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常在戦場! 武林高校  作者: 徳田武威
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第五章 代表者 3

――それから一時間。ひたすら鉄心の映像(格闘技パート、恋愛パート半々)が続き。

「ちょ、頼むから本当に勘弁して……当時、中二病入ってるから俺」

「早く消してくれ。親父の恋愛模様とか見たくない」

 顔を覆いながらうな垂れる親子の姿が有った。

「え~今ご覧になった通り、鉄心さんは素晴らしい方です。武術の技術的な面での指導は出来ませんが、『強さ』ただ純粋な『強さ』の塊が鉄心さんです。皆さんも鉄心さんの様になれる様に頑張りましょう! では鉄心さん。若人達に何か一言」

(あの状態の親父に一言言わせるのか。鬼だなネル先生は)

「え~と皆も中二病には気を付けた方が良いよ……おじさんみたくなっちゃうからね」

「はい! ありがとうございました! じゃあどうぞ鉄心さんは御退場ください」

 鉄心がそう言われトボトボと帰っていく。その姿は十歳くらい老け込んでいた。

「ふふ、相変わらず鉄心さんは可愛いな~。皆さんもそう思うでしょ?」

『…………』

 皆一様にどういったリアクションを取っていいのか分からず黙り込んでいた。それ以前にこのクラスの住人達は元々おしゃべりをする方では無かった。

「でもね。今日は鉄心さんの可愛さを紹介する為にVTRを見せたわけじゃないよ? 皆、このVTRを見て分かったでしょ? 世の中には君達武人が想像もつかない様な人間が居るって事を知って欲しかったの。貴方達は確かにまあまあ修練を積んでいる様だけどはっきり言って理不尽な強さが無い」

 ネルは珍しく威圧的な態度でそう言った。それは言葉自体が重みを持っているかの様に聞いている者に圧し掛かる。

(どうして急にこんな事を言うんだ?)

 しかしそんな中雄一に有ったのは疑問だった。展開が急過ぎると言うか今まであまり俺達の強さに興味が無さそうなネルがこんな事を言い出すのは違和感が有った。

「どうして急にこんな事を言うのか皆疑問だよね? それはね、今日皆に重大な発表があるからなんだ」

 そう言ったネルはいつものふんわりした穏やかな調子に戻っていた。しかし、クラス内の緊張は高まっていく一方だったが。

「明日からこの学校でいう所の試験。全校武術トーナメントが行われます」

『おおぉ……』 

 クラスが俄かにざわめいた。トーナメントという響き、それは武人の血をいやがおうにも騒がせる。

「この武術トーナメントは別に負けたからと言って即、退学になるわけではないんだけど。勿論、最強を求めてこの学校に入った君達ならこのトーナメントがどんな意味を持つか分かるよね?」

 その一言に雄一を除くクラスメイト達の気が張り詰めた。中には明確に殺気を放っている者も居た。

「勿論、卒業までに真の最強決定戦は行われるけど、このトーナメントでは一応の序列が決められるの。そして勿論強さが全てのこの学園に置いて、序列は絶対、この大会で上位に入った者にはそれなりの特典が与えられるよ」

「例えば?」

 ネルの言葉にクラスメイトの一人が反応した。それにネルは笑みを浮かべる。

「そうだね~例えば十位くらいになれば超高級マンションの一棟くらいは手に入るかな」

「ええ……」

 雄一はそれを聞いてドン引いた声を漏らす。高校生の強さ自慢でマンション一棟って、どんな次元の話だといった感じであった。

「じゃ、じゃあ一位は?」

 雄一は好奇心を抑えられずそう聞いた。するとネルは可笑しそうににっこりと笑う。

「そうだね~例えば雄一君は金閣寺とか興味有る?」

「興味有るって言うか……知ってはいますけど……」

(それが何?)

