前編
前編中編後編と分けておりますが、これだけ昔に書いた奴をちらちら手直ししたのをベースにしてあります。つまり中編からはキャラブレが発生する……!
目の前には、大きく翼を広げた異形。黒い体の、悪魔のようなもの。
訳が分からない。夕食時にいつも通りカップラーメンを用意して三分待っている最中に突然壁がぶち破られたのだ。一人暮らしを始めて一年以上経つが、この展開には驚かざるを得ない。思わず声が漏れる。
「あ……あぁ……」
「くっくっく……危険の芽は早めに摘んでおくに限る……我々の天敵となり得る因子はなぁ!」
ご丁寧にも説明をしながら振り下ろされる腕。俺はただ、コタツに足を突っ込んだまま動けない。
その凶悪なまでに鋭い爪の一撃を防いだのは、一振りの流麗な刃だった。正確に言うなれば、いつの間にか俺の前に現れた少女によって。
後ろで一つに結んだ金色の髪。後ろからでも分かる素晴らしい体のラインに、白い肌。顔は見ていないが文句なしに美少女だ、これでブスだったら詐欺で訴える。服装はセーラー服という何やら似つかわしくない感じではあるが、そこにあの美しい白銀の刃というありえない組み合わせがまた心にぐっと来る。
そうこう考えている内に、力負けしたか女の子がぶっ飛ばされた。
「きゃあ!」
「くくく……勇者でもない者が我が歩みを止められるものか」
またもやご丁寧に何事か呟き、悪魔は俺のほうへ再び腕を振り下ろした。
しかし、うーん……謎の敵、突然現れた美少女、謎の単語、襲われる俺……。
おあつらえ向きだ。あぁ、見事に最高だ。
「あ……あぁ……あーっはっはっはっはっは!」
思わず、堪えていた哄笑が口から漏れ出す。いけないいけない、これでは俺の方が悪役のようじゃないか。まぁでもそんな事はとりあえず脇に置いておき、悪魔っぽい敵の腕を掴んで立ち上がる。いやぁ助かった、さっきまで足痺れてたんだ。あのまま少女の助けがなければ格好悪くなる所だった。
「な……ぁ?」
「っはっはっはっは……この展開を待っていた!」
そのまま腕をねじり、悪魔を床にねじ伏せる。なんというか、見掛け倒しもいい所だなこの野郎。びっくりさせやがってこの野郎。壁とかぶち破った前振りはどうした。
「さぁ美少女、この俺に世界を救わせろ!」
そんな訳で俺こと来栖 勇、将来の夢:主人公の物語が爆誕した。
*
「起きてっ、お姉ちゃぐへっ」
さて爽やかな朝である。悪魔的敵という同発音が二つ続くとややこしい事この上ない存在を可及的速やかに非平和的な方法でぶち殺し、脳震盪を起こしたかぐったりと白目を向いている少女をベッドに寝かした次の日。俺は紳士的にベッドの脇で結跏趺坐しながら寝ていたわけだがいつもの習慣か五時ごろには目が覚めたので少女を起こそうと思った次第である。
そんな訳で呼びかけると、いきなり瓦とか割れそうな腰の入ったパンチが鼻に命中したわけである。凄いなこの女、その体勢からこれかよ。
「あ……あぁ!? すまない、深みのあるバリトンで萌キャラ風に呼びかけるというおぞましい現象が起きたのでついっ!?」
「俺の美しい声に文句をつける気かお前! その意気や良しッ、起き上がって説明する権利をやろう!」
とりあえず声が響くように叫んでみた。何故か声が太いのである、俺は。こんなに美少年なのにっ。
そんな訳で少女も有無を言わさぬ我が心情を読み取ってくれたか、がばぁっと起き上がった。
「は、はい! 守護者協会第二十三支部強襲迎撃要員、コードネーム・ヴァイスであります!」
「よしっ、寝ろ!」
「はい! ……って、何故私が君の言うことを聞いている!」
え、お前が勝手に聞いたからですけど……とか言うと拗ねそうだったので黙っておいた。ふぅ、子猫ちゃんの相手は大変だぜ。
「あ、えぇと……しかし一体、ココは……?」
「謎の敵にぶっ飛ばされた君を俺が介抱したんだ。どうだ、惚れたか? 惚れたのならほっぺにチューもしくはそれ以上のことをしてくれても構わない、夏が俺たちを大胆にする」
「惚れてもいないし冬だから遠慮しておこう」
残念である。
「しかし一般人を巻き込んだとなれば、さてどうするべきか……一応事情を説明して、求めるならば保護をするようにするのが我らが組織の方針なんだが、君はいやに落ち着いているな」
