第三章 戦う理由 8
システマが有名になってきました。今も公園で練習しているんでしょうか?
『サンサラサン……』
木々が風で揺れる音が静かに流れる。
そんな音を聞きながら、縁側で跋彩は月を見ながら酒を飲んでいた。
「お父様」
「ん? 瑠衣か」
跋彩は振り向く事無くそう答えた。それに瑠衣が頷く。
「まあ、座れ」
跋彩は自分の隣をポンと叩いた。父の上機嫌を珍しく思いながら瑠衣は隣に座る。
「雄一殿はもう寝たのか?」
「はい。私の部屋に寝かせて来ました」
「そうか」
跋彩はそう言うと嬉しそうにお酒を一口呑んで御猪口を置いた。
「瑠衣。お前は雄一殿を見てどう思った?」
跋彩が唐突に瑠衣に質問を投げかける。瑠衣は想定していなかった問いに内心動揺した。
「す、素晴らしい方だと思いました」
父の入れ込み様からそう答えるのが最善だと思い瑠衣はつかえながらそう口にする。
「ふむ。では武術家としてはどうだ?」
跋彩の言葉に瑠衣の背筋がピーンと伸びた。
「…………技と体、双方とも未熟かと。正直才能があるとは思えません。私の護衛無しで武林高校で生き残るのは難しいでしょう」
瑠衣の分析に跋彩は頷く。
「確かにそうだな。雄一殿は未熟だ。それは正しい。しかし、才が無いと言うのは誤っている」
「え……しかし」
(お世辞にも才能があるとは言えない。体も確認した。確かに良質だけど特別優れた筋肉でも無かった)
瑠衣ほどの実力があれば、一目裸を見ればそのポテンシャルを正確に把握する事が出来た。だから今度ばかりは、父親である跋彩の目が曇っているとしか思えない。
「瑠衣。武術に必要な物とは何だ?」
「え、はい……技と力です」
それは松尾流の理念だった。如何に合理的に敵を倒すか。それだけを追求した武術の辿り着いた先がこれだった。
「ふむ。そうだ。それが松尾流の理念だ。だが瑠衣これはあくまで我々常人の為に作られた物に過ぎない」
「常人?」
(私達が常人?)
普段絶対に言われない言葉を聞いて瑠衣は混乱した。
「そうだ。普通の戦いに置いて勝敗を分けるのは技と力。しかし、ある一定のレベルに達すると精神が力と技を上回る事がある」
「そんな馬鹿な」
瑠衣が首を振る。格闘は突き詰めれば運動力学の結晶だ。そこに精神なんて魔法は通じない。
「確かに並では駄目だ。しかし、私は実際に見た事がある。それが鉄心殿だ。鉄心殿は単純な実力ならば私よりも弱かった。だが達人五十人を倒したその時に見せたあの力は技や力を越えた精神力の産物だった。瑠衣。凄まじい精神力は時に肉体の限界を大きく越える」
跋彩の話を聞いても瑠衣は俄かには信じられなかった。
「その力が雄一殿には有ると?」
「うむ。確実にな……瑠衣。お前は武林高校でそれを見てくるが良い」
父、跋彩に静かに頷くと瑠衣は席を立った――。




