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婚約解消されました。

一話から五話ま一日更新です。

六話からは不定期更新となりますが、温かい目で読んでください。

「アリシア、お前正直つまらない」


 王家が開く夜会で、婚約者歴15年の私に突如告げられた言葉。

 二つ爵位が上であるジャーマニー様の好みに散々合わせてきた私は、今日だって薄い桃色のミニドレスを着て、髪は鬱陶しいと思いながらもハーフアップ。

 今日までの苦労にどっと疲れが出て、薄い化粧がバリッと剥がれる音までした。


「大人しい女は好みだけど、飽きるんだよ。こっちの女性の方が爵位にも合っているし、何より対等に仕事が出来る」


 婚約者(わたし)の目の前で美女の肩を抱くジャーマニーの続けられた言葉に、青筋が立ちそうになる。あんな馬鹿の一つ覚えみたいに「この商品は素晴らしい」しか言えない商談で仕事が出来る?


 思いっきり笑ってやりたくなったが、屋敷に帰ると血相変えた両親に()たれて笑う気さえ起きない。


「ジャーマニー侯爵から婚約解消の言伝を頂いたわ!貴女って子は本当に何の役にも立たないのね!」


 癇癪を起こした母を宥める父だが、私の頬には無関心のようだ。

 昔から口癖のように嫌われないようにしなさい、と育てられてきた。

 両親にとっては、二つ爵位が上の婚約者を持つ娘は自慢で金蔓(かねづる)で道具でしか無かったか…。



「ふっざけんな!!ならどうしたら良かったのよ!大人しい女性という彼の理想像に15年付き合わされて、そうしたら今度は飽きた?こっちの女性の方が対等ですって?この腐れーーー」


 放送禁止用語を部屋で思いっきり叫ぶと頭は冷え、急な婚約解消にどれだけ金をとってやろうかと思考を巡らせながら眠った。

 当たり前だろう、あいつの所為で私は19でありながら未婚なのだ。たんまり奪って自営業でも始めた方が性に合っている。



 その日は酷く良い夢を見た。何の夢かはさっぱり思い出せないが、目が覚めると母はにこやかに頬の心配をしてくれて、父には珍しくネックレスを渡された。


「昨日はごめんなさいね、腫れが引いているようでお母様は一安心よ?まだ疲れているでしょう、急な事だったものね。でももう大丈夫、さあ馬車を用意させているわ」


 何が大丈夫なのか、押し込められるまま馬車に乗らされてガチャンと重い鍵が掛けられた。


「愛しいアリシア、貴女のような役立たずでも結婚してくれる侯爵様がいらっしゃるわ。悲しくなるわね、侯爵様の機嫌を損ねないようにするのよ」


 この親は最後まで親ではなかった。

 鉄格子の隙間から入れられた見合い写真には私といくつ年が離れているかも分からないおじいさんが写っており、その名前は若い女性を食い物にして私腹を肥やす下種なジジイであった。


「嫌っ、やめてお母様!」


 鉄格子の嵌められた馬車の中から、いくら泣き叫んでも母のニコリとした目は見えなくなるまで変わることはなかった。



 カタンカタンと意気消沈すること半刻、重く大きなお屋敷の門が開かれて中に入る。どんな目に遭うのだろうか、散々弄ばれて売られてしまうのか。この泣き腫らした酷い顔を見て、家に送り返してくれないだろうか。


 淡い願いなど叶うはずもないので、馬車の扉が開くのと同時に逃げ出してやった。


 花嫁衣装のような白いドレスは裾を破って、(かかと)の高い靴など走りにくいので脱ぎ捨てた。お屋敷の門など飛び越える勢いで走ったと思う。


 しかし、長身の男に腕を掴まれて逃げられなかった。


「離して!嫌っ!!」


 身を捩ったり足を蹴ったりしてもビクともしない。護身用の体術でもやっておくんだった、あの婚約者が大人しい女性が良いとか親に言って習わせてすらくれなかったのが仇になったと思う。


「待って、落ち着いてください」

「落ち着けるわけないでしょ!!!」


 振り上げた腕を掴まれて真正面から目が合った。

 ウェーブがかった漆黒の髪に黄色の眼光を見つめられると固まってしまう。漂う雰囲気が他とは違った。


「自己紹介が遅れましたね。私の名前はルカ、この家の家主はつい先日失脚したようなので、私が後釜に収まった訳です」



 気品溢れる物腰と不意に嵌められた結婚指輪に一時思考がフリーズする。

 と言うことはどういうこと、あの下種なジジイの元に嫁がなくていいの?この人を信用してもいいの?


「アリシアさんは大人しい女性だと思っていましたが、全然違ったのですね。行動力のある魅力的な女性だ」


 私はチョロい、だけど初めてなのだ。本当の私を受け入れてくれたのは。


「どうして私と、結婚して下さるのですか?」


 ほんの好奇心、聞いてみたかっただけ。しかし返ってきた言葉に固まった。


「あのジイさんに嫁がされる御令嬢の行動を、見てみたかったからかな?」


 ………か、変わってる。

 穏やかに微笑む旦那様を前にして、予想とは全く異なる結婚生活が始まった。

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