遺跡探索
というわけで新章開始。
壁が迫ってくる。地響きを立てて迫ってくる壁は今にもオレ達を押し潰さんと部屋の面積を狭めて行くのだ。
「は、速くしてくれ! もう保たねえ!」
「あ、あと少しじゃ! もうちょっと頑張るんじゃ!」
「が、がんばってらぁ! ぬあああああ!」
そして、オレは今にも押し潰されそうになっている。オレだけが。
なんでオレだけかと言えば、迫ってくる壁を腕を突っ張らかして抑えているから。
腕力が一番強いのはオレだから順当な人選ではある。しかし、なんでこんな罠にかからなくちゃいかんのか。
「う、運が悪すぎるだろう、オレ!」
まぁ、運が悪いから、に尽きる。
今までにも落とし穴に落ちるわ、強酸を浴びせられそうになるわ、飛んできた矢が腹をぶち抜くわで罠にかかりまくっている。
しかも、その罠にかかっているのはオレだけという……。
この罠ばかりは他の面々もかかってるが……。
「ぐぐぐ……! ま、まだか!」
「も、もうちょっと! ここをこうして、そっちをこうして……そんでもって、これで、こうじゃ!」
その言葉と同時に部屋の出入り口に展開されていた【ウォール・オブ・マジック/魔法による障壁】が解除される。
玉藻たちが部屋から飛び出したのを確認すると、オレは突っ張らかしていた手を離し、走って部屋から飛び出す。
飛び出した直後、背後で壁が閉じる音が聞こえた。
「はぁ、はぁ、はー……はー……し、死ぬかと思ったぁ……」
「ああ……ニーナが居なければ死んでいたな」
……
「でも、ニーナが居なければ罠にかかってなかったかも」
「おぬし、幾らなんでも運が悪すぎるぞ」
「う、うるせー。オレだって好きで罠にかかってるんじゃねえ」
ちゃんと気を付けている。気を付けているのに、罠にかかるのだ。
先頭を歩いているとはいえ、罠にかかる率が高すぎる。
そもそも、魔法による探知で発動する罠なんてオレは察知出来ん。
玉藻は察知が遅いし、リズも洞察力が高くても本業じゃないから気付き難いし。
そういうわけでオレは罠にかかりまくっている。……運が悪いのもあるかもしれないが。
「しかし、逆に私達は一度も罠にかかっていない。それを考えると対処を一人に絞れるという点では有用やも知れん」
「ニーナを弾除け扱いか。酷い奴じゃのう」
「ひどい。鬼、悪魔、鬼畜。リンの変態痴女」
「そ、そんなつもりは無いぞ!? というか痴女とはなんだ!? 痴女とは!」
未だに自覚ねえのかよ。
「まぁ、痴女じゃな。上半身がサラシ一枚と籠手のみと言うのはどうかと思うぞ」
「下も薄着過ぎるかも。下着まるみえ」
「何がおかしいんだ! 下着が見えても困る事はあるまい!」
いや、だからその発想の時点でおかしいんだよ、お前は。
「まぁ、下着は裸身を隠すためのものじゃから見えても困らんと言えばその通りなんじゃが……」
「その通りなんだけど……でも、その格好はどうかと思う」
オレだけがそう考えてたわけじゃなかったのか、よかった。
「へ、変か? 私の格好は変か?」
「変ではないが、変態的というか」
「正直、男を誘ってるように見られても仕方ない気がする」
「そんなつもりは無いぞ!?」
「お前にそのつもりが無くてもそう見えるんだよ。せめて上着くらい着れば?」
「な、ならばいいものがある!」
そういってリンが背負い袋を漁り、中から何かを取り出し、それを羽織る。
「どうだ! 母上に頂いた陣羽織だ!」
「いや、それ前隠せてねえよ」
下半身の方の露出は大分抑えられてるけど、上半身のサラシは丸見えじゃねえか。
「露出は減っただろう!」
「いや、まぁそうなんだけど……」
そういう問題かなぁと思いつつ、オレは起き上がってすぐ近くに転がっていた剣を手に取った。
オレの剣じゃない。そもそもオレは剣を持ってないしな。
鞘から抜き出してみると、魔法の気配を感じる。流石にこれだけ至近距離なら感じ取る事は出来る。
これなら高く売れそうだな。儲けた。ありがたく貰っておく。
おっと、ナイフが転がってた。拾い上げて鞘から抜いてみると、黒光りする金属が顔を覗かせた。
「アダマンティンのナイフ見っけ」
アダマンティンのナイフは非常に頑丈で切れ味の素晴らしい武器だ。
