うじゃうじゃ×10
メタルイーターは本当に大量に湧いていた。
それこそ、うじゃうじゃと湧いていて、それよりももっと多い。うじゃうじゃの十倍ってくらいだ。
まぁ、さほど強くないだけにうじゃうじゃと湧いてくるのは逆に楽だ。
向こうから襲ってくるのなら返り討ちにし続けるだけでいいわけだからな。
とは言え、背負い袋をいっぱいにするのは中々大変だ。
背負い袋の荷物の判定は中々ファジーなものであり、重要なのは体積で、荷物同士の形状による隙間などは生まれないのだ。
段ボールを例にすると分かり易い。段ボールは組み立てた状態だと見た目上は大きい。しかし折り畳むとコンパクトになり、実際の体積は少ない。
背負い袋はあらゆる荷物を折り畳んだ段ボールにしてくれるわけだ。
だから、メタルイーターの殻で背負い袋をいっぱいにするのは相当に大変な作業だ。
恐らく、体積で一杯になるのではなく、重量で一杯になるのが先だろう。確か、要領は三百リットルだったか。
とすると三百キロ。殻が一つ三キロくらいだったから百個か。
「今までに四十体近く出て来たから、この調子ならすぐだな」
坑道に入ってから僅か二十分でそれだけの数が出て来たのだから、一時間もあれば終わるというわけだ。
こんなに弱いのに報酬が金貨三千枚相当だからな、やっぱりおいしい仕事だ。
まぁ、美味しいとは言っても一般人からすれば相当な脅威だろうな。
オレなら素手でもメタルイーターは倒せるが、一般人では武装しても不可能だろう。たぶん、このメタルイーターはそんじょそこらの猛獣より強い。
冒険に出る前のオレが戦ったとすると、相当な苦戦をした上で相討ちになるくらいだろうか。
ほんと、この世界は強さのインフレ度合がハンパじゃないな……。
とはいえ、最近は微妙に伸び悩みを感じている。
今までグングン強くなっていたのに、今はそれがかなり遅くなっている。
それでもゆっくりと成長はしていると分かるんだがな。
やはりもっと強い敵とたくさん戦わなくてはいけないんだろうか。
「とは言っても強い敵がなあ」
強い敵なんて早々居ない。やはり、危険な秘境などに踏み込んでいく必要があるんだろうか。
オレ一人で突っ込むなら何も躊躇せずに突っ込んでいけるんだが、リズや玉藻はほぼ確実についてくるだろうし、リンも恐らくついてくる。
ついてくる以上はそいつらの責任ではあるんだが、だからと言って死んだのはお前が悪い、なんて悪びれもせず言えるほど薄情ではない。
とは言え、死んだからそれで終わりというわけではない。この世界では死者蘇生が出来る。
しかし、死者の蘇生は巨大なメリットだが、必ずしもメリットだけが存在するわけではない。
蘇生する為には遺体が無くてはならない。つまり、その遺体を連れて町に戻らなくてはいけない。
人一人分の死体を運ぶのは相当な苦労だし、腐敗してしまえば蘇生は不可能になる。周囲の環境にもよるが、一週間が限界ってところだろう。
死ねばお荷物が増えると言うことだ。死体担いでの逃避行なんてぞっとしない。
じゃあその場で蘇生させれば? という考えも浮かんだが、蘇生させてもそいつは数日は動けない。
その場での蘇生は殆どメリットが無いのだ。
だから、慎重になってしまう。迂闊に動けない。
仲間という鎖に縛られている。
自由って、何だろうな。
「いでっ!」
ぼんやりと考え事をしていたせいで、横合いから襲ってきたメタルイーターに気付かなかった。
頭に食いつかれたので引っぺがす。ちょっと皮膚が裂けただけだな。チッ、髪が抜けた。
「ハゲたらどうしてくれんだ」
殻ごとメタルイーターを握り潰す。今度のメタルイーターの殻は柔らかかった。銀色っぽかったからかね。
今まで戦った感じだと、黒い奴の方が硬くて、銀色っぽい奴の方が柔らかい感じがする。
まぁ、銀色の奴でも明らかに鉄より硬いが。
「ニーナ、ぼんやりしないで。気付いたら首が転がってたとかいや」
「うー、すまん」
後ろを歩いていたリズに注意された。ごもっとな話だ。今は探索に集中しよう。
「それにしても、いきなりこの妙な巻貝が湧いたというのはどういうことなのだろうな」
「変なもんでも掘り当てたんじゃねえの。地底人の遺跡とか」
考えてみればメタルイーターが大量に湧いたとしか聞いてないんだよな。繁殖したのか、どこからともなく現れたのか、そのどちらかもわかっていない。
一体何が起きたのやら。まぁ、分からんでも問題ないと言えば無いか。
そう思った時に、横合いからメタルイーターが溶解液を吐き出してきた。それを少し大げさなくらいに回避する。
金属を喰うモンスターだ、少なくとも王水レベルの酸度だろう。
