第六章 全校武術トーナメント開始。 2
『これより武林高校武術トーナメント。第一試合を開始します!』
代表者五人が試合場の中央に並んだ。それだけで会場の熱気が上がる。
『なお、この試合は賭け試合となっております。皆様奮って御参加ください』
「いいのかよ。おい」
雄一が突っ込む。確かに実況の言葉の通りモニターにはオッズが示されていた。
雄一は視線をモニターから目の前の相手に移す。するとそこには三年A組の生徒達が並んでいた。その立ち姿は堂々としており、対峙しているだけで雄一の体は震えた。
(しかし……何だこいつは?)
そんな中、しかし雄一は違和感を感じていた。というか一人だけ明らかにおかしい。
雄一の左前、瑠衣の正面に立つ人物。その人物はとても小柄だった。女性である瑠衣よりも小さい、だがそれ以上に――。
(どうしてフードなんて被ってるんだ?)
雄一が考えた通り、その人物はフードで全身を覆っていた。それはまるでファンタジーに出てくる魔法使いの様。
(こいつなら俺でも勝てるんじゃね?)
雄一は羨ましそうに瑠衣を見た。こんな弱そうな相手と戦えるなんて瑠衣はラッキーだと思った。
「それでは先鋒前へ」
審判の声と共に先鋒の者が一歩前に出る。
雄一の陣営の先鋒はジーパンに革ジャン、目深に帽子を被ったラフな格好の男、蛇由だった。
対する相手はロン毛の優男だった。しかし筋肉で絞り込まれたその体は遠目からも只者では無い事が分かった。
「御堂一ポイント、蛇由二ポイント。始め!」
審判が開始の合図をする。
「一ポイント……」
雄一がポツリと呟く。
(十キロの差が生まれてる。蛇由は勝てるのか?)
「蛇由……聞いた事が無い名前ですね。流派は何ですか?」
御堂が蛇由にそう尋ねる。それに蛇由はふぁ~と欠伸する。
「さあ? 俺も爺さんに教えて貰った事が無いからわかんね」
蛇由はダラリと手を下ろしたそれはおよそ戦う格好には見えない。
「ふ、舐められた物ですね!」
御堂が蛇由に迫る。長身かつ長い腕から伸ばされるそれは左ストレート。華麗なボクシングだった。
『バチン!』
凄まじい衝撃音が会場に鳴り響く。
「くぅう!」
それと共に苦悶の声が上がる。だが、その声を出したのは御堂だった。
「貴様……まさか!」
蛇由の手は未だにブランと下がったままだ。しかしそれでも相手にダメージを与えた。それは――。
「テコンドーか!」
御堂の言うとおり、蛇由が放ったのは鋭い蹴りだった。それも御堂のストレートよりも早いハイキック。
「ふ~ん。そうなの? 知らんわ」
蛇由は相変わらず眠そうに欠伸する。
「蛇由の祖父は韓国人で、テコンドーでは伝説の王者だ。テコンドーは韓国では特殊部隊も習得するほどポピュラーで実践的な格闘術。それを蛇由は幼い頃から指導されて来た。そしてその才は祖父を上回るとも言われている」
雄一の隣で剣崎がそう解説した。雄一はそれに感心した様に溜息を漏らす。
「見事です。しかし、貴方の体には二十キロの負荷がある。スピード勝負では私に分がありますよ! ボクサーよりも早い攻撃をする格闘技は存在しない!」
御堂がステップを踏みつつ一気に蛇由への間合いを詰める。その間合いは蹴りを放つには近過ぎる絶妙の間合いだった。
「あ~そういえば、爺さんに良く錘を着けたまま蹴りの練習をさせられたっけなぁ~」
そんな中、蛇由は思い出に浸るように遠い目をした。そして次の瞬間スッと足が錘など存在しないかの様に上がる。
「馬鹿め。この間合いでは蹴りなど!」
御堂が拳を振り上げる。だが、それを下ろす事は出来なかった。
「ガァ……」
御堂が白目を剥いたまま意識を失ったかの様に倒れた。そしてそれ以降立ち上がる事は無かった。
「一本! それまで!」
審判の号令で試合が終わる。電撃的な幕切れだった。
「え、ちょっと何? 今のどうしたの?」
雄一が隣に居る瑠衣に問いかける。
「今、蛇由の蹴りが御堂の後頭部に決まりました。上半身が全く動いて無かった為、御堂には蛇由が攻撃した事が察知出来なかったのでしょう。その間隙に後頭部への攻撃ではひとたまりもありません」
「そ、そんな事が……」
雄一は自分の知らない間にそんな事が有ったのかと驚愕する。
「蛇由は天才だ。舐めていたのは相手の方だったな」
剣崎が緩みの無い表情でそう纏めた。すると次峰の選手が呼ばれる。
「お~次は私の番ネ。雄一さん。いってきま~ス」
ミハエルが満面の笑みを浮かべて立ち上がる。それはまるで散歩にでも出掛ける様だった。
「気を付けろよミハエル怪我しない様にな」
雄一が心配そうにそう言うとミハエルは爆笑する。
「ハハハ! 大丈夫ヨ、雄一さん。別に相手は鉄砲を持ってるわけじゃないネ。死にはしないヨ」
「そ、そうか……」
基準が既に変なクラスメイトを雄一は見送る。
「神無月一ポイント、ミハイル二ポイント、開始!」
「また一ポイントだと?」
剣崎が険しい顔で呟いたのを雄一は確かに聞いた――。




