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店長と時どき猫なワタシ

作者: 葛城さく
掲載日:2014/09/23

「いらっしゃいませ〜」

気怠げに発した言葉も、

「ふう…」

物憂げにタッチパネルを眺める横顔も、

「肉まん、1つですっ」「ん…はい」

コンマ何秒かで鮮やかに中華まんを包む手つきも…




「ぃぃぃぃいやぁぁぉぁあっ…かっこよっゴフッ…」

「あんた、心の声ダダ漏れだから」

私の脊髄にクリティカルヒットをくれたのは、幼なじみの高遠めぐみである。

私こと永田ジェーン啓子は、彼女と18年来の腐れ縁で、バイト先のコンビニまで一緒という不遇な身の上にある。


「もう…あんたは、なんでその顔で、ファザコンなんだろうねぇ」

「ちょっ!めぐちゃん、聞き捨てならないことを聞いた気が、激しくするよ!?一途なだけの恋する乙女にそれはないでしょ!」

「ああ、けいには、客観性ってものが欠落してるんだったね」


めぐちゃんが、こんなことを言うのは、私がハーフでちょっとばかりヨーロピアンな顔をしているくせに、バイト先の店長(35歳独身)に胸キュンしてるから、らしい。


「おまけに、ストーカー気質で変態だしね」

「いやいややややっ何を根拠にそんなことっ…」

「こないだ、事務所に放ったらかしになってた店長の上着、にまにましながら畳んでたのは、どちら様でしたっけ?」

「ぐふっ…」

「店長が仮眠取ってる時に、隙あらば抜け出して寝顔を覗きに行ってるなんて話も聞きましたけど?」

「あう…あの」

「そーいえば、バックヤードで深呼吸しながら、呟いてたよね。店長の匂いサイコ…」

「きゃぁぁぁああ!めぐちゃん、人権侵害ー!!!!」


私の大声に、驚いた店長が飛び込んで来た。


「おい、どしたっ?…ってまた永田さん?休憩中だけど、店まで聞こえるほど、叫ぶなって。」

「あ、あああすみません!」


注意だけすると、店長は、すぐにレジに戻って行った。よかった、私たちの話は聞こえてなかったみたいだ。ほっと胸を撫で下ろしたついでに、めぐちゃんに恨みがましい目線を向けてみる。めぐちゃんのせいだよー。


「ドン引きされればよかったのにねー」

私の怨念ビームは、ザ・クールビューティーめぐちゃんに、サラッと流された。くそう。


「じゃっお先にー」

パタパタと帰り支度をする、めぐちゃん。

「え?今日、21時までのシフトじゃないの?一緒に帰ろうと思ってたのにー」

「今日は、デートなの。誰かさんと違って、私は同世代に興味あるから」

ぐう…リア充め。嫌味ったらしく言いおって。

「そんなこと言ってないで、ちゃんと働きなさいよね。けい、こないだ休んだとこでしょ。私、代打でこの前の週フルで出たし。じゃまた明日ー」

めぐちゃんは、手をひらひらさせながら、私を地味にヘコませることを言って帰って行った。

(やっぱ、月に一週間、必ず休みをもらうのって迷惑だよね…)

私は、訳あって、というか特殊な体質で、毎月、家から出られない期間がある。そんなに休むやつを働かせてるのは、迷惑なんだろうけど、うちのお店は、いつも人手不足だからしょうがない、というかんじなんだろう。でも、最近じわじわと面接を受けに来てる人が増えた気がする。

「せっかく、この事情でもいいよって言ってくれるとこ、見つけたのになぁ」

辞めさせられたらどうしよう、とアンニュイな雰囲気に浸っていると、至近距離から休憩時間終わってるんだけど、と首筋に声をかけられて、飛び上がったあとに、にやけたのは、余談である。


***


シフトを終えて、来週のシフトを確認していると、店長がバックヤードに帰って来た。

「店長は、まだ残るんですか?」

「いや、もー今日は疲れた。限界。9時間いるときついわ」

「ええっお昼からいるんですか?」

きっつーとおののく私に、だってみんな急に休むんだもん、と店長は口を尖らせてみせる。たまに見せる、そーゆう子どもっぽいとこも、たまんないんだよねぇとにやけそうになるのを必死に押し隠して、ちょっと大胆なことを言ってみることにした。


「店長…これから上がりゅんなら、あの、一緒に途中までかえりま…せん?」

噛んだよ噛んだよすっごい地味に!