武器にもなるし、モンスターの死体の解体にも使えたりと、便利な道具。こういった稼業をする者は必ず持ってる程だ。
これもありがたく貰っておこう。オレはもう持ってるが、結構高く売れるからな。
「鎧は……ダメそうだな」
身に着けていた鎧は革鎧だ。それなりに上等なものだったのだろうけど、だいぶ腐食してしまっている。これじゃ売れないな。
「こっちの宝箱は……っと」
死体の持ち物をありがたく貰い受けた後は、そのすぐ傍の宝箱を開いてみる。
金貨が大量に入ってる。三百枚くらいか。
それから大粒の宝石がかなりたくさん。
罠が無いかを確かめると為に、中の金貨を全部放り出してみる。
「お、なんだこれ。綺麗だな」
その金貨に混ざって、数枚ほどの蒼い金属で出来た貨幣があった。
拾い上げてみると見た目よりも軽い。何の金属だ、これ。
「あ、カナマンチウム硬貨」
「え?」
その貨幣を見てリズが少し驚き、その名前を言う。カナマンチウムって言うと、リズの持ってる槍の素材の名前じゃなかったか。
「この特徴的な青はカナマンチウム以外にない。あれから一万年も経つのに、まだ残ってたんだ」
「偉い昔だな……何処の国が発行してた貨幣なんだ?」
「ゼンドール帝国という国が戦勝の度に記念通貨として発行していた。カナマンチウムは武器に使えば強力なものになる。それを貨幣に使うことで帝国は強大さを誇示していた」
「なるほどな」
それだけ強力な金属を貨幣に使うことで、そんなことに使えるくらいカナマンチウムが余ってると他国に誇示してたわけか。
見栄でやってたんだとしても、そんな事が出来てた時点で相当な大国だったみたいだな。
「で、高く売れるのか?」
「さぁ。私が旅していた時代だと、金貨数十枚分の価値はあったけど」
「それなら結構な儲けもんか」
言いつつ、そのカナマンチウム貨幣を鎧の内側にしまい込む。金貨と宝石は背負い袋の中に。
「ええと、後は罠を稼働させてた宝石か」
罠を稼働させるにはエレメンタルを宿した宝石が使われる事が多い。
エレメンタルが宿っていれば、半永久的に稼働し続けるから宝石が動力源に使われるんだそうだ。
罠は危険だが、上手く解除出来れば一攫千金の可能性もあるってわけだ。
「回収済みじゃ。ほれ」
そして、どうやらだが既に玉藻が回収に向かっていたらしく、その手に一抱えもありそうな巨大なダイヤモンドを抱えていた。
「でっけぇー。幾らくらいになるかな、これなら」
「さぁ、どうじゃろ。市場を見て回った感触で言うと、軽く金貨八千枚分くらいにはなりそうじゃが」
思わず口笛を吹いてしまう。大儲けだな。最初の遺跡探索でこれとは幸先がいいかもしれん。
「後は脱出するだけだな」
「うん」
まずはさっき迫って来た壁をどうにかしないとな。動力源を解除したからもう動かないってことは、閉じてしまった壁を開かないといけないわけだから。
とりあえず、壁の隙間に斧の刃を差し込んで動かしてみる。
「いよいしょっと」
すると、ゆっくりとだが動き始めた。動かし易いように滑車か何か取り付けてあるんだろうな。
ある程度開いた後は他の奴らにも手伝って貰って人が通れる程度の道を作る。これでよし。
「さあて、じゃあ、帰りますか」
「帰ったら、おいしいもの食べようね」
「賛成じゃ。保存食はもう真っ平じゃ」
「うむ、いい案だ。私も賛成しよう」
「んじゃオレも賛成だ。とっとと帰るぜ」
そういうわけで、オレ達はこの四日間探索していた遺跡から脱出し、遺跡から大分離れた地点にある街へと向かうのだった。
「かんぱーい」
「乾杯」
「乾杯? こうすればよいのか?」
「はいはい、乾杯」
がちん、とグラスをぶつけ合うが、中身がジュースじゃどうにも締まらん。玉藻のは酒だけど。
ともあれ、数日振りの水以外の飲料は刺激的だ。まさかサイダーがあるとは思わなかった。
まぁ、サイダーって果汁をソーダ水で割れば作れるから、作るのは難しいわけじゃないだろうけど。
さておき、飲み物で喉を潤した後は早速料理に手を付ける。
大衆酒場らしく、雑然とした料理だが暖かい料理というだけで十二分に素晴らしく感じる。
無事帰れた祝いとは言っても、高級な料理店なんかはドレスコードがあって面倒だ。
なので、こんな風に気楽に祝える場所で祝いをやって居るのだ。
