中編
「チュン、チュンチュン――チュン――」
「無駄に鳴き真似が上手いな君は!」
そんな訳で朝である。乱れた髪が美しい美少女相田さんとの朝チュンを楽しみ(ゲス顔)、マイフェイバリット味噌汁を調合にかかる。湯の分量が匠の技たる所以だ、気をつけなければならない。
「なんで朝起きてすぐに朝食の用意を始めるんだ……?」
「なんだよ、お前はそうじゃないのか? そんな事じゃ現代の情報化社会というビッグ・荒波・ウェーブからは逃れられないぜ」
「ははは一見意味が分かりそうなことを言ってももう動じないぞ私は」
朝一から叫んだ女には無理だと思うが、まぁその心意気だけは受け取ってやるとするか。ヒロインには優しくしないといけないからな。
さぁて、まずは――
「ちょ、ちょっと待て。そんなものが調理器具だというのか」
「ネタバレはいけないぜ」
「食べるのは私なんだぞ!」
え、食ってく気だったのか。案外図々しいな相田さん。
そんな訳でインスタントみそ汁を作る事にする。まずは小さじ一杯……あ、ちょ、暴れんなクソ。よぉしよしよし、大人しく……そこぉ! よし、こいつを捌いて後はあれを塩抜きしとかないとな……鍋の用意は相田さんに頼むとして、そうだオーブン空いてたっけ。ちゃんとこうやって……
「ひ、ひぃ……」
いやぁ、美味かったなインスタントみそ汁……やっぱみそ汁は日本人の心だよ。
「初日に頂いたインスタントみそ汁とは随分と違う気がするのだがぁ……」
げっそりとしていても美少女な相田さんは流石だなぁ、これで眼鏡をかけたら見事に無個性になる辺り素敵にヒロイン補正を持っている。
ま、そういう俺も美少女に食事を振舞うという主人公属性を存分に発揮したんだけど、ね!↑
「でも美味かっただろ?」
「うん美味いのがとても気持ち悪い……あの半固形物は何だったんだ……」
はっはっは。
そんな訳で登校の用意だ。俺はモノローグで説明すればそれで済む話なので「えっ、君いつ着替えたんだ」とかいう相田さんを観察して過ごす。へーい! いいよいいよー、歯磨き粉はイチゴ味な相田さんいいよーぅ!
そうこうしている内に宮沢も現れて一緒に学校に行くことになった。靴を履いて鞄を持って悪魔を倒して戸締りしてと……よし!
「ま、また釈然としないバトルだった気がする……私、今活躍したのに……」
「よしよし」
「うぅ、宮沢さぁん……」
宮沢の胸に抱かれて頬ずりする相田さん。おっぱいが癒しらしい。ごめんよ、「ほう……勇者の付属物と侮るか。ならば見せてやろう、私の剣技をな」とまさかの四刀流を始めた戦闘シーンをカットして。
しかし二日で三回か、襲われる頻度が多いな。世界も俺の主人公ライフを祝福しているらしい。
「――これは今日ぐらいに学校がテロリストに占拠されるかもな」
「また意味の分からない事を言うな、君は」
「あぁうん、そろそろ来るかもね」
「宮沢さん!?」
おっぱいすりすりから一転、仰け反って転げ落ちる相田さん。一転からのすってんころりんってか、やかましいわ。
とりあえず説明は宮沢に任せて俺は予行演習しておかないと。
「な、なぁ……どうしていさみんは空を飛んでいるんだ? 理由が……ってそもそもなんで飛べるか分からないんだが!?」
「えっとね、相田さんが転校してくる前にテロリストが学校を襲う事件があって。それを来栖が撃退してから向こうさんムキになっちゃって、定期的にあいつに挑みに来るのよ」
「理由は分かったからなんで飛べるか教えてくれ! 私の常識が崩れ去る前に!」
ファーッファファファファ! イイィイィヤッホオオォォオ!
……飽きたので降りる。よく考えたら空を飛んでもあんまり意味はなかった。なんで飛んだんだろう、まぁいいか。たまに空を飛びたくなるぐらい人間なら誰しもある事だよな。
「近所迷惑だから上空から変な笑い声降らすのやめなさいよ」
「えっ。朝から俺の美声を聞けるなんて世界が幸せだろ?」
「野太い声を直してから言え」
「和やかに会話してないで私の常識を返してくれ!」
宮沢と話しているのに後ろっからやかましくがなりたてる相田さんである。ヒロインは一人ずつ列に並んで話せよ、会話に三人が混じるとめんどくさいだろ?
まぁのけ者にするのも可哀想なので宮沢の隣を譲って俺は逆立ちする事にした。
「うぅ、宮沢さぁん……」
「はいはい、あんたほんとおっぱい好きね」
宮沢のおっぱいとおっぱいの間に顔を挟んでぐりぐりする相田さんは、もはや同性でも許されるかどうか微妙なラインの上を全力疾走している。多分許されざる。
まぁその光景をローアングルで見つめる事が出来るのはいい事だな。宮沢の百均で買ったようなパンツはいつもの事だが、相田さんくまさんかよ……レベルたけぇな……。
「そんな訳で、今日はテロリストと戦う日かもしれないから、宮沢に代返頼むんだよ。なんかあっても黙っといてくれよな」
「あぁ、うん。そもそも宮沢さんが代返できるんだな……っていうか代返すれば出席大丈夫なんだな……」
「え、引くわー。空を飛ぶのはスルーした癖にそんな常識問うとか引くわー」
「じゃあ空を飛ぶ理由を教えてくれよォ!」
泣きながら胸に顔をうずめてくる相田さんの頭を撫でる宮沢はよく出来た奴だと思う。俺ならあんな胸板さわさわされたらはっ倒すからな……。はっ倒す……んっ、はっ倒す……はっ倒す、ね。つまり張ったオスって訳だろ? なるほどね……
特に意味はない!