体にかかったらそこは炭化しちまうだろうし、武具にかかれば溶けちまう。大げさなくらいの回避がちょうどいい。
ふむ、こいつは溶解液を主体に戦うタイプか。
モンスターも生物な以上知能もあって、どうやらこいつらの知能は高めらしい。
飛びかかってくる奴も居れば、一目散に逃げる奴もいる。
戦い方も飛びかかるだけな奴や、溶解液と飛びかかりを上手く混ぜ込む奴、一定の距離を保って溶解液を吐きかけてくる奴と個性的だ。
コイツはどうやら溶解液を吐きまくるタイプらしい。
「【アイシクル・ランサー/氷柱の槍】」
近づきづらいので、魔法を使って攻撃。
放たれた氷柱の槍は的確にメタルイーターの顔面をぶち抜いた。
足元の石を蹴ってぶつけてみても動かない。死んだようだ。
「アイシクル・ランサーも慣れて来たな」
もっと練習は必要だろうけど、安心して戦闘に投入できるくらいにはなっただろう。
そう思いつつ、メタルイーターを拾い上げてその軟体の体を引っこ抜く。
そして殻を背負い袋に放り込む。
「次々行くか。玉藻、次に密集してそうなところは?」
「うむ。もうちと先にかなり集まっているようじゃ。相当臭う」
「あいよー」
既にオレの鼻でもメタンの異臭は嗅げるくらい強くなっているのだが、その方向は全く分からない。
元々、人間の嗅覚じゃ臭いの方向は分からないものなので、その臭いの方向を判別できる玉藻に頼るしかない。
さて、その玉藻の指示に従って道を進み、時折現れるメタルイーターを始末して行く。
かなり楽な仕事ではあるが、これではヒマだな……そう思っていた時、玉藻が眉を顰めた。
「臭い」
「そりゃ今までずっとそうだったろ?」
さっきからその臭いの方向に頼って来たんだから。何を当たり前の事を言ってるんだ?
「いきなり強くなりおった。いかん、頭が痛い……」
そう言うと頭を抱えて蹲ってしまう。
「大丈夫か?」
確かに臭いが強いと頭が痛くなる事もあるか……嗅覚が強いだけに大変だな……と思っていると、玉藻の頭に生えている狐耳が消えた。尻尾もだ。
「うむ、これはいい。しかし、暗いのう」
「ああ、なるほど。それなら鼻も利かないか」
一瞬何か拙い事になったのかと思ったが、人間化する事も出来るって言ってたか。人間化すれば感覚も鈍るだろうから、それを利用したわけね。
「一応聞いておくが、その状態になったら役立たず……なんてことはないよな?」
「うむ、ハッキリ言うてしまうが、この形態は最弱形態じゃ。利点なんぞ一個も無い」
ダメじゃん。まぁ、動けないよりはマシだけど。
とりあえず、動けるならそれでいいか。というわけで、再度歩き出す。
そうして歩いていると、玉藻の言った通り、どんどんと酷くなっていくのが分かる。
「うわ……これは……」
坑道の最奥部まで来たのだろう。行き止まりとなっている部分に大量のメタルイーターが群がっている。
群がっているメタルイーターの殻は大半が灰色に近い色を放っており、どうやらタイタン銀の含有量が多いらしい。
こいつらを始末すれば袋も大体一杯になるだろう。
「玉藻、一掃できるような魔法は?」
気付かれて襲ってくる前に可能な限り数を減らしておきたい。
幾ら弱い敵とは言っても群がってくれば面倒だ。
「あるが、触媒が高いぞ」
「面倒だからやってしまえ」
「あい分かった」
玉藻が懐からエメラルドらしき欠片を取り出し、精神を集中させた。
そして今のオレには到底真似できそうにない複雑な呪文回路、それを滑らかに構築していく。やはり本職は違うな。
そう思ったのもつかの間、呪文回路の構築が完了したと同時、玉藻が宣言を行う。
「【ヴォーテックス・オブ・ブラスト・レイザーズ/旋風による突風の刃】」
風が渦巻いた。その風は見る間に途轍もない勢いとなって坑道内部を吹き荒れる。
魔法の効果圏外に居るというのに、かなりの突風が体を叩く。引き込まれてしまいそうになる勢いだ。
そして、その効果圏内では風に吹き飛ばされそうになっているメタルイーターを剃刀のように鋭い風の刃が襲い、その尽くを殻ごと切り裂いていく。
なんつー切れ味だよ。
やがて風が収まると、もはや生きているメタルイーターは一匹も居らず、切り裂かれた骸が死屍累々と転がるばかりだった。
メタルイーターの死体の山からはかなりひどい臭いが漂っており、迂闊に火でも近づけたら爆発しそうな勢いだ。
「スッゲー威力だな……」
「準備に時間がかかるがの。魔力の消費も大きい。あまり多用は出来ぬ」
触媒も見た所エメラルドを使ってたみたいだし、そこらへんからも多用は厳しいか。
とは言え、魔法使いの持ってる打撃力は桁が違うな。前世で言えば爆撃機って感じだ。
さておき、メタルイーターは一掃できたのでさっそく殻を回収する。汚いが、まあ金のためだから仕方ない。
