第二章 サバイバル 6
「ほ。ほ。一度に十人以上を相手にして圧倒か」
ビデオを見終わった久我が満足気に笑う。
「ええ、圧倒的な力量ですね。それにこれでまだ本気では無い」
太平がそう言うと久我も頷く。
「そうじゃの。それにしてもさすが佐伯流といった所かの。肉体を硬質化し、四肢の武器化を目指す古流武術。やはり実践形式ではスポーツ化した武術では歯がたたんかの?」
「それもありますが、激しい鍛錬の末、身に付ける。佐伯流の技をあの幼さで完全にマスターしている。悪鬼と呼ばれるのも頷けます」
「うむ。才能じゃの。彼の生まれに秘密があるそうじゃが。明らかに努力で得た物では無いわい」
「では……やはり佐伯龍拳が最有力候補でしょうか?」
「ほ。ほ。それはどうかの~わしは他にも注目している者がおるよ」
「ん? 久我先生。それは一体誰の事ですか?」
「ほ。ほ。そりゃ決まっとるよ。わしが推薦した学生じゃよ」
「久我先生が……確か早坂雄一でしたか?」
「うん。そう。わし流派とか無いから。我流じゃからさ。取り合えず面白そうなのを推薦しておいた」
久我が無邪気に笑う。すると太平は特に資料を見ること無くスラスラと語り出す。
「あの早坂鉄心の息子ですか……しかし、早坂雄一自体には格闘技の経験はありませんが?」
「ほ。ほ。てっちゃんも格闘技の経験は無かったわい」
「しかし……鉄心は実践経験が豊富でした。早坂雄一は確か家庭の事情で戦いには縁が無かったはずです。到底戦えるとは思えないですが……」
半信半疑の太平に久我は余裕の笑みを浮かべる。
「確かにの。しかし、てっちゃんもそうじゃったが。あの血筋は意外な時に意外な力を発揮する事があったわい。雄一君も場合によっては台風の目になるかも知れんよ?」
「そうですか」
太平は頷いた。久我の根拠の無い予感は大抵が的を得ている事が多い。
「それかこの後直ぐに負けちゃうかも」
「…………そうですか」
適当な久我に太平は頷いた。