歯が痛いだけの無敵の男
歯が痛くて痛くて、それを話にしたくて書きました。
「いたいいたい、歯がいたい。全部いたい」
僕は子供の頃から、歯が痛い生き物だった。
「乳歯が痛い全部いたい」
僕は子供の頃から、歯の痛みにのみ悩まされ続けて生きてきた。
「いや、別に虫歯とかはないですけど・・・」
歯医者の先生は診察台に寝かせた僕の口内を見て、そのような事を述べた。いつもだ。そしていつもみんな困った顔をした。何処の歯医者に行ってもそうだった。皆一様にあの丸い先端に鏡が付いているやつを口に突っ込んで、それから唾とかを吸う奴で唾を吸った。それだけだった。それで終わりだった。そして上記したあの台詞をいうのだった。
「いや、別に虫歯とかは無いですけど・・・」
そんなわけで僕は、成人になる前には自分が住んでいる街にある歯医者全部を制覇していた。
それだからその全部の歯医者に僕の歯のレントゲン写真がある。
でも、どの歯医者も、大学病院の歯医者ですら、僕の歯の痛みの原因が分かったところは無い。
精神科にもつれていかれた。
「ココロヤマイなんじゃないの?」
って言われて。
「そんな、nobodyknows+のココロオドルみたいな感じで?」
でも、結局精神科でも僕の歯痛の理由は分からなかった。
「ああああ、痛い、死ぬ、死にたくなる」
さて、僕の歯痛の原因はいまだに一切分からない。でも僕は今でも歯医者には定期的に行っている。
「薬を、痛み止めの薬をください」
このように歯の痛み止めをもらう為だ。あるいはその処方箋。
市販の売薬ではあまり効果が無いんだけど、でも歯医者関連でもらえる痛み止めだけは僕の歯の痛みから僕を解放してくれるのだ。まあ、数時間だけだけど。
でも、その数時間っていうのは僕にとって天国みたいなもんなんだ。ワイハみたいなもんだ。
「歯が痛いんで、薬をください」
だから歯医者でもらう痛み止めの薬というのが僕にとって命綱、ライフラインだった。歯の痛みっていうのは精神を破壊する。直接破壊してくる。脳みそに手を入れられているような気がするし、頭蓋骨にドリルを当てられているような感じがある。それは魂すらも減らしていってしまうような感覚だ。
だからそれに比べたら、ワイハは素晴らしいじゃないか?行きたいじゃないか?
「ジェネリックでもいいですか?」
最近、歯医者経由処方箋挟みで薬局に行くとこの様な事を聞かれることが多くなったなと思う。ジェネリックでも何でもいいです。アレルギーもありません。病気もしていませんし、心臓病とかもわずらっていません。グレープフルーツジュースも飲んでいません。タバコも吸っていません。
だから早く薬をくれ!その頓服薬をくれよ!
「五百二十円です」
そんな訳で、僕にとって歯医者経由でもらえる痛み止めというのが人生の中で一番重要なものだった。親や友達よりも重要だった。だってそうだろう?歯が痛いのはもう直接イコールで『自殺しろ』って言っているようなものだもん。
それだから逆に僕にとってみたら、政権がどうなろうと関係ないし、国内、海外で何があっても別にという感覚がある。
地震かみなり火事おやじ。別に。
何があったとしても僕にしてみたら児戯だ。
でも、歯の痛みだけはだめ。
自殺するもん。
それに前したし。
一回だけ。
「かああああ」
その日、僕は決定的にやばい状態だった。
簡単に言えば、痛み止め打ち止めっていう状態だった。その時起こった歯痛は僕が今まで生きてきた中で一番大きくて一番強い奴だった。それだから薬をいくら飲んでも効かなかったんだ。全然。まったく。そんな事ははじめての事だった。
だから僕はかなり追い込まれていた。
「死ぬ。死のう、死のう死のう明日は来ないけどもう死のう」
そういう感じだった。
それは突然僕の目の前に龍が現れて、そんでたまたま僕の手が逆鱗に当たってしまったみたいな雰囲気なんだ。分かる?悪いのはどっちだよ?っていう話。
それだから僕はすぐに死ぬ事に決めた。
だって歯が痛いんだもん。しかも過去最高で歯が痛い。薬も効かない。いくら飲んでも効かない。歯が痛い。脳みそがポタージュスープのように攪拌されている。死ぬ。死のう。
