第五章 代表者 2
「おいおい。結構な人数が集まってるじゃねえか」
ニヤっと不敵に笑う男。短髪だが髪がふさふさな若き日の鉄心の姿が有った。
「早坂鉄心。貴様の命もここまでだ」
その鉄心の周囲には空手の胴着を着た屈強な男達が百人ほど居た。そしてそのどれもが今直ぐにでも鉄心を殺そうかと言わんばかりの殺気を放っていた。
「へへへ、ちょっと看板を奪ったくらいで大人気ないぜ。仮にもお前ら武術家だろ? プライドとかは無いのかよ」
相手を挑発する様に鉄心は堂々と笑った。その姿からは百人を目の前にしているとは思えないほどの余裕が有った。
「黙れ貴様! 何の恨みが有って我ら史銘館を襲った! 貴様に敗れたせいで我ら史銘館は空手会の地位を失ったのだぞ!」
代表なのだろう男が血管を浮き上がらせながら叫んだ。それに鉄心は唾を吐き捨てる。
「けっ。てめえら史銘館の門下生六人が女子高生を無理やり襲った。そんで手前ら史銘館はそれを揉み消しやがった。それが理由よ」
「ふざけるな貴様! 正義の味方にでもなったつもりか! その件と貴様に何の関係が有る!」
「関係? 関係なんてねえよ……ただな」
鉄心は睨みつける様な目で周囲を見た。それだけで視線の先の男達は体を硬直させる。
「気にいらねえのよ。無力な女を数人で襲い掛かる手前らみてえのがよぉ。手前らそんな事をする為に強くなったのかよ? そんな奴らを庇う為に武術を学んだのかよ? 俺はなぁ。ただの喧嘩屋だが手前らみてえに性根の腐った武術家って奴がなぁ……」
鉄心は地面を強く踏みしめそして――跳んだ。
「大嫌いなのよぉおおおおおおおおおおお!」
振りかざした拳は大振りでとても武術を嗜んだ物では無かったが、しかしそれは百人のリーダー格の男の顔面に減り込んだ。
「ぐふぅ……」
鼻血を噴出しながら男が倒れる。相当な手練だったろうに、鉄心の有無を言わせぬ速攻だった。
「かかってこいやぁあああああああああああああああ!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。一斉に百人が鉄心に襲い掛かる。
だがそんな中で鉄心の存在は圧倒的だった。まるで蟻の群れに表れた象の様に圧倒的な力で周囲を蹂躙していく。
相手がガードしようとお構いなく、そのガードすら吹き飛ばす鈍く重い一撃。それはまさに鉄その物。その戦い方は自らの身を守り、相手に一方的に攻撃を加える事を旨とする武術へのアンチテーゼだった。
それから十分後。鉄心の周囲に立っている者は居なかった。自らも百を越える打撃を喰らいながらも、鉄心は鉄を地面に打ち付けたかの様に立っていた。
「ペッ! 糞、くだらねえ連中だったぜ」
鉄心は口の血を乱暴に拭うとゆっくりと歩き出す。それは孤高という言葉が相応しい後ろ姿だった――。




