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とりあえず立とかぁ!こんなキラキラしとぉ部屋なんか落ち着かんわ!
明るい、小林さんの声が聞こえて、叶わない幻から目をさます。
言われて初めて、この部屋が最初に見た部屋よりも豪華できらびやかな造りになっていることに気づいた。
なるほど。キラキラ、しているなぁ。
意識を中からまわりへ、そして自分へと戻す。
繋いだままの手。小林さんの手。
少し固くて、まめがある。
私の手よりも大きくて、少し日に焼けて黒い。
私と同じくらいの大きさで、柔らかかった、白かった、りんちゃんの手。
昔はよく繋いで歩いた、あの手は。もうどこにもなくて。
今は知らない人の手になっていた。
それは無情なときの流れのせいなのだろう。
だけど、繋いでいるときの、そっとに優しく握り返してくれるところは昔も今も同じで。
ふっと。力が抜ける。
私を操っていた、支えていた、糸が切れる。
ぷつん。
立てなくなって。まさに、膝から崩れ落ちるという表現がぴったり。
まりちゃんっ!まりちゃんっ!
大丈夫?なぁ、大丈夫?
慌てた小林さんも私と手を繋いだせいで、かくん、となっていた。
手を繋いでいたせいで被害を被った小林さんびっくり。私もびっくり。
だ、大丈夫。
言おうとして、声にならなかった。
掠れた息の音だけが、誰も喋らない部屋に響く。
立とうとしてみるけれど、まだ力が入らなくて座り込んでしまう。
視線も下を向く。
唸る小林さん。
私のせいでどこか痛めたのだろうか。
はっとして、顔を上げる。
こ、こばやしさ。
震えた声が出た。
まりちゃん?ちょっとだけ我慢してなぁ。
そう言って小林さんは、男にまた喋りかけた。今度は怒った感じではなくて。
男が頷き、こちらによってくる。
まりちゃん、ホンマにちょっとの間、こいつに運ばれてぇな。
そんな音が聞こえて、小林さんと男が顔を見合わせて頷きあう。
最初の時とは打って変わって、ゆっくり。
とてもゆっくり。
男が私に近づく。
そして優しく。
とても優しく。
触れば壊れてしまうようなガラスに触れるかのように。
私を抱き上げる。
初めと変わらず、偉そうな態度なのに。
まるで私のことが大事なもののように、丁寧に抱き上げられて。
ほな、行こかー。
前を歩き出した小林さんの声。
男もまた、軽くため息を付いてから、小林さんについて歩き出した。
私は入ってきた時とは扱いがくるり180度変わってこの豪華な部屋を出ることとなった。
今の状況なんて全くわからないけれど、間違いなく、自体は好転した。