「何ドヤ顔してんの」
「いや、ちょっと文字数稼ぎしてきてさ。なんかここまで話してたら逆フラグでテロリスト来ない気がするんだよな……ほら、そうなると残りは雑談で話埋めなきゃいけないじゃん?」
「なるほどね。何がなるほどかはわからないけど、なるほどね」
俺のスルーを心得てる宮沢である。そんな冷たい態度取られたら私ドキドキしちゃう。
ちなみに話しながらも歩いているのだが、相田さんは宮沢の胸にくっつきながら歩いてる。器用な奴だな……くまさんぱんつが見えねぇ。くまさんがいない相田さんとかただの美少女じゃねぇか、ぺっ。
「な、なぁ、いさみん。その見下すような視線を向けながらその実私が見降ろす事になる逆立ちを止めてくれないか?」
「やーだよっ。テロリスト来ないだろうからこうやって文字数稼ぎしとかないと」
相田さんの視線が、鋭くなった。ふむ、少しは気後れせずに話せるようにはなってきたようだな……いや別にそのためにこの態度だったわけじゃないけどね。これ素だけどね。
宮沢のおっぱいから離れしかしその腰を抱く手だけは離しはせず、相田さんは叫ぶ。
「来る!」
なので叫び返す。
「来ない!」
「来る!」
「来ない!」
「いいや、来るね!」
「来るわけねぇだろ!」
「ハァーイ! 今日から皆さんの体育のティーチャァーとなります、ジェシー・オブザ・静御前と申しマース! 」バインバイン!
「ほら、相田さんが中途半端に主張するからテロリストじゃなくてエロテロリスト来ちゃったじゃねぇか!」
「私のせいなのか!?」
相田さんのクラスとおこなう合同体育授業でいきなり先生が赴任してきたと思ったら全ては相田さんのせいだった。以前俺達に体育を教えてくれていたゴリマッチョのゴリ坂先生は路頭に迷ったのだろうか……人ひとりの人生を台無しにした相田さんを俺は許さない。
それはともかく、目の前にいる金髪碧眼のジェシー先生は何故か何十年も前に廃止されたブルマを履いていてそれがやたらと食い込んでいる。上着の裾は完全にヘソが見えるまでに捲れ上がっており、その分が何故か乳に張り付いている。巨大なボールのようなおっぱいに、布が、張り付いているのだ。
エロマンガ物理学、本当に存在したとはな……!
「いさみんは何を強敵を前にした男のように……」
どうやら相田さんは宮沢のおっぱい以外には興味がないようだ。なるほど、純愛を貫くか。その意気やよし、俺の相田さんへの評価がちょっとだけ上がったのでよしよししてあげる。
なにはともあれ、このエロテロリストに対峙しなければならない。
「エロテロリストォ! ゴリ坂先生をどこへやった!」
「ヘェーイ! ゴリ坂は私の夫ネー!」バインバイン
「エロテロリストで返事するんだ! ゴリ坂って名前の方なんだ!」
相田さんは忙しそうだ。宮沢はもう向こうの方で「へいパスパース!」ってやってるから頼る事も出来ないし。まったく、ここに踏み入れた不幸を呪うんだな。
「そのバインバインでゴリ坂先生を誘惑して教師の地位を手に入れたんだな、テロエロリスト!」
「逆になってるぞいさみん!」
「むしろ私が彼の大殿筋に惚れてホームタウンから日本にひとっとびデース!」バインバイン
「マイナーな筋肉だなっていうかお尻見たのか!?」
本当に忙しそうだ。
だが戦いの最中些事に構ってはいられない。気を抜けばあのバインバインの動きを目で追ってR-18に相当する描写をしてしまう……なんと恐ろしい胸なんだ、服を着ているのに発禁処分にされそうじゃねぇかあれ……!
「そもそも、私のバインバインを誘惑だなどと心外デース! これは巨大な身体を維持するための発電行動、胸と胸の動きの間でタービンが回り身体にエネルギーを送っているのデース!」バインバイン
「乳力発電!?」
「ミス相田は胸を小さくすることで維持エネルギーを減らす乳力節電ネ!」バインバイン
「ややややかましいわ!」
二人が仲良くなったのでとりあえず放っておいてサッカーに混じっている俺である。へいパスパース。
ハットトリック・オーバーヘッドニーキックで三点先取したのでとりあえず満足していると相田さんが叫んでいたのでとりあえずカット、体育のシーンも面倒な所なくチャイムが鳴って終わろうとしている。
その時。校庭に放送が鳴り響いた。
『我が名は、ゴリ崎――この学校は俺が占拠した』
「今更テロリスト来た!」
しかもゴリ坂先生と名前似てる! と叫ぶ相田さんを押しのけて、俺は
相田を押しのけた来栖は、そこではたと動きを止める。その顔に広がる感情は焦燥。汗をたらりと流し、来栖は固まってしまう。
乳を乱舞させながら首を傾げるジェシーに、もう関わりたくないとばかりに絶妙な表情で一歩下がる相田。その二人に挟まれ、来栖は呟く。
「やべぇ……俺の一人称、切れた……」