「あぁ、俺は落ち着いているぜ? どっちかというと、幼馴染の部屋にパンツを盗みに行った時の方が焦ったぐらいだな」
「それは焦るだろうというか君は何をしているんだ」
「夏が俺を大胆にさせたんだ」
秋だったけど。全てのパンツをトランクスに入れ替えて幼馴染の反応を見てみたいお年頃だったのだ。ちなみにトランクスを穿いたままパンチラしてしまってその後数ヶ月に渡って奇異の視線を向けられた可哀想な幼馴染という後日談がある。爆笑した。
そうして会話をしているうちにどうやらお湯が沸いたようである。実は食事の準備をしていたのだ、朝はインスタント味噌汁に限る。アサリとわかめの選べる二種類、さぁ少女にもマイフェイバリット朝飯を振舞ってやろう。
「あ、その……」
「ん?」
立ち上がった俺を呼び止める少女。やはり美しかった顔の筋肉を緩め、笑みを作る。
「ありがとう、何やらよく分からないが君のおかげで助かった」
「どういたしわかめ」
「わかめ?」
*
さてそんな訳で謎の美少女が「インスタントかよ……」的表情をしたり服を着替えようと思ったら俺がガン見していてびっくりしていたり、そもそも着替えなんかここにはない事に気付き赤面していたり、「じゃあパンツ一丁でいろよ! 大丈夫だ、俺は外ではきっちりしているのに家の中ではだらしない女とか凄くいいと思う!」と言ったら謎の剣で斬りかかられたり。うぅむ、年頃の少女の扱いは繊細なる気遣いが必要だと痛感した。五秒で忘れたが。
ちなみにその後、いつものように俺を起こしに来た幼馴染との一悶着も合ったのだがそこは割愛しよう。
「いや、割愛しないでよ」
「はっはっは、視点保持者である限り俺は神である」
さて、そんな事を呟きまくっていると視点を取り上げられそうなのでこういう類のボケは控えよう。何事もほどほどが大切なのだ。
そんな訳で、幼馴染こと宮沢は今まさに登校しようというところの俺の隣にいた。今日も今日とて特徴のない女である。彼女には是非ともいつか謎の敵に襲われて大怪我を負って俺の覚醒を促してもらいたい所だ。三角関係を演じてくれるとなお良しなのだが、彼女はどうやら俺の事が恋愛的に好きではないらしい。残念である。
しかしあれだな、昨日の悪魔が空けた大穴について言及されたらどうしよう。マンションの隣室に住んでいるはずだが昨日は気付いていなかったようなので一安心していたが、流石に目の当たりにすれば否応なく気付くだろう。むしろこれをスルーされては節穴アイと呼ばざるを得ない。
「……ねぇ、そういえばあの女の子にも驚いたけどさ、この穴、何?」
「良かった、慧眼アイだった」
「頭の中で考えたいることを脈絡なく言う癖やめようよ」
おっと、流石幼馴染をしていると以心伝心である。ありがとう宮沢、全力で愛してる。五秒で忘れるが。
「ま、気にするなよ。どーしても聞きたいってんならあの美少女仮面に聞け」
「いや仮面じゃないし。ってか、勇の口から言ってもいいじゃん。家主としての説明責任? みたいなさ」
言い忘れていたというか言う意味がなかったというか、俺はこのマンションの管理人の息子であった。だからこそ宮沢も俺も高校生だと言うのに豪華なマンションで一人暮らしなのだ。割安最高、友人を家に止められる生活プライスカット。
しかしまぁ、ここで俺の口から言うわけにはいかない。主人公としては幼馴染に事情を隠しておいて後から判明した方がかっこいいのである。出来れば判明時に敵に襲われて大怪我をしていてもらえると前述の覚醒イベントもこなせて一石二鳥だ。
「逆に家主としてお前の質問を封殺するね。このマンションで起きた事は全て俺の管理内なのだよククク」
「いやでも……」
「うるせぇな。あんまり喚くとお前の部屋のスペアキーを実はお前の事を三年前から密かに好きな隣のクラスの相田君に渡すぞ」
「酷いし本人の口から聞きたかった!」
相田君に宮沢と付き合っていると思われ、俺もその気になり「へい、俺のベッドはいつでも空いてるZE?」と言って宮沢に殴られたのはいい思い出である。その件で見事に誤解は解けたので、世は全てことも無しだ。
「……ま、言う気はないってことだね。分かった分かった、あの子から聞くよ。あの子の素性も聞き出さないといけないしね」