その回収を終えてから、周囲を軽く探索してみる。
ここが行き止まりである以上、何かはありそうだ。
メタルイーターが大量に湧き出してきたというなら、ここに何らかの形跡があるだろう。
……あった。
「穴、だな。ここから出て来たのか?」
天井に程近い箇所にある穴。横穴だな。風が流れて来てる。この奥に道があるみたいだな。
ちょっと狭いが通れそうだ。さっさと帰るのが吉だが、まだ背負い袋は一杯ではないし、この先に何があるかも気になるな……。
メタルイーターが大量に湧いて来たのがなんでかなんてどうでもいいんだが、もしかしたら何か面白いものがありそうだ。
「ちょっと見てくる。ヤバかったら戻ってくる。玉藻、【ナイトビジョン/暗視】頼む」
「うむ。【ナイトビジョン/暗視】」
玉藻がオレに魔法をかけると同時、ライトスティックのあまりの明るさに目が眩む。
目を閉じ、目尻の辺りを揉み解してから目を開けると、周囲はまるで昼間のように明るく見えた。
ナイトビジョンの魔法は一時的に目を強化するのだが、どうやらこれ、目に入る光を増幅させる魔法らしい。
なので、強い光を間近で見るとまぶしくてたまらん。
「よし、んじゃ行ってくる」
穴によじ登り、その出口のところにライトスティックを置いていく。
ナイトビジョンがあれば、微かな光でも十分よく見えるので問題ないのだ。
そうして進む途中で一匹メタルイーターと遭遇したので魔法で始末。
ここからメタルイーターが湧いて来たのは間違いないようだ。
やがて横穴の終わりに辿りつく。そこから顔を出すと、水の匂いがする。地底湖か?
とりあえず、足元を確認して飛び降りる。
オレの着地した音がよく響いた。
「ふむ……メタルイーターの巣とかがあるって感じじゃないが……」
じゃあメタルイーターは何処から湧いて来たんだろうか。そう思いつつ、静かな湖水を湛える地底湖を見やる。
湖の透明度はかなり高く、白い魚が泳いでるのがよくわかる。
魚に目が無い……ってことは相当長くここで繁殖してるみたいだな。
とりあえずこの湖は飲める水ではあるようだ。
「うーん……深さはそうでもないみたいだけど……」
指先で触れてみると相当冷たい。泳ぐのは自殺行為だな。
それに、魚の泳ぎ方を見るに水流があるようだ。それもかなり速そうだ。
水流があるってことは、どこかに繋がってるのかね。メタルイーターはそこから来た、とか?
「とりあえず、明りをつけてみるか」
ナイトビジョンの効果時間にはまだ余裕があるはずだが、流石に明りが足りない。
【フレイムスロワー/火炎投射】を発動させて右手を炎に包むと、一気に周囲が明るくなる。
「お、小島が……」
視界が広がったおかげで地底湖の広さと、その地底湖の真ん中に小島がある事に気付いた。
小島とは言っても、かなり広い。地底湖自体も見渡す限り、ってくらいの広さだ。
その小島に木……相当でかい木が生えてる。その木はオレの右手から放たれている光を受けて、淡く発光し始める。
どうやら普通の木じゃないらしい。って、地底に木が生えてる時点で普通じゃないか……。
「何かありそうな感じだな……」
ここから小島までは四十メートルくらいか。それならイケそうだ。
そういうわけで、軽く助走をつけて、走り幅跳び。
少し水の中に落ちたが、足が濡れただけで済んだ。
「……凄いな、この木」
近づいてみれば分かる。言葉では説明できない圧倒的な存在感がある。
ここで何千年も生き続けて来たんだろうと分かる。
「けど、この木はなんなんだ?」
手で叩いてみると、内部はみっしりと詰まっている。まだまだ元気そうだ。
とりあえず木の回りをぐるりと歩いてみると、洞穴を見つけた。
「ここに何か居るのか?」
燃えている手を翳して照らしてみるのだが、全くもって暗い。光を吸収してるのか?
試しに火を点けてない松明を突っ込んでみるが、途中で消える。どうやら視界を塞ぐ魔法か何かかかってるらしい。
「うーん……女は度胸だな。何かお宝とかありそうだし」
まず手を突っ込んでみる。何ともない。
じゃあ、次は顔を突っ込んでみる。
「っぅ!」
目に激痛。何かトラップでもかかったのかと思って目を閉じたが、瞼の裏でやたらと明るいのが分かった。
恐る恐る目を開いてみれば、そこはやたらと明るい草原だった。
「……は?」
なんで草原?
周囲を見渡してみれば、どうやら草原の中にある木の洞から顔を出してるらしい。
鼻をくすぐる草木の香りから、これが幻覚ではないと物語っている。
「わけわかんねえ……」
わけがわからないのであれば、みんなに相談してみる。それがいちばん。
なかば考える事を放棄しつつ、オレはみんなの元へと戻っていくのだった。




