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旦那様は変わってます。

「あの、本当にあんな興味本位で結婚決めて良いんですか」


 旦那(ルカ)様が変わっている事は分かった。けれど、人生の一大決心をおみくじ引くみたいに決めても良かったのか。この人の得することは全くないのに。


「ああ、大丈夫大丈夫。結婚するといっても強要はしないし、夜会とかに参加してくれるだけで助かるから。様なんて付けずに名前で呼んでね、アリシア」


 にこやかに黄色の瞳を細める姿は性格と相乗して猫みたいだ。そんなことを思っていて、ルカの言葉を深く考えなかった。


 すれ違う使用人達は少数で、外の重々しい門とは違い、屋敷の中は白を基調とした過ごしやすい雰囲気である。


「さあ、着いたよ。ここがアリシアの新しい部屋だ。荷物は後から届くらしいから足りないものがあったら言うんだよ」


 大階段を登った奥の白い扉を開けると、窓が開いていて大きな一本桜が蕾を付けていた。日当たりの良い部屋は清潔に管理されていて、白基調の部屋に不似合いな黒い扉が目に入る。


「あの扉は何ですか?」

「寝室に繋がる部屋だよ、この二つ隣が私の部屋でね。あのジイさんの悪い趣味だ。アリシアの部屋は張り替えさせたんだけどね、構造までは変えられなかったみたいで」

「…そうですか」


 そ、そ、そうよね。夫婦だものね。寝室は一緒に決まってるわよね。

 涼しい顔をしても動揺は隠せない。ジャーマニーとだって最後まで、その、したことないのだから。



「お腹が減ってはない?そろそろ昼食にしようか」


 微笑んだルカは使用人に声を掛けると、私の手首を取って妖艶に口付けた。


「え、ルカ」

「会食の部屋は向こうだよ」


 真っ赤になる私をからかっているのか、悪気が無さそうに指を絡ませて歩いていく。

 大きくて安心する温もりに包まれているような感覚が指から広がり、何も言えないまま辿り着いた。



「アリシアは何が好き?夜会では小食のイメージがあったけど、違うんだろう」


 長いテーブルなのに、当たり前に横に並んで食事を待っていると、随分と前から私を知っているような発言が出てきた。確かに、夜会に行けばサラダや飲み物、甘いデザートを少し口に含むだけだった。それがジャーマニーの理想だから。


「魚だってお肉だって、とても好きです。本当は大食らいだし、いつも夜会でお腹が鳴らないように満腹になってからコルセットで締めて、吐きそうになりながら行ってるんですよ?」


 お茶目に笑ってみせると、ルカは優しい笑みを私に向けた。


「なら魚もお肉も持って来させよう。私は沢山食べる君が見たいな」


 …こういうのをタラシというのか。

 ルカは小っ恥ずかしいことを言ったつもりも無いのだろう。聞いた私でさえ恥ずかしいのに。


「あ、あまり甘くしないでくださいね」

「そうだね、疲れてるだろうからアッサリしたものにしよう」


 そういう意味で言ったのでは無いのだが、自覚なしということで結論付けた。



 出てきた食事はどれも美味しいものばかりで、私はお腹いっぱいになってもまだ食べたい気持ちになる程だった。

 ルカも細身な体で結構食べて、私一人が恥ずかしい思いをしなくても良かった。ルカの側は、とても居心地がいい。



「荷物がまだ届いてないらしいけど、今のうちに街へ買い物に行く?」

「はい!」


 子爵令嬢でありながら街で買い物なんてしたことがなかった。見栄っ張りの両親が、わざわざ商人を招いての買い物だけだ。

 街は危険で怖いところ。そう言われて育ってきたけれど、いつも馬車から覗いて見える景色は賑やかで皆んなが笑っていて楽しそうなところだった。



 紺色のコートを羽織ったルカが、白いカーディガンを持って私の肩に掛けてくれる。御礼を言った私の足取りは楽しみすぎて、とても軽い。


「買い物は好きなのかい?」

「はい!と、言っても街へ出掛けるのは初めてですが…」

「そうか、なら楽しみだね。街には色んな発見と出会いがあるから」


 ワクワクすることを言ってくれるから、白いカーディガンをぎゅっと掴んでルカの後ろへ付いていった。


 最初に訪れたのは仕立て屋さんだと思う。色とりどりのドレスが飾り付けられていて、見るだけで惚けそうだ。


「アリシアは本当はどんなドレスが好きなのかな?私はこのドレスが君に似合いそうだと思うけれど」


 ルカが手にしたのは、紺青色のマーメイドドレスだった。裾と胸元に惜しみなくダイヤが散らばっているが、派手というわけではなく、そのダイヤがドレスを引き立てている。

 正直に言って、どストライクだ。


「いえ、私はこちらので」


 わざわざ高いドレスを買ってもらうわけにはいかないと思い、群青色のミニドレスを手に取った。ミニドレスの方が安いし、今までの私のキャラに合っているからだ。


「うーん、なら両方買おう。」


 驚いて首を横に振るが、ニコニコしながらお会計を済まされコソッと耳打ちされる。


「やっぱり青が似合うね、アリシアの瞳と一緒だ。でも、ミニドレスは他所で着ないでほしいな」


 アリシアは綺麗な脚をしているから…と。

 やめていただきたい!途端に膝丈ドレスすら恥ずかしくなってしまった。

 こんなドレスの好みまで優先してくれる旦那様が居るだろうか。いや居ない。


「今度のパーティーはこれだからね?私が見たい」


 紺青色のマーメイドドレスを指差す甘々な旦那様に、嫌われないようダイエットはしようと決意した瞬間だった。


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