだ腕を蛇由は握り締めた。仲間の全力が届か無かった無念さを感じていた。

「蛇由サン。次は私が行ってもイイデスカ?」

「ミハエル……ああ、俺は別にいつでも構わないよ」

 二人は小さく話し合うと簡単に結論を出した。

「あれ? また一人ずつ出るの? 今の戦いで僕とお兄さん達との戦力差が分からなかったのかな?」

 龍拳は不思議そうに唇を人差し指で抑える。それにミハエルが人懐っこい笑みを浮かべる。

「お前コソ。今戦ってそんな事も分からないのデスカ? 私達はワガママデス。お前を倒すのを他の人に渡すほど。お人好しではアリマセン」

「あはっ! 冗談が上手だね!」

 龍拳とミハエルが睨み合う。そして驚く程静かに戦いは始まった――。



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