「手に入るよ。君が望むなら金閣寺が」

「えぇ……ええええ……」

(ま、全く欲しくない……しかし重要文化財が手に入るって、どんな世界だ……)

 最早金が手に入るとかそんな次元の話では無かった。ネルには冗談を言っている様子が無く事実を語っている様にしか見えなかった。

「う~ん、皆もしかして勘違いしているかも知れないけど。この学校はね。最早魑魅魍魎の遊び場と化しているんだよ? 冗談では無く今、世界中の権力がこの学校に集まってきている。久我先生だからそれをコントロール出来ているんであって、もし久我先生が居なかったら君達は平穏な生活を送れないよ。確実に学校外で君達の命を狙う連中が出てくる」

 雄一の腕に鳥肌が浮かぶ、自分が如何に危険な状態にいるのかを急に聞かされ、恐怖を覚えた為だった。

「まあそんなわけで、この学校には強大な影響力があるとして、そんな中行われる一大イベントがこの全校武術トーナメントってわけ」

 ネルが説明したトーナメントの重要性を雄一は理解した。しかし具体的な事が分からないのでネルの言葉を待つ。

「じゃあここまで理解した所で全校武術トーナメントについて説明するね。全校武術トーナメントそれはクラスから五人を選抜して戦う団体戦になっています」

(クラスから……五人?)

 ネルの言葉を聞いて俯きがちだった雄一がガバッと顔を上げた。雄一の居るBクラスは大体三十人くらい。この中で五人選抜されるという事は雄一がメンバーになる可能性は限り無く低い。

「まあこの五人で他のクラスと戦っていくってわけだね。まあ勿論、ただの試合じゃないからそのつもりで、久我先生の事だから色んな趣向を凝らしていると思うよ。ふふ」

 ネルが楽しそうに笑う。それはまるで普通の学校の体育祭の説明をしている様だ。しかし、三ヶ月間通っていた雄一にはそれがろくでも無い事が分かっていたが。

「選抜方法は?」

 雄一の背後から主人公声と言うか、やたら色気の有る美声が響いた。振り返るとそこには声に相応しいシュッとした色男の姿がある。雄一がミハエル以外にまともに話せる男の一人だった。名を剣崎清明けんざきせいめい。雄一が見てきた中で瑠衣、ミハエル、剣崎、蛇由へびよしは化物揃いのクラスメイトの中でも群を抜いて強かった。

 剣崎の言葉にネルはふふと得意げに笑う。

「それは先生が今までの成績を加味して決めま~す。ていうかメンバーはもう決まってま~す」

 ネルが教壇から安っぽいメモ帳を取り出した。それを聞いてクラスメイト達がざわつく。

(あんな安っぽい紙しか無かったのか)

 雄一は別のところが気になっていたが。

「じゃあ発表するね~一人目、剣崎君」

 皆の心の準備が整わないうちにネルはさっさと発表を始めた。らしいといえばらしいのだがそれにクラスの空気は追いついていない。

「ま、まあ……剣崎ならば」

「ああ、奴は古来からの実践的な沖縄唐手を完全に使いこなしている。確かに脅威的な武術家だ」

 クラスメイト全てが武術の達人、もしくは天才児の為、手放しの賞賛では無かったが、そんな者達から文句が出ないほど剣崎の実力は確かな物だった。

「二人目、瑠衣ちゃん」

 ネルが二人目を読み上げる。その名前を聞いて雄一は隣に座る瑠衣を見る。

 瑠衣は呼ばれて当たり前だと言わんばかりにネルの方を静かに見ていた。雄一はそれにクスッと笑う。

「凄いじゃん。松尾さん」

「当然です。早坂君の護衛を務める以上、この学園で一番強いのは必須条件ですから」

(頼もしいなこりゃ)

 雄一は苦笑いを浮かべて顔を逸らす。確かに瑠衣はこの四ヶ月間雄一を完璧に外敵から守り抜いていた。それはもう過剰な程に。

「三人目、ミハエル君」

「オオ~私ですか? ありがとうございま~す。故郷の父に報告しま~す。無線で。ふふ、ここ笑う所ですヨ?」

 ミハエルが立ち上がり陽気な様子で周囲に笑顔を振りまいた。雄一から見てこのロシア人は全く空気という物が読めない人種だった。

「四人目、蛇由君……って今日もお休みか~もう! 出席日数足りなくなっちゃうぞ~?」

 ネルがプンプンと腰に手を当ててわざとらしく怒った。ネルの言うとおり蛇由という生徒は今教室には居なかった。

 こうしてネルの発表も四人を終えた。残る枠は一つ。各門派の看板を背負った生徒達の緊張感は雄一の肌に突き刺さるほどぴりぴりとしていた。

「それでは最後……五人目は……」

『ごっくん……』

 クラス中が息を呑んだ。雄一も自分が呼ばれる事がまず無い事は分かったが、固唾を呑んで状況を見守った。

(俺は呼ばれないよね……頼む)

 何だか嫌な予感がしてそう心の中で願った。そしてついにネルの口が開く。

「後藤君!」

 ネルがビシッと二列目に座る後藤を指差した。それに雄一はほっと胸を撫で下ろす。

(良かった……)

 肩の力を雄一は抜い――。

「と、見せ掛け早坂雄一君!」

『ドックン!』

 雄一の心臓が大きく一回鼓動した……。

(な、何ぃ……ふぇ、フェイントだとぉ!)

