第二章 サバイバル 5
「ふぁ……ふふ、何だろう。わくわくするな~」
喧騒に包まれる体育館で佐伯龍拳は場にそぐわないニッコリとした笑みを浮かべた。
「う~ん。どうしようかな~強そうな人が一、二、お……あの女の子も強いなふふ。軍治おじさんの言った通りだ。とっても楽しそうだよ」
まるで値踏みする様に龍拳は体育館を見渡した。そして体をゾクゾクと震わせる。
「ふふふ、どうしようかな~強い子とやろうかな~。それともとっておこうかな~ふふ、迷っちゃうな」
クスクスと龍拳は笑い。
「決めた。やっぱり強い人は後に取っておこう。美味しい物は取っておかないと後の楽しみが無くなっちゃうからね」
龍拳はそう言うとまるで散歩でもするかの様にゆっくりと体育館の中央に辿りつく。
「ねえ。お兄ちゃん」
そうして龍拳は異様に手足が長い男に世間話でもするかの様に声をかける。
「あ? 何だこの餓鬼は?」
「ふふ、お兄ちゃん。隙ありだよ」
そういって龍拳は手刀を男の腹部に突き刺した。
『ブスリ……』
鈍い音を立て、龍拳の手が男の腹筋を貫いた。男は白目を剥いてそのまま失神する。
「あは! 一撃か~ちょっと外れだったかも」
龍拳はそう言って血のついた手をパッパと払った。そして男のバッチに目もくれず次の相手に向って歩き出す。
「ふふふ……楽しいな~楽しすぎて一人じゃ満足出来ないよ」
『ブス……』
次は背中に一撃。不意を撃たれた男が倒れる。
そこで会場が異変に気付いた。二人倒されただけで異変に気付いたのはさすがというべきか、異様な殺気を放つ龍拳に視線が向く。
「ふふ。気付かれちゃった。駄目だな~僕は。気配を消すのが極端に苦手だよ」
「何だ! 貴様は!」
血に染まった手を見て、頭を丸めた男が叫ぶ。
「僕? 僕は佐伯龍拳。佐伯流の代表だよ」
「佐伯流……だと。こんな子供が? ふふ、勝負を捨てたか佐伯流は」
頭を丸めた男が馬鹿にした様に笑った。それに龍拳もニッコリと笑う。
「ふふ。そうだよお兄ちゃん。だからチャンスだよ。僕からバッチを取れば弱そうなお兄ちゃんでもこの体育館から出れるよ?」
「何だと! 貴様!」
龍拳から放たれた挑発的な言葉は男の逆鱗に触れた。男は構えると拳を縦にしたまま直突きを放つ。
「これが日本拳法の直突きだぁああああああああああああああああ!」
男の放った直突きは弾丸の様に鋭く佐伯の顔面に向う。
「ふふ。じゃあこれが、佐伯流の直突きだよ」
龍拳は男と全く同じフォームで直突きを放った。二人の拳が宙で激突する。
『ぐしゃぁ!』
「あがぁあああああああああああああああああああ!」
頭を丸めた男の悲鳴が体育館に木霊した。拳は粉々に砕け。あちらこちらから骨が飛び出ていた。
「ふふ、柔らかい拳だね。まるで赤ちゃんみたいだ」
龍拳はクスクスと笑いながら男の側頭部に蹴りを放った。それはまるで金属バットで殴った様な硬質な音をたて、男はそのまま気を失った。
戦いはそこで終わった。だがその異様で圧倒的な戦いを見て体育館での戦いが一瞬ピタリと止まる。
「ふふふ。ふふふ。さあどうしたの? 皆最強を証明しにこの学校に来たんでしょ? なら僕を倒さないと最強を名乗れないよ? それに……今なら皆で戦えば僕に勝てるかも知れないよ?」
幼い子供の挑発は一流の格闘家達のプライドをズタズタにした。
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
血の気の荒い連中が龍拳に襲い掛かる。
「ふふ!」
龍拳はその集団に向って軽やかに跳んだ――。