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常在戦場! 武林高校  作者: 徳田武威
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第三章 戦う理由 10

「すっかり遅れてしまいましたね」

 現在時刻は十時五十分。学校にはとっくに遅刻している時間だった。

「あ~今日はサボりたいな」

 制服姿の雄一がボソリとぼやく。

「駄目ですよ。早坂君には武林高校の覇者になるという使命があるのですから。どうするのです。またこの間みたいに急な戦いが始まったら、不戦敗で退学なんて私は嫌ですからね」

 怠惰な雄一を咎める様に瑠衣が人差し指を立てて注意する。

「いや、ていうか松尾さんも寝てたじゃん。同罪じゃね?」

「私は普段使用人に起こして貰っていますから。自分で起きる習慣は無いんです。ただ昨日は……その、は、早坂君が居たせいで、し、使用人が気を遣ったといいますか……部屋に入って来なかったんです!」

 真っ赤な顔で瑠衣にそう言われ雄一も何の事を言っているのか思い当たり顔を赤くする。

「そ、そっか。それならしょうがないな」

 それからしばらくぎこちない空気が流れながらも学校への道を二人は歩いた。最寄りの電車を降り、学校まで後少しといった所だった。

『おい! お前! さっき何て言った!』

 路地裏から響く怒声。それは明らかに危険を孕んだ声だった。

「何だ?」

 雄一がその声に反応する。しかし隣に居る瑠衣は冷めた表情だ。

「不良同士の喧嘩でしょう。私達が関わる問題ではありません」

『はは。怒らせちゃいましたか? でも本当の事を言っただけだけどなぁ~』

 それに続いて聞こえて来たのは幼い声。明らかに不良と絡まれるタイプの人間の声では無かった。

「子供の声だ……松尾さんちょっと俺行ってくるわ」

 そう言って雄一は踵を返すと声のした方に歩き出した。そんな唐突な雄一の行動に瑠衣は慌てた様に後を追う。

「ちょっと、待ってください! どうして早坂君が見ず知らずの人を助けに行かなければならないんですか!」

「え? どうして助けに行っちゃ行けないんだ?」

 瑠衣の言葉に逆に戸惑った様に雄一が聞き返す。それに瑠衣は言葉を詰まらせた。

「ど、どうしてって……早坂君は戦うのが嫌いだったはずでは?」

 体育館での事を思い、瑠衣はそう口にしたするとそれに雄一はあっさり頷く。

「嫌いだよ。でもそれと子供を助けない事は関係ないだろ?」

(な、何を言っているの……この人は?)

 昨日の体育館とはうってかわって、積極的な姿だった。それに瑠衣は戸惑いを隠しきれない。

 瑠衣がそんな風に逡巡している間に雄一は声のした方にさっさと移動してしまっていた。そうなってしまっては置いて行くわけにも行かず瑠衣は雄一の後を追う。

「ふざけんじゃねえぞ糞ガキ。俺達が手を出さないとでも思っているのか? あぁ?」

 路地裏に入り雄一達が見た光景はシンプルといえばシンプルな物だった。茶髪に染めた男達三人と、壁に押し当てられる様にして囲まれた華奢な少年。

 誰がどう見てもカツアゲしている様にしか見えない。実際、男達は殺気だっていた。

「おい! 何とか言えコラ!」 

 中央に居た男が少年の襟を乱暴に掴んだ。そして顔を少年に近づける。

「ははは、参ったな~これは、これなら僕が何をしても正当防――」

「おい! やめろ!」

 そんな不穏な空気を切り裂く様に雄一の叫び声が路地裏に響いた。

「ああん?」

「?」

 襲っていた方と襲われていた方、双方がその声に反応する。視線の先、そこには雄々しく立つ雄一の姿が有った。

「何だてめえ! 関係ねえだろ! 殺すぞ!」

 男の一人が突然の乱入者に激昂する。雄一はしかしそれに怯まない。

「男三人で子供からカツアゲかよ。みっともないぜお前ら」

「ああん? 何だと!」

 雄一の言葉で沸点を越えたのか男が雄一に迫る。そして問答する事無く雄一の顔面を殴った。

「…………」

 しかし、それに雄一は微動だにしなかった。まるでそれがどうしたとばかりに相手を睨みつける。

「満足したか? 満足したならその子を帰してやれよ」

「……! 舐めるんじゃねえ!」

 雄一の言葉に馬鹿にされたと思った男は再び攻撃を加えるべく拳を振りかざす。しかし、それに合わせる様に雄一の拳が男の頬に突き刺さった。

「ぐぁ……」

 その一撃で男は地面に倒れたまま動かなくなった。相手の意識を一撃で断つ。凄まじい一撃だった。

「て、てめえ!」

「ふざけんじゃねえぞ!」

 仲間をやられた男達は初め呆然としていたが、やがて事態に思考が追いついたのか新たに現れた敵に向き直る。

「その子を離せ。これが最後だ」

 雄一もそれに呼応する様にヒートアップした口調になる。それは今まで見せた事の無い好戦的な態度だった。

「うるせえ!」

 それを皮切りに戦いは始まった。卑怯も何も無く男達は同時に雄一に襲い掛かる。

「おらぁ!」

 雄一は男達に殴られても構う事無く殴り返した。その一撃は男達とは比にならないほどの威力で、一撃で男達を行動不能にした。

「ペっ!」

 雄一は殴られて出血した口から血を吐き捨てる。終わってみれば数秒で雄一は男達の事を倒していた。

(……強い)