さりげなく店長は、健康のためにとか言って、たまに自転車で来てるんだよね、それで今日がそのたまにな日で、店の裏に店長の自転車があることは、出勤時に確認済みなのよ!

「あ、ああ永田さん家って、同じ方向だっけ?いいですよ、夜道は危ないしね。永田さんが嫌じゃなきゃ」

誘ってるんだから、嫌な訳ないじゃないですかぁぁぁぁ!と、心の中でガッツポーズしながら、絶叫したのはおくびにも出さず、私は素早く更衣スペースに飛び込んだ。

「じゃっすぐ着替えちゃいますねー少々お待ちをー」


やった、めぐちゃんいなくてラッキーと、3時間前に言ったこととは、180度違うことを呟きながら、いそいそと着替えようとした、その時。

「…え?」

視界がぐにゃりと歪む。頭蓋骨を圧縮されるような激しい痛み。え、これって。いつもの発作?いやまだ一週間あったはず。あれもしかして、私、周期の計算間違えた…?いやまずい、ここで発作が進んだらまずい、あの姿は見られる訳には…

必死に抗おうと回転する頭とは裏腹に、体は意思に反して力が抜けていく。

あーもう無理かも、そんな風に諦めた瞬間。




ボフッ


私は、自分の服の中に埋れていた。可愛らしいトラ猫の身体で。


(うっわー本当になっちゃったよ、本気で周期、計算間違えたんだなぁ…だって、私、文系だもんやっぱあのややこしい計算、一人じゃできないよ)

そうなのだ、物心つく頃には、私は、毎月一度猫になる体質であった。原因は自称天才科学者だった叔母が、最高に迷惑なことに、小さい頃の私を実験台にしてくれたことらしい。はじめ、叔母は私を完全に猫にするつもりだったらしいが、不幸中の幸いなことに、失敗して、周期的に猫になるだけで済んだ。済んだって言ってもかなり大変なことを、やらかしてくれたんだけど。普段は、その周期を計算して、仕事や学校を休んでいたのだけど…

(これは、間違えたね確実に)

非常にややこしい計算をしなければいけないため、誤差を考えて一週間の幅を取っていたけど、その猶予さえもぶっ飛ばしてしまったようだ。


「ん?永田さん?大丈夫?」

なんて長い原因究明をしてたら、早速店長にいぶしがられた。

いやややや、まずいまずいまずい!頼むから、こっち来ないでー!


「また貧血ですか?」

あー完璧にこっち近ずいてきてるー!ちょっと華奢なかんじに見られたくて、たまに貧血な時があるんですとか言わなきゃよかった。


「返事してください。しないと開けますよ?」


シャー


おい、結構早く開け過ぎじゃないか。仮にもうら若い乙女が着替え中なんですが。

なんて、ひたすら現実逃避をしたいくらい、しっかり目が合ってしまった。どうなるんだろう、この場合。やっぱ野良猫が入り込んだ的な状況に見られて、外にポイされるよね。や、でもそれだと家帰れない、せめてカバンの中の鍵だけでも持って帰りたいな。咥えて逃げられるかしら。

そこまで考えた瞬間、私はふわっと宙に浮いていた。


正確に言うと、店長に抱き上げられていた。


(きゃぁぁぁあの渋さと鋭さがあいまったご尊顔が目の前に…っていうか、私、今、仮にも腕の中にっ鼻血出そう、って猫は鼻血出るのか知らないけど)


「うん、なかなかかわいい。よし、一緒に帰るか」


えええええ?店長、そこ何も疑問に思わず拾っちゃうんですか?

