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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
冒険再開からバルティスタ共和国脱走まで
55/62

リンはとんでもない事をしてくれた

 意識が覚醒した時に感じたのは猛烈な倦怠感。

 体中が泥濘に浸かり、体内にまでその泥濘が入り込んでいるような怠さ。

 とてつもなく酷い風邪とアレルギーを患って、ついでに鉛でも抱かされているような感覚。

 

「ぅ……うぅ……なんだ……これ……」

 

 自分の意思で起き上がれない。泥濘に包み込まれているようで。

 全身を悪寒と、ちくちくとした嫌な感触が苛んでいる。

 

「ニーナ……目が覚めた……よかった……」

 

 すぐ近くで心底安心したような、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。

 誰だろうと思考を巡らせて、一瞬遅れてそれが誰なのか気付く。

 

「う……リ、ズ……?」

 

 リズ。

 リーゼロッテ・エルゴリア・ヴェルトール。

 オレの仲間の一人。

 エルフの少女。

 神槍だったか聖槍エルゴリアとやらを武器にしている。

 

「あ……ああ……」

 

 だめだ。体がだるくてだるくて。思考も胡乱だ。

 まともに頭が回りやしない。なんだか、ひどく疲れている。

 

「ニーナ、おとなしくしていて。蘇生直後は余り動くと危険だから」


「そ、せい……?」

 

 蘇生……と言う事は、オレは、今生きているのか……?

 ふと、あの空間での会話を思い出して、自分の手を見ると、何時の間にか右手の薬指に、あの時にアサナに貰った指輪が嵌っていた。

 

「……なんで、くすりゆび……」

 

 動かない体を何とか動かして指輪を外そうとするが、どうにも指が滑る。ダメだ。この調子じゃ指輪を外すのに百年は掛かっちまう。

 

「リ、ズ……この、ゆびわ、ちょっとはずして、くれ……」

 

「指輪……いつからこんなのつけていたの?」

 

「しらね……」


 夢の中で貰った指輪が何故ここにあるのかなんて分からない。とりあえず、今此処に指輪がある事は確かだ。

 

「この指輪……何処かで見たことある……誰にもらったの?」


「アサナって、いってた……」


「そう……彼らが……ニーナ、おめでとう……幸せにね……」

 

「は……?」

 

 なんのことだ……?

 

「それなら、この指輪を私が外すことは出来ない。今はゆっくりと休んでいて」


「あ、ああ……」

 

 よく分からないが、あとで自分で外せばいいか……。

 そう思って、自分の寝ているベッドに深く沈みこんだ。

 なんだか、ひどく眠い。少し、寒いような気もする。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ眠ろう。

 目覚めたら、いつもどおりの自分に戻っているから。だから、ほんのちょっとだけ……。

 

 そう思って目を閉じれば、オレはすぐにも眠りについていた。

 

 

 

 それから、何日か。

 殆どを眠って過ごして、体中に立ち込めていた異常な倦怠感と疲労感はすっかりと癒えて居た。

 

 あの異常な倦怠感と疲労感は、魂が肉体に完全に定着していない事による異常だったらしく、魂が肉体に適合すれば、すぐにも治ったらしい。

 しかし、死から立ち返り、この世に再び蘇ったというのに、特にこれといった感慨が無い当たり、オレは何処かズレてるんだろうか?

 まぁ、蘇れたことは嬉しいと思ったが……。


 とにかく、蘇り、体の異常も完治した。

 いつまでもここ……教会のお世話にもなっていられない。

 蘇生術の行使自体は何処でも出来るらしいのだが、教会は治療院も兼ねるので教会でやった方が好都合だったらしい。

 ご多分に漏れず、オレも教会で蘇生が行われていたのだ。

 そしてそのまま治療院で暫く世話になっていた……と言う訳だ。

 

「色々とお世話になりました、神父様」

 

 こういうのも退院というんだろうか。

 そう思いつつもオレは教会の神父様に礼を言って頭を下げる。

 色々と世話を焼いてくれた上に、治療費をただにしてくれたのだ。


「いやなに、気にしなくても結構だよ。私は治癒一つ行っていないし、蘇生術もリーゼロッテ君がやったのだからね」

 

「といっても、その触媒を負担したのは神父様じゃあ……」


「いいんだよ。この町を救ってくれた英雄から金を取ろうとは思わないよ」

 

 人格者って言うか、いい人だなぁ……風采は上がらなそうだけど……。

 

「それに、私では使うことの叶わない上級の蘇生術も見ることが出来たからね。運が良かったと思っておくよ」

 

「はぁ……そうですか……」

 