流石幼馴染である。お礼におっぱいを揉んでやろうと思ったが、目に筆箱の中身を全て突き刺された過去の惨劇を思い出しやめておいた。俺じゃなかったら失明してんぞ。つまりは俺最強である。流石主人公。おぉ、宮沢を褒めようと思ったらいつの間にか俺を褒める流れになっていた。流石俺。
そんな感じに靴を履き終え、俺達は出掛けようとしている。別に靴紐を結んでいただのと言う情報は開示していなかった気がするが、情景描写がなくても雰囲気で察してほしい。行間を読むのが小説らしいですわよ奥さん。いや、行間もクソもなかったような気はするが。
そのタイミングで、家の中にいた謎の美少女が現れた。
「よぉ、快便だったか?」
「いや、小だよ!」
思わずと言う感じに言ってから赤面する。ははは、初い奴初い奴。
「あ」
と、そこで宮沢が声を上げた。
「どうした、忘れ物か? お前も便秘か?」
「小だって言ってるだろ!」
赤面しながら再び声を荒げ、結局はもじもじしだす美少女であった。その視線は何故か、俺よりも宮沢の方に向いている。
その宮沢も、驚愕した様子で指を彼女の方に向ける。
「あ……あの……学校じゃ髪下ろしてるし眼鏡だし気付かなかったけど……あ、相田さん?」
驚愕の事実、忘れていたが三年前から宮沢の事が好きな相田君は同性だった。
まぁなんというか、大惨事である。
*
「よぉ相田さん、宮沢の部屋の合鍵渡そうか?」
「唐突過ぎて意味が分からない!」
やはり相田さんはまだ俺の事を理解してくれていないようだ。空から落ちてくる系のヒロインに連なる者のくせに情けない。
そんな訳で通学路である。相田さんの制服は見事にウチの学校のものであり、初めから気付けなかった俺と宮沢は揃って節穴アイだ。節穴アイズだ。
そして節穴アイズを結成したと言うのに宮沢は俺の事を無視して相田さんと二人で話している。どうやら二人で、昨日の事件について話し合っているようだ。細かい奴らだなぁ、あんなの俺が正義的に邪悪を駆逐した、と一言で済ませられる出来事なのに。
「と、言う事で……もしかすると、君の幼馴染は私達の求めていた勇者かもしれないんだ」
「へぇ……あれがねぇ。どっちかというと魔王のようだけど」
あ、なんか背後で聞き捨てならない言葉とか聞かなくてはいけない言葉とかが乱舞している。
そんな訳で、ムーンウォークで話の輪へ入る。
「イサミイヤーは地獄耳ー♪(JAS○AC無申請)」
「替え歌でも申請しなくちゃいけないのかなぁ……?」
宮沢の呟きが聞こえたが、そんな事は俺の知った事ではない。こちとら闇社会NETSYOUSETUの住民である、法の網などグレーゾーンで掻い潜るのである。
「さてそんな訳で俺はお前らの今日のパンツの色を聞きたいわけだが」
「0,5秒で目的を見失ってんじゃねーよ」
はっ、危ない危ない。これが脊髄反射で面白おかしく生きる事の弊害か。宮沢は慣れているので方向修正してくれたが、相田さんは固まってしまった。これはどうにかしないと彼女をヒロインにすることは難しそうである。
さて、気を取り直して。
「相田さん、俺が魔王ってどういうことだ……?」
「混じってんじゃねーよ」
閑話休題。
さて、本題に入ろう。そろそろ話を進めないと俺が自分で何をやりたかったのか忘れてしまう。あまりに偉大すぎる俺の脳は凡百の事情など三歩で忘れてしまうのだ。自分の才能が怖いぜ。
「相田さーん、俺が勇者ってどーいうことだー?」
「冗談の時より馬鹿っぽいのは何故なんだ……あぁ、いやな……なんと言っていいものか、君は我々の求めていた勇者である可能性が……」
「マジか! 結婚してくれ!」
「話を聞く気がないだろう君!?」
むぅ、なんとか相田さんをヒロインにしようと積極的アプローチをかけてみたがどうやらスベったようである。何故だ、押せ押せでいけば特別な出会いをした女は惚れるんじゃないのか。酷い詐欺だな、世の中に出回っているラブコメ。
はぁ……と、想い人が隣に居るというのに盛大なため息をついた後。相田さんはどこか居心地悪そうに頭をかいた。
「まぁ、つまりはこれからも昨日のような事が起こりうる訳だが……すまない、不本意だとは私達に協力してくれないか? そうすればこちらから君を保護する事も容易になる」