僕はその時、親のことも友達の事も何一つ考えなかった。
歯の痛みっていうのはそういうものなんだ。脳みそを手ごねされているみたいな感じなんだもん。手後ねハンバーグみたいに。
だから、僕はすぐに近くの建物の屋上に登って、そして躊躇なくフェンスを超えて、ノーブレーキで跳んだ。
「早く痛みがなくなった世界に行きたい」
そう思った。
でも、
「あれ?」
死ななかった。
僕は病院で目を覚ました。その時なんでだか知らないけど歯の痛みは遠のいていた。
そして、僕の体には怪我一つ無かった。
怪我、擦り傷も打ち身も何も。
病院の先生には、
「外で寝てたって運ばれてきました。迷惑なんでやめてください」
って言われて、さっさと追い出された。
「病院は体の悪い人が来る場所です」
先生は言った。怒り肩で。
「・・・え?何で?」
僕はそう思って再び病院の屋上に登った。そしてそこから跳んだ。
でも、
死ななかった。
地面にぶつかったとき「ガンッ!」って言ったけど。
でも、両足の骨は体外に突き出ては来なかったし、骨の折れたような感覚も無かったし、それに痛くなかった。
僕は無敵で不死身だったんだ。
僕はその時はじめてそれが分かった。
ほら、歯の痛み以外のことなんて僕にはどうでもいいことなんだ。
これで分かってもらえたのではないだろうか?
でも、そっからまた緩やかに歯の痛みが訪れる予兆があったので、僕は急いで近くの歯医者に行って、
「歯が痛い死にます!」
って言って痛み止めを10日分貰ってから家に帰った。
その後、落ち着いてから僕は自分の体を使っていろいろと試した。
例えば、包丁で自分の体を刺してみたり、あとは車に轢かれてみたりした。爆発に巻き込まれてみたりもしたし、冬に除雪車が来るところに埋まってみたりもした。
でも死ななかった。
包丁で刺してみても痛くなかった。指も詰めてみたりしたけど、それをまた断面に付けたら、すぐにくっついた。
高速道路に潜入して、スピード違反している車に飛び出していったけど、車がつぶれてしまった。
火事の現場に入ってみたけど、燃えなかったし熱さも電気ストーブ位の感じしか無かった。でプロパンが爆発していろいろな人が「わーきゃー」言ってたけど、僕は別に大丈夫だった。
除雪車に巻き込まれて雪を噴射するところから出てきたけど、別に生きていた。普通に。
自転車で転んだときは多少ひざを擦りむいたけど、でもこするとその傷口が消えた。マジックみたいだった。セロみたいだった。
台風の日に海を見に行って波に飲まれてしまったけど、でも一ヵ月後、沖で漁船に助けてもらった。海はしょっぱかった。
僕はどうやら本当に無敵で不死身みたいだった。
歯が痛いだけ。薬が切れると歯が痛み出すだけ。
それだけだ。
だから今は、時々他人を助けたり、悪い奴をやっつけてみたりしている。あまり進んでやっているわけじゃないよ。恥ずかしいから。
でも、仮面ライダーとかバッドマンみたいに仮面を付けるかどうかは少し悩んだ。でも結局その時にあるものをつけている。今の時代はツイッターとかですぐに拡散されてしまうから、やっぱりそういうのが必要なんだと思う。フェイスブックとかでも顔出して、殺されたりする時代なんだから。
まあ、僕は殺されても死なないんだけど。
人を助ける際は報酬もちゃんと貰っている。勿論歯の痛み止めだ。市販のじゃなくて、処方箋でもらう系のやつ。
10日分から受け付けている。
で、
「最近街におかしな人が出ます」
っていって、こないだミヤネ屋で僕の特集みたいのがされていて、僕はすごく恥ずかしかったんだけど、でもそれで子供たちは多少、進んで歯医者に行くようになったらしい。
それはいいことなんじゃないかな?
って思う。
多分。
あと、歯が痛い。
だから君に、もし何か困ったことがあったら、とりあえず僕は話は聞くよ。あと、痛み止め。処方箋系のやつね。健康保険は入っておいたほうがいいよ。十割負担するの大変だからね。
歯が痛いと何も考えられないんです。だから手癖で書いたような感じですかね。