 なんでも教会を任される人間は最低でも蘇生術が使える必要があるんだそうだ。

 しかし、その蘇生術というのは肉体が完全に残っていないと使えないとのことで、オレの場合、両手と片足、そして頭が完全に吹っ飛んでいた。

 つまり、この神父さんはオレのことを蘇生できなかったのだ。

 

 しかし、先ほど神父さんが言ったように、リズがオレを蘇生する事が出来た。

 それは単純にリズが神父さんが使える蘇生術よりも上級の蘇生術が使えたと言う事。

 上級の蘇生術は肉体の半分が残っていれば蘇生する事が可能で、オレの死体は半分以上残っていたので蘇生に成功したのだという。

 

 神父さんはそれを見れただけで運がいいというが……どれくらい凄い事なんだろうな。

 そう思いつつも、もう一度礼を言ってからオレは教会を出た。

 

「ふー……教会は何でかわかんねーけど居心地わりーんだよな……さて、行くか」

 

 何も悪い事してないのに交番の前を通る時にビクつくのと同じようなもんだろうか。

 実際に神様が居るから罰が当たるのが恐いってのもあるかもしれないな……なんて考えつつ、オレはリズたちが逗留している宿屋へと向かった。

 

 道順はわからんが、位置関係は覚えているので問題なく宿屋に辿り着き、リズたちの使っている部屋を聞く。そして、その部屋へ。

 

「うーす。ただいまー」

 

 そう言って扉を開き、部屋の中に入ると、そこには実に幸せそうな顔で寝るリズだけが居た。

 リンと玉藻の姿は見あたらない。

 

「どっかに出かけたのか……?」

 

 不思議に思いつつも椅子に腰掛けてリズの寝顔を見やる。

 本当に幸せそうな顔で寝ている。エルフには睡眠が必要ないって嘘なんじゃねえのかな。

 そう思いつつ、リズの頬を撫でる。

 

「サンキューな……お前のお陰で助かった。お前が居なかったらどうなってた事やら……」

 

 リズの使った魔法がどれだけのものかは知らないが、少なくともこの街の神父さんは使えないと明言していた。

 オレはもしかすれば蘇生などされることなく、そのまま埋葬されていたことだろう。

 オレが今こうして生きていられるのも、リズがその蘇生魔法が使えたからだ。


「ホント、凄い奴だよ、お前は」

 

 戦士としても強いのに、蘇生魔法なんて代物まで使えるなんて、早々あるとは思えない。本当に、凄い奴だ。

 

「……そんなに褒められると、ちょっと照れる」

 

「うおあっ!?」

 

 寝ていたはずのリズが声を発し、椅子から転げ落ちるほどに驚いた。

 

「な、なな、なんで起きてんだよっ!」

 

「最初から、寝てない。瞑想をしていただけだから……」


 リズがベッドから体を起こしながら言う。寝てるのと瞑想の区別がつかねえよ畜生……。


「じゃあ声掛けた時に返事してくれよ……」

 

「瞑想中は聴覚が殆ど機能してないから声を掛けられても気付けない……触れられたりしない限り、目覚める事はできない」

 

「ああ、そう……」

 

 オレが頬に触れたことでようやく気付いたってことかよ……。

 

「……えーと、リンと玉藻がどこいったか、わかるか?」


「ん、取り立てにいってる」

 

「取り立て?」


「うん。ニーナが全財産支払わせるって約束させた人たち。玉藻がその話を聞いてた」

 

「ああー……」

 

 そう言う事か。

 

「それと、町長がニーナに会いたいって。もう、会った?」


「そう言えば来たっけな。礼を言われただけだった。ケチな奴だ」

 

 文字通り命がけで街を救ったんだから、気持ち程度でもいいから謝礼金を払ってくれたっていいだろうに……。

 

「それで、今まで聞けてなかったが、オレが死んでから、どうなったんだ?」


「ん、それが、ニーナがランドドラゴンを倒した直後、何故かゴブリンたちが全員退いて行った」

 

「え、それ本当か?」


「うん」

 

 なんであのドラゴンを倒したことでゴブリンたちが撤退するんだ?

 オレに敵わないと思ったから撤退したっていうのは考えづらいし……というか、そもそもあの数のゴブリンが沸いてたって言う時点で色々と不自然なんだよなぁ……。

 

「ニーナも気付いてるとおもうけど、これは明らかに不自然。ランドドラゴンは亜竜種の中でも知能が高くてうかつに人間を襲ったりはしない」


「ゴブリンはそう簡単に逃げ出すほど頭が良くないしな……」

 

 どちらも不自然なところがある、と言う事だ。

 第一、沸いて出て来たゴブリンは万を超えている。その時点でおかしかったのだ。

 それが二度目もあり、二度目の時にはランドドラゴンまでも襲来した。不自然どころか完全に異常だ。

 