「しかし、大事なく終わってよかった。初日にニーナが落とし穴に落ちた時はどうなるかと思ったが……」
「ああ、死ぬかと思ったぜ、アレは。底の方は強酸で埋め尽くされてたからな」
咄嗟に両手を突っ張って壁に留まれなかったらオレは今頃ドロドロに溶けてただろう。
「わしはその翌日にニーナが火だるまになったのに一番驚いたな」
そういえばそんなこともあったな。気合いで吹き飛ばしたから何とも無かったが。
「オレが一番驚いたのは初日の密室で毒ガスが出て来たところだ。何が驚いたって、オレが何とも無かったのが一番驚いたよ」
「そういえばそんなこともあったのう」
玉藻は毒が効かない体質を身に着けているので何ともなく、リズは鎧が防毒性の力を帯びていて何ともなし。
そしてオレは肉体が頑健過ぎて毒が効かなかった、というわけだ。
そうなった以上、毒が効いたのはリンだけだった。
急いで壁ぶち破って、リズが解毒して事なきを得たけど。
「しかし、まさか毒が効かないとはなぁ……」
「毒も少量なら薬になる。肉体が丈夫になればその許容量も増えるというわけじゃ」
すげぇ理屈だよな。しかしその理屈で行くと、免疫系も強靭になってるって事か。風邪引かないとかありそうだな。
「と言うことは、私の肉体は頑健さが足りないと言うことか」
「そうじゃろうな。修業が足りんぞ」
「うっ……め、面目ない」
「まぁ気にするな。毒が効かなかったオレの方が変なんだし」
たぶん、そっちの方が変だろう。だからリンが気を落とすことは無いはずだ。
「何はともあれ、こうして全員無事で帰って来れたし、探索も成功した。今はとりあえず祝おうぜ」
「うむ、そうじゃな」
「うん。じゃあ、もう一回かんぱーい」
「またやるのかよ……はいはい、乾杯」
「これでよいのか」
「乾杯」
その後、何事も無く帰還祝いは終わった。
そしてこの数日の疲れを公衆浴場で身体の汚れと共に洗い流し、宿泊していた宿屋に。
気だるい疲れを感じる体をベッドに横たえて、この町に来るまでにあった事を思い出す。
始まりはリンが豚をうっかり斬り殺した所だったか。
その後にオレ達はバルティスタ共和国から逃亡。
バルティスタ共和国から東に徒歩で二月ほどの道のりを走破し、このアシュリーナ皇国へとやって来たのだ。
正直そこまで逃げなくてもよかったかもしれないが、バルティスタ共和国に居るよりはマシだと思ったのでここまで逃げて来たのだ。
そしてその旅で馬を買ったり、保存食やらの食料を買い込んだりした為に路銀が大分尽きてしまった。
なのでアシュリーナ皇国に辿りついて数日程の休養を取った後に遺跡の探索に乗り出した。
町の近くの遺跡なんてものは大抵探索され尽してしまってるが、盗賊が隠れ住んだり、知能のあるモンスターがそこに宝を隠したりする。
望み薄ではあったが軽く探索してみて罠があった事から改めて探索してみたのだ。
何もなかったらもうちょい遠出して金になるモンスターを討伐しに行ってたから、そこは運が良かったかもしれない。
ちなみに、遺跡に宝があった理由は簡単だ。途中で変な魔法使いが居た。以上。
出会ったと同時に実験材料にしてやるとかで殺されかかったので返り討ちにしたのだ。
たぶん、あの遺跡を根城にして善からぬ事をしてたんだろう。
で、その後に罠にかかりながら遺跡を探索して、罠が厳重な場所を突き進んで宝が置いてある場所を発見。
剣とナイフがあった理由は分からんが、大方オレたちと同じように探索しに来た奴らを殺したんだろうな。
ちなみに、その剣とナイフ、そして宝石たちは総計して金貨一万一千七百枚になった。
一生遊んで暮らせるような額だ。まぁ、魔法のかかった鎧を買ったら一発で消える程度の額だがな。
今は全員が納得する使い道を考えてるところだが、装備の強化とかになるだろう。
いずれにしろ、今日はもう遅い。
明日はまた探索に出る予定だし、今は休もう。考えごとも明日やればいい。
目を閉じて、ベッドに身を委ねる。するとすぐに眠気が押し寄せて来た。
また、明日。明日もきっと楽しい一日になるに違いない。
旅の途中はキングクリムゾンによって吹っ飛ばされました。
ここから各国を股にかけて、あれこれとやっていく話になります。