と、大混乱の私をよそに、店長はさっさと私の着替えを適当に私のカバンへ放り込んで、私(猫)もろとも家路についてしまった。


***


「…ただいまぁ」

結構、高級そうなマンションの一室に入ると、店長は、私を床へそっと降ろした。不安そうに振り返る私に、いーからそっち入って、と靴を脱ぎながらリビングをらしき部屋を指差す。

おずおずと入ってみると、センスのいい家具でシンプルにまとめられた部屋だった。さすが店長、部屋も惚れるわーとぽけーっとしていると。


「さて、お待たせ」


と、突然、抱き上げられて、テーブルの上に乗せられた。目の前には、起動済みのノートパソコンがおかれる。

何事かと、顔色を伺うと


「永田さん、だよね?」


心底、びっくりすることを尋ねられた。


***


動揺しまくって、尻尾をジタバタさせていた私を店長は辛抱強く宥めてくれて、私がやっとこさ、状況を理解したのは40分後のことだった。いや、人語話せない私が必死で肉球でキーボード押すのに手間取ったとかね、致し方ないことでさ。


要約すると、こういう事らしい。

店長は、叔母の研究所での元同僚で、同じチームだった。それで、叔母が危ない実験を繰り返しているのに、薄々気づいていたらしい。関係ない人がそれに巻き込まれないように、神経研ぎ澄まして見張ってたら、裏をつかれて親族が犠牲になってしまった。それが私。その事に罪悪感を感じ、私の両親とも相談し、陰日向に見守ろうという事になり、私の近くに潜伏してた、と。

だから、こんな休みがちなバイトを雇ってくれたりしたのね!とか、変なとこで納得したりして。


いや、じゃあつまり、

『こんな たいしつなのに うちのおやが わたしのこと ほったらかしなのは』


「ああ、そうだよ。もちろん、僕がいるから。でなきゃ、いくら母親が静養中だからって、そうそう年頃の女の子に一人暮らしなんてさせないでしょう」


そうなのだ。私のこの不遇っぷりに、うちの繊細な母は、ショックで寝込んでしまい、マイハニーが世界で一番なうちの父は、私が中学の頃に、とうとう母と少し人里離れた所へ、さっさと引っ越して行ってしまった。ま、私が高校までは、普通にこの近くで通いたいって言ったのもあるんだけどね。

てか、教えといてくれよ、それくらい。それなりに私、孤独感、感じてたよ?父、母よ。


「本当はね、永田さんのご両親も、心配して田舎の方に連れて来たかったみたいだけどね。そこは、ちょっと僕がいるから大丈夫ですってね、ゴリ押ししてみました」


はい?なにそれ?


「だって、どんどん好みの女性になっていくんだもん。変な虫が付かないか、心配しちゃった。」


へ?だもん、とかかわい過ぎでしょ、おいそこのいい大人。


「シフトとか苦労したんだよー、みんな学生って同じような時間帯じゃん?女の子ばっかりでシフト組めるように、めっちゃ考えたし」


ああ、なんか女の子多くて嬉しいなーとか思ってたのは、やっぱ偶然じゃなかったのね。


「帰りも、上手いこと時間合わせて、チャリもわざわざ買ってさー。知らないでしょ、俺の苦労」


あのなんか、一人称かわってますよ?店長…


「今はさ、こんなかわい過ぎな姿だし、何もしないけど。本性出しちゃったし、これからは覚悟しといてね?」


ね?って、いやあの。

その後、はい、は?と有無を言わせぬ、素敵な笑顔で微笑まれて、にゃあ、と情けない返事をしてしまった。


結果、どうなったかってね、この店長の肉食系発言からわかると思いますが、どう見ても陰日向じゃないかんじで、店長が見守ってくださる生活になったのは、その後間も無くのことでした。

最後までありがとうございました。


ご意見、感想など頂けると、作者がうひゃうひゃします。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これで処女作か〜。私のは絶対見せられませんね笑 リズム感良く明るく楽しく読ませていただきました。ありがとうございました
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