と、相田さん。どうやらこのお願いを厚かましいだとかなんだとか思っているようだが、俺をそんな事でしり込みする一般ピーポォだとでも思ったのだろうか。心外である。
「OKだ。昨日も言っただろう、俺はこの展開を待っていた! その為に毎日身体を鍛えていたし、毎晩寝る前に腹くくり続けてきてんだよ!」
「……有難い、感謝する」
「そんなかんじのおおいかいわをするなよ! おれはかんじがにがてなんだぞ!」
「君は本当に締まらない男だな! 自分では『鍛える』だとか使ったくせに!」
えへへ、褒められた。
*
「そんな訳で放課後であるッ!」
カメラ目線で叫ぶ俺だった。ちなみにどこにカメラがあるのかは俺のさじ加減次第だ。つまりは常にカメラ目線、アイアムゴッド。
さて、煩わしい授業風景などだれも見たくないだろうという気遣いでここまで飛ばしてみた。まぁ飛ばしたシーンの中には俺が裸踊りしながら「おっぽれ!」と叫んでいたり様々なネタがあったのだが、そこは近日中に発売予定のディレクターズカット版DVDを乞うご期待である。嘘である。
そして放課後という事はまさに帰宅途中、いつも通り特長を母ちゃんの腹の中に忘れてきたような宮沢や地味眼鏡っ娘へとカムフラージュ変化した相田さんの「え、なんでいきなり大声……?」みたいな冷たい視線を独り占めしている。今年の冬は俺が頂きだな。
「しかし思ったんだが相田さん、何で俺が勇者だと言う事を伏せなければいけないんだ? というか正義の組織は何故基本的に一般大衆の目に触れずにひっそりと存在していくんだ? あぁそうか、格好いいからだな。なかなか隅に置けんなぁ、こいつめ」
「聞いておいて自己完結しないでくれ……」
げっそりとうな垂れる相田さん。今日一日で心なしか痩せたような気もする。奇跡の来栖勇ダイエットであった。
気を取り直して、相田さんは俺へと向き直った。しかし宮沢の事が好きなのにその辺りについてまったく触れていないなお互い。これが俺の魅力の力か。
「理由の一つとしては、大事にしない方が楽だという問題があるからかな。侵略者は――少なくとも私達が認識している幾つかの侵略者達は人を殺したりしないんだ。だから大袈裟に恐れて一般人が逃げ惑った方がむしろ危ないという話だよ」
「そうか、結婚してくれ」
俺の頷きながらの言葉にはまったくのスルーである。慣れたらしい。可愛くない奴め。
「そんな事より私は、君が何故あんなに強いのかという方が疑問だよ。勇者は確かにあいつらを倒すには必要だと言われているが、本人の戦闘能力は普通の人間と変わらないはず……」
「聞きたいか? なら教えてやろう――男は誰でも、心に一つライダーキックを持っている」
「意味が分からない!」
今度は思わず反応してしまったようだ。かわいい奴め、慣れた様子で携帯を弄っている隣の幼馴染もこれぐらいでいてほしい。
「あ、ちなみに仮面ライダーと言っても俺の変身はスーパー1だからな? 普通に手を大きく挙げるほうを想像するんじゃねぇぞ?」
「い、いや、私はそんなに詳しくは知らないんだが……」
「じゃあアバレンジャーの話しようぜ!」
「特撮大好きだな君は!」
まぁ、別にそういうわけでもないんだけどな。朝は七時に起きてプリキュアまで見る派の俺であった。ちなみにその後はローカル局の番組を延々と見て昼まで過ごしながらトレーニンングする。おぉ、話が繋がった。これが俺の強さの秘訣である。
「というわけだ、分かったか?」
「アバレンジャーだから強いのか君は!?」
しまった、脈絡なかった。
「まったく、私以外にはちゃんと話してあげなさいよ。テンション上がってんじゃないっての」
そんな訳で、ため息をつきながら我が幼馴染の加勢である。
「え、あぁ……来栖君はこれが素ではないのか?」
「まぁ普段からこんな奴ではあるけど、他人相手にはもうちょっと手加減するかな。仲良くなりたいんだよ、相田さんと」
よしよしと頭を撫でられて顔を赤らめる相田さん。なんかもうこの二人の関係決まったな、飼い主とペットだ。俺のヒロイン、ペットだ。
そのペットが飼い主に勇気付けられ、おどおどと俺の方を上目遣いで。うわなにこのこかわいい。
「そ、そうなのか……?」
