第三章 戦う理由 2
「あれ~折角出席を取ったのに、いきなりクラスメイトが半分になっちゃったね~」
ネルがほんわかと笑みを浮かべながら教室を見渡した。しかし、そんな雰囲気に反して戦いを終えたばかりの生徒達は一部を除いて皆疲弊していた。
「勝ち残った子達はおめでと~これからも宜しくね。じゃあ早速一時間目の授業を始めるよ~」
ネルはそう言って、電子黒板に資料を提示させた。
「一時間目は呼吸法についてだよ。呼吸は全ての格闘技の極意だよね。空手の息吹であったり、中国拳法の気功で有ったり、呼吸を練る事によって体の状態を整えたり、一時的にパワーを増大させたりするの。これは迷信じゃなくて、システマとか軍隊格闘術でも取り入れてる事だから、皆これから最強を目指すなら当然の様にマスターしてよね!」
ネルがニコッと笑う。
(訳が分からない……)
しかし、それを聞いていた雄一はポカンとした表情を浮かべた。それは何故数学とか国語とか普通の教科をすっ飛ばして、こんな呼吸法などという得体の知れない物を教えるのかという疑問だった。
「あ、あの。先生!」
雄一は我慢出来なくなって手を挙げた。するとネルが不思議そうな顔で雄一を見る。
「うん? 何かな早坂君? 先生のスリーサイズなら後で教えてあげるよ?」
「いえ、微塵も興味が無いんで良いです。それよりも、この授業は一体何ですか? 異常な学校だという事は今までの流れで良く分かったんですけど、今って体育の時間ですか?」
「? 今はネル先生の授業だよ」
「いや、そういう事を聞いてるんじゃないです。教科です。先生は何の先生ですか?」
雄一の質問にネルは唇に手を当てて考える様に唸る。
「う~ん。何だろう? 大学卒業して、家でニートやってたら、校長に先生やらないかって言われて、お給料が良かったから先生になったんだけど……取り合えずネル先生は自分の武術の秘訣を教えていれば良いよって言われたよ?」
「言われたよ? って……それじゃあ、この学校にまともな授業を教える先生は居ないんですか?」
「あ~早坂君。今、先生を馬鹿にしたでしょ~プンプン! この学校は最強の生徒を目指す学校だから数学とか国語とかはいらないんだよ~だ。だから先生は皆、武術の秘伝について教えるの。ネル先生の秘伝は凄いんだから! 他の先生と違ってマスターすれば、凄く強くなれるんだよ!」
「はぁ……もう良いです……」
雄一は諦めた様に溜息を吐いた。
(まあ普通の授業が無くてもいいか……卒業さえすれば良い就職先に行けるし……)
雄一はぼ~と疲れた頭で計算する。
(いやいや、でも卒業出来る見込みがあるのか? さっきみたいな事を繰り返したら途中で退学って事も十分有りうる)
さっきの戦いを思い出し頭をガリガリとかく。
(でも辞めたら瑠衣って子が何してくるか分からねえ……素手で相手の顔面を凹ます様な女だからなぁ……)
雄一がチラッと教室の隅に視線を向けるとネルの授業に興味が無いのか、窓から外を見る瑠衣の姿が有った。
「しょうがねえなぁ……」
雄一は疲れた様にそう呟いた――。