レイジングバトル
今回は今までと比べてグロテスクな描写が多いです。苦手な方はお控えください。
上下から襲い来るドラゴンの顎門。
まるでプレス機に押し潰されるような状況。
倒れ込み、踏ん張れない状況になった時点で終わりだ。
そのまま胃まで持っていかれれば一寸法師ではないので、内側から倒すなんて出来るわけもなく。
そうなれば胃液に溶かされ、ドロドロニーナになって哀れにもこいつの栄養になっちまう。
「くっ……がっ……!」
そんなのは真っ平御免だ。
オレの命はデカいトカゲの空腹を満たすためにあるのではない。
だが、全身全霊の力を振り絞っても、顎門は次第に狭まって行っている。
もはや温存していた【戦闘のための肉体形成】を温存し続けるなんて悠長なことは考えていられない。
身体能力を活性化させる。伸びた手足で更に全力を振り絞る。
それでも、僅かずつ開かせていくのが限界。
このままでは、オレの体力の方が先に尽きる。
「クソッ、がっ……! 舐めてんじゃっ、ねえっ……!」
激情が湧き上がってくるのが分かる。
自分を制御できるかも分からないが、あれをやるしかない。
名前をつけるなら【レイジング・バーサーカー/激怒する狂戦士】。
技と言っていいのかも怪しいが、自身を激怒と狂乱と殺意と……闘争本能を掻き立てるあらゆる感情で塗り潰す技。
制御出来なかったとしても、構いはしない。
どうせ、殺す対象は周囲に幾らだって居る。
リズやリンたちには既にオレの技の危険性を教えてある。わざわざ近づこうとはしないだろう。
「くっ……うおおおッッッ!!!」
激情と狂乱。燃え盛る殺意の焔。
どす黒い濁り水が全身を巡るようなイメージ。
その漆黒の殺意は肉体を限界を超えて駆動させる燃料となり、オレの身体能力を爆発的に底上げする。
なんとか、手綱は、取った。
だが、今にも制御を離れて暴れ出しそうな程のじゃじゃ馬だ。
いつまで手綱を取っていられるか……いずれにしろ、速攻で決める他にない。
爆発的に底上げされた身体能力を全力で発揮し、ドラゴンの顎門がゆっくりと開いていく。
その速度は加速度的に早まり、やがて完全にドラゴンの顎門が開き切る。
後は抜け出すだけ。そう思った直後に、ドラゴンの咽頭の奥から激しい炎が噴き出した。
ドラゴンブレス! そう理解した直後にはオレは火炎に包まれていた。
火炎の激流がオレを空中へと吹き飛ばす。
落下していく感覚を感じながら、全身から裂帛の気合いと共に力を放射し身体を包む炎を吹き飛ばした。
そして地面に着地。
地面に転がっていた大斧を回収し、今度は地面を疾走して襲い掛かる。
まずは、脚を狙う。四肢のどれか一つを奪うだけでも、十分な戦力減退になるはずだ。
そう思って駆け抜け様にドラゴンの後ろ脚へと斧の一撃を叩き込んだ。
激しい金属音。そして勢いよく弾かれる。
「ぐっ! ぐぐぐっ……!」
なんて硬さだ! 大斧じゃあ歯が立ちやしない!
そう理解して斧を投げ捨てる。デッドウェイトになるだけだ、こんなもん!
そしてアダマンティンのナイフを抜くと同時、オレを薙ぎ倒そうと