「何が起きているか分からない。けど……」


「けど?」

 

「これから少しだけ騒がしくなって、そして静かになる。その静けさの後……国に跨るほど大きな争いが始まるはず」

 

「嵐の前の静けさって奴か。占いか?」


「うん。外れないと思う。何が起きるかは分からないけど……」

 

 そう言った直後、バンッ、と部屋の扉が勢いよく開き、部屋の中にリンと玉藻が飛び込んできた。

 何事かと問いかけようとした時、リンが血だらけだと言う事に気付いた。

 

「おい! どうしたんだ!?」

 

「怪我? すぐに治療する」

 

 そう言って近づこうとすると、リンが手で制止する。どうしたって言うんだ。

 

「怪我は無い、ただの返り血だ」

 

「返り血? 何殺したんだよ」

 

「その、豚を少々……」

 

「豚ぁ?」

 

 なんでそんなもんを……。

 

「実は、あと二人で取り立てが終わるというところで、その豚と会ってな」

 

「うん」

 

 まぁ、街中で豚を放し飼いにすることも稀にあるからおかしくは無いか。

 

「その豚が言うには、ドラゴンを倒した冒険者に会いに来たとの事だ」

 

「豚が喋ったのか?」

 

「う、うむ……な、なんでも、それほど腕が立つというなら是非一目会いたいとの事でな」

 

「はぁ……」

 

 変わった豚だなぁ……まぁ、この世界だからありえそうだけど。

 

「しかし、聞けばその豚はお前を妾にするために来たというのだ。強く美しいのなら、自分の妾兼護衛として相応しいとかで……」


「どういう豚だよ……」

 

 豚が人間の妾貰おうとすんじゃねえよ。

 

「その豚めが所詮は女が倒したドラゴンならば大した事は無いなどと言い出し、自分の腕っ節でお前を屈服させ、無理矢理にでも妾にするなどというから……」


「言うから?」


「つ、ついカッとなって無礼討ちに……」

 

「あー……」

 

 オレでもぶっ殺してたかもしれないから、まぁ攻めることは出来ないだろう。それに豚だしな。

 

「そして豚豚といっていたが、その豚は実はこの領地を修めている領主で、余りにも豚ソックリに太っていて……」


「はああああああああっ!? 何をやってんだおまえぇええぇぇ!?」

 

「貴族、殺しちゃったの?」


「す、すまなかった! かくなる上はこの腹を割って……!」


「馬鹿! 逃げるんだよ! お前が腹掻っ捌いたって意味ねえ!」


 その豚は死んだというから、リンの罪を追求するのは、その豚の親族だろう。

 豚の親族の性質にもよるが、貴族という奴は権力を誇示する為に罪や罰は厳しく問う。 

 それこそ、貴族を殺した相手には一切の温情は与えないだろう。下手をすれば、この街の人間の大半が皆殺しにされる可能性すらある。

 リンの仲間であるオレたちなんか確実に罪を問われるだろう。そして一族郎党皆殺しだ。

 であれば、完全に面が割れる前に逃げ出すしかない。

 

「速く荷物纏めろ! 逃げるぞ!」

 

「私の荷物は整ってる。ニーナの荷物はここ。鎧も入れてある」

 

「サンキュー!」

 

 魔法の掛かっている背負い袋を受け取って一応中身を確認する。

 鎧もナイフもロングソードも全部入ってるな。

 

「速く逃げるぞ! ノロノロすんな!」

 

「わ、わかった!」

 

「ニーナ、窓から逃げよう。大通りは避けて、屋根の上を跳んでいった方がいい」

 

「わしはどうすればいいんじゃ。屋根を飛び越えられるほどの身体能力はないんじゃぞ」

 

「玉藻はオレが背負ってやるから捕まってろ!」


「おお、これは役得かもしれぬな」

 

 なんでこんな急展開に陥ってしまったのか。

 リズの言った予言では、少しだけ騒がしくなって、なんて言ってたが、これが少しだって言うのか?

 リズの表現がズレてるんだか、それともこれが少しって言えてしまうくらいとんでもない混乱が起こるのか……。

 とにもかくにも、オレたちは窓から逃避行を開始するのだった。

リンがうっかり無礼討ちをしたのですが、本来のプロットだとニーナが貴族を殴り殺してました。

カッとなって殴り飛ばす→首がもげる→やっべええ!せ、接着剤くれ!という感じでした。

でも快復直後にそれはどーなのよ?と思ったので仕手をリンに変更。

ちなみに無礼討ちは自分より下の身分の者に対して行うものでした。

リンの身分がいまいち曖昧なので、無礼討ちかどうかはハッキリしませんが、無礼討ちというのが妥当に感じたので無礼討ちに。

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