「何だと!」

「早坂雄一が代表? 納得出来るか! そんな物!」

 クラスメイト達が騒然となりだした。それもそうだろう。雄一だって信じられないのだから。

「皆~ほら静かに~先生が話している時はちゃんと聞かないといけないんだよ~?」

 ネルが幼稚園児でもあやす様な口調でそう言った。だがそれは完全に逆効果だった。

「ふざけるな! どうして早坂なんだ! どう見たって実力は下の下。ただ単に親の七光りに過ぎないだろう!」

 フェイントを仕掛けられた後藤が席から立ち上がり声を荒げる。

「強いから」

 しかしそれに対するネルの返答はこれ以上無いほどシンプルな物だった。

「それ以外に理由なんて有る?」

 微笑んだその笑みに悪意も作為も無い。だがその笑みには有無を言わせないだけの力が有った。

「今回は取りあえず私のトップファイブを選んだつもりだけど、まあ後藤君の言うとおり、私の見る目が無い可能性も有るよね。だから選ばれなかった皆にもチャンスをあげるね」

 ネルは人差し指をスッと立てた。

「一つ目は今選ばれた者達に自らの力で勝つこと。そしてもう一つは……」

 ネルが次いで中指を立てる。

「私に勝って自らの実力を認めさせる事だよ」

 その言葉と共に部屋の重力が上がったかの様に重いプレッシャーが生徒達に圧し掛かった。

(お、おい……ちょっと待てよ)

 ネルのプレッシャーに机に突っ伏しながら雄一は別の意味で汗を流す。

(これじゃあ明らかに俺が狙われるじゃねえか!)

 選ばれたメンバーの中で明らかに雄一は一番弱かった。ネルの出した条件じゃ今日から格好な的になってしまう。

「ネル先生」

「ん? 何雄一君?」

「俺、辞退したいんですけど」

「え? 何でかな?」

「いや、俺弱いですし、あんまりそういう大会とか興味無いんで」

「え~そうなの……じゃあ、辞める?」

 意外とあっさり出た提案に雄一は顔を輝かせる。

「辞められるんですか?」

「うんうん。辞められないよ」

「辞められないのかよ!」

 雄一は机を叩いて悔しがる。さっきからネルに振り回され続けていた。

「もしわざと負けて代表を譲ろうとしたらペナルティだからね。そうね~負けたら先生と卒業まで毎日組み手するからね! 先生本気出しちゃうから」

 ネルはそう言って机を軽く叩いた。するとそれだけで恐ろしく頑丈な机に罅が入る。

「わ、分かりました……負けません」

「そう! その意気よ雄一君。先生の進退もかかっているんだから、頑張ってね!」

 最後の方は雄一には全く関係ない内容だったが、突っ込みたい気持ちをグッと堪える。

「はい。じゃあこれで全校武術大会の説明は終わりよ。それじゃあ皆次の授業は道場でやるから移動の準備をしてね」

 ネルは書類をトントンと纏めるとさっさと教室から出て行った。教室には何とも言えない空気が流れている。

(どうするんだ……これ)

 雄一はそんな空気の中、自分に向けられる殺気に溜息を吐いた。瑠衣が居るから教室内では安全だろうが、もし一人にでもなったら容赦無く襲われるだろう。

(別に興味なんて微塵も無いのに)

 金閣寺なんて雄一は欲しいとも思っていなかった。ただ望みはこの学校を平和に卒業し、一流企業に入社して平穏な一生を送りたい。ただそれだけの事なのだから。

「早坂君。行きましょう。早くしないと次の授業に遅れてしまいますよ?」

「あ、ああ……分かったよ」

 瑠衣に促され雄一はのろのろと体を起した。そして気の重さを背負っている様な動作で瑠衣に連れられて教室から出て行った――。



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