「ん? あぁ……俺の事は親愛の情をこめていさみんと呼んでくれて構わないぜ」
「話を聞いてくれ!」
無茶な事を言う奴である。俺ならば人の話をよく聞いて吟味するよりその場で三回転宙返りしてブラボーと言われたい。
「まぁまぁ、人に話を聞けと言う前に俺の話を聞けよ? まぁ何を話したいかと言えば、平成の仮面ライダーの玩具展開についてなんだがな……」
「やっぱり特撮大好きだろう、君!?」
「別にそんな事ねぇよ。せいぜい『カクレンジャーとハリケンジャーは忍者被りだよね』という論文を書いて有名私立で不合格になった程度だぜ?」
「大好き過ぎるだろう!」
そんな俺達の様子を、隣で宮沢が笑っていた。この笑い上戸さんめ。
さて夜も深まる中、俺達はようやくマンションまで半分の距離に居たわけである。
「まったく……まぁいい。早く帰ろう、いさみん」
え、まさか本当に呼ばれるとは思わなかった。
*
そんな訳で自宅である。今回は叫ばない、何故なら隣の部屋までぶち抜く大穴があって近所迷惑だから。隣空き部屋でよかった。
さて途中で襲い掛かる敵的悪魔という反対にしてもやっぱり呼びにくい奴らを蹴散らしたのだがそこら辺はまぁどうでもいいのであった。
「私としてはどうでもよくないんだが」
「まぁまぁ。気にすんなって」
ちなみにその時、相田さんの持っていた剣を俺が使ったりもして「勇者の剣が覚醒した!?」などと敵に言われたりもしたのだがここは割愛すべきところだろう。無駄シーンを省いて物語は洗練されるのだ。
「さてそんな訳でとても気になることなのだが相田さん、何故君がここにいる? よく考えたら家ここじゃねぇじゃん」
「いさみんから初めてまともな言葉を聞く気がするな……いやなに、私もここに住まわせてもらおうと思ってな。勿論無理なら帰るが、どうだろう?」
「いや、駄目って訳じゃないんだが……どうしていきなりそんな事に?」
「まぁ理由は色々あるが、まずは勇者の剣が(早送りキュルキュルキュルキュル……ガチャ)と言うわけだなって何故か釈然としない!」
視点保持者は神なのである。うぅむしかし、地の分が少ないとやはり退屈なのだろうか……風景描写とかまじふぁっくなんだけど……。
「……? 何をいきなり深刻な顔をしているんだ?」
「いや別に。しかしいきなり一人暮らしとは、親御さんも心配だろうなぁ」
「前から守護者協会の寮に一人暮らしだとさっき言ったばかりだろう!?」
むぅ、そうであったか。早送りしていたので気付けなんだわっ!
「しかしなんで一人暮らしなんだ? ここで『あんな親……』と暗い顔をするか『両親は昔……な』と無理に笑ってくれるとフラグがいい感じだと思うんだが」
「その通りだが! その通りなんだが! 先に言われると釈然としないなぁ!」
おっと、時代を先取りしてしまったぜ。流石俺。しかし結局どっちなのは分からなかったな。もう一度聞くのは間抜けだし。
「まぁとりあえずそんな事なら、隣の部屋を使ってくれよ。大穴開いてて今の所普通の人は入居できないし、丁度いいだろう」
「え、えらくアッサリとしてるな……管理人だという親と相談しなくていいのか?」
「まぁそれは後日だな、どうとでもなるって。それより、そろそろ会話文が地の文を上回りすぎて小説の体を成さなくなってきたから早く寝ようぜ」
「君の言葉はいつも意味が分からないな!」
むぅ、これが超越者の孤独か。思わぬ所で実感してしまった勇者、俺。
しかし本当、地の文が少ないな……俺がもっと呟けばいいのか? ツイッターすればいいのか? 家に美少女なう。
「あ、そうだ相田さん。宮沢の部屋の合鍵、欲しいか?」
「欲しいか欲しくないかで言えばまぁ強いて言うなら前者だがそれでも個人のプライベートと言うものを考慮するとその行為はあまり背徳的でありしかしだな私個人の感情を無視することも中々に難しくだが合鍵があればいざという時に便利だなとあぁこれは詭弁だなあぁつまりなんだ、欲しい!」
「よっしゃ!」
投げ渡す。彼女も中々毒されてきたようで何よりである。この変態さんめ。
「ではおやすみ、早々に襲うなよ相田さん」
「まさか。もっとゆっくり時間をかけて陥落させたいよ。おやすみ、いさみん」
そして何も纏まらないまま夜は更け、俺達は就寝するのだった。マジ物語ねぇな、これ。