 雄一の後ろで見ていた瑠衣は驚いた様な顔で雄一の背中を見ていた。雄一の戦いぶりは体育館で見た逃げ腰の時とは明らかに違っていた。

「おい。大丈夫か?」

 雄一は襲われていた小柄な男の子に笑いかける。すると笑いかけられた男の子はふんわりと笑った。

「ふふ、ありがとう。助かったよ」

(あれ……)

 そんな男の子に雄一は違和感を覚える。男の子は何というかさっきまで襲われていたにしては落ち着きすぎていた。

「怪我とかしてないか?」

 しかし、そんな違和感よりも今は男の子の安否の方が大切だと雄一は切り替えてそう尋ねる。

「うん。大丈夫だよ。物も獲られてないし。うん。お兄さんのお陰で僕は無事さ」

「そっか。じゃあまあ気をつけてな」

 雄一は不思議な男の子だと結論付けるとさっさとその場から立ち去ろうとした。しかし、そんな雄一との距離を男の子はぐいっと詰める。

「う~ん。不思議だなぁ~強そうじゃない。けど不思議な力強さがあるなぁ~ふふ」

「あん? 何だぁ?」

 さすがに不愉快になって雄一は眉を顰めた。

「離れて! 雄一さん!」

 そんな時だった、雄一は襟元を掴まれ、ぐいっと後ろに引っ張られる。

「ちょ、ちょっと……どうしたの松尾さん?」

 雄一は若干の抗議のニュアンスを込めて自らを引っ張った瑠衣を見た。

「この男は危険です。私の後ろに居てください」

 だが答えた瑠衣の顔は真剣その物だった。その表情には若干の汗が浮かんでいる。それは体育館で屈強な男達を相手にしていた時でさえ流れていなかった物だった。

「危険って……」

 雄一は周囲に倒れいてる男達を確認する。どう見ても危険な男達は雄一が倒していた。

「そっちではありません! 目の前に居る男、その男が危険だと言っているのです!」

 瑠衣の声に余裕は無い。とても冗談を言っている様には思えなかった。

「へ~お姉さん。勘が良いね。ふふ、でも安心して。今襲おうって気は無いから」

 男の子から出た言葉に雄一は目を丸くする。

「貴様何者だ」

 瑠衣が警戒心を解かずに詰問する。それに男の子は楽しそうに笑った。

「僕の名前は佐伯龍拳だよ」

「佐伯……あの佐伯流のか?」

「ふふ、多分お姉さんの考えで合ってるかな。そういうお姉さんは何者?」

「私は松尾流忍術。松尾瑠衣だ」

「ふ~ん。知らないや。僕って流派とかに疎くてさ~。で? そっちのお兄さんは?」

「え。俺? 俺は早坂雄一だけど……」

「ふ~ん。早坂さんかぁ……ふふ」

 龍拳が再び雄一に近づこうとする。しかし、その前に瑠衣が立ち塞がった。

「早坂君は私の主だ。それ以上近づくな」

「え~そうなの? ふふ、でも……お姉さん少し――邪魔」

 龍拳がそう言った瞬間。その姿が消えた。少なくとも雄一にはそう見えた。

「ぐぎぃ……貴様……何のつもりだ!」

 しかし、次の瞬間には唐突に瑠衣と龍拳が雄一の目の前に現れた。そして何故か雄一の喉元には龍拳の手刀があり、それを瑠衣が止めて居た。

「ふふ、どんな反応するのか気になっちゃって。でも僕の手刀を止めるなんてお姉さん凄いよ。お兄さんの前にお姉さんから食べちゃおうかなぁ~」

 無邪気に笑うその姿。雄一はそこでようやく自分が龍拳に襲われたのだと理解した。

「早坂君に手を出す物は全力で排除する。くぁあああああああああああ!」

 雄一が見ている前で瑠衣が特殊な呼吸を始めた。完全に臨戦態勢だった。

「ああ、ちょっと! ストップ! ストォオオオオオオップ!」

 雄一は強引に二人の間に割って入ると二人を引き剥がした。それは猛獣の間に割って入るに等しい行為だったが。雄一の頭にそんな事を考えいてる余裕は無い。

「二人とも落ち着いて! 何なの! 子供と女の子がはしたないわよ!」

 必死すぎてオカマの様な話し方になる雄一。しかしそれが功を奏したのか二人は取りあえず構えを解いた。

「何というか、君は強いみたいだね?」

 雄一は龍拳にそう尋ねた。それに龍拳は可笑しそうに笑う。

「まあ、お兄さんよりは強いかもね」

「そうか……まあ何にせよ、俺がした事は余計なお世話だったみたいだな。でもあんまり喧嘩をするのは良くないと思うぞ?」

「そうかな? 僕はとっても楽しいけど」

 龍拳の言葉に雄一は深い溜息を吐いた。それは龍拳への説得を早々に諦めた物だった。

「そうかい。取りあえず俺達は戦う気は無い。それじゃあな。行こう松尾さん」

「え、あ、はい」

 平然と帰る雄一に戸惑いながらも瑠衣は着いて行った。その間にも龍拳への警戒は怠ってない。

 龍拳はそんな二人を楽しそうに眺めていた。それは友人を見送る幼い子供の姿だった。

 やがて、雄一と瑠衣の姿が完全に見えなくなった。すると龍拳はにたぁっと笑う。

「ふふふ、早坂さんか。ふふふ…………」

 楽しい玩具を見つけた子供の様に龍拳は体を揺らしながら静かに笑い続けた。


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