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殆どの人は、嘘をつくのが下手である(3)

※前回からの続きです

(2)文法(※1)上の不備について

 

「一般的に、小説は読んで理解できるけれど、評論文は何を書いているのかさっぱり理解できないという生徒が多い」と、教育現場に立つ複数の知人から聞かされたことがある。成程――筆者が学生だったころにも、そのように嘆く同級生は確かにいたし、何も学生に限らず、同様の嘆きを社会人が漏らすのも度々耳にしたことがある。その中にはもちろん「小説の書き手」も多数いた。いわく「小説は書けるが、評論のような文章は書けない」とのこと。


 さて、ここで考えてもらいたいのだが、なぜ同じ日本語の文章であるにもかかわらず、小説と評論とでこのような差異を感じてしまう人が続出するのだろうか? むしろ理路整然と書かれた評論の方が読みやすいのではないか?


 その理由について、彼ら自身に訊ねると、多くの場合「評論は一つひとつの文が長いから」という答えが返ってくる。だが、この答えはあくまでも彼らの主観によるものである。極めて冷静かつ客観的に考えてみれば、文の長短で日本語それ自体の難易度が変化するなどということはない。なぜなら、一文が長かろうが短かろうが、それを構成する要素は文法という一定の規範のもとに収束するからだ。より分かりやすく言えば、どんなに長い文であっても、義務教育課程で習った文法のレベルを超えることはない。


 つまり、一文が長いか短いかということは、文章理解を妨げる(あるいは助ける)直接的な要因とはならない。問題があるとすれば、長い文を難しいと感じてしまう要因――すなわち文法の基本的事項が充分には身についていないということではないかと筆者は考えている。


 このことをより理解しやすくするために、一般的に日本人が苦手と言われる英語について考えてみよう。例えば、ある日本人がとても真面目に勉強して、英単語10万語を暗記したとする。ところが、そんなことをしても、英会話がペラペラになるわけではないし、英文をスラスラと読み書きできるようになるわけでもない。せいぜい知っている単語を並べて、片言でどうにか意思表示をするのが関の山だろう。なぜなら、その人は英語の文法というものを理解していないからだ。また、そのようにしてどうにか捻り出した片言英語による意思表示が、ネイティブスピーカーに「正確に伝わらない」ということもしばしばある。


 程度の差こそあれ、母語である日本語についても同様のことが言えるだろう。ある日本語の文章について、使用されている言葉の意味は全て分かるのに内容が理解できない。あるいは、自分の書いた文章の意図が正確に伝わらない。こういったことが起こってしまうのは、読み手書き手のどちらか、もしくは双方の読解力や文章力に、文法が「充分には」伴っていないからだ。


 本エッセイの趣旨に鑑み、本項では専ら書き手の側の問題点について取り上げるが、例えばある小説について、書き手がAという意味で書いた文が、文法的不備のために、善意の読み手からBという意味で捉えられてしまったとする。そして、その誤解を抱えたまま話が進み、別の場面で同じ内容を今度は文法的不備のない文で書く。すると、当然善意の読み手は「さっきはBだったのに、今度はAと書いている。矛盾している」と感じる。この読み手の感じる矛盾が、前々回から取り上げている「その小説の嘘っぽさ」に繋がるというわけだ。


 随分(※2)と前置きが長くなってしまったが、今回論じた考えを大本に、次回はいよいよ具体的な例を挙げながら、文法的不備について詳しく解説していこうと思う。

(※1)本エッセイにおける「文法」とは、いわゆる「学校文法」のことである。これにはもちろん様々な批判がつきまとうだろうが、大半の人が義務教育課程で一通りを学んでおり、筆者としては、本項の趣旨を理解してもらうために最適だと考えた。


(※2)当初は今回で全て終わらせる予定でしたが、大本となる考え方と具体的事例をバランスよく書こうとしたところ、結果として、引きのばしのような形となってしまいました。筆者の見込みの甘さからこのような事態を招いてしまい、本当に申し訳ありません。次話以降についてはなるべく早く投稿できるよう努力いたしますので、どうぞ今しばらくお付き合い願いますよう宜しくお願い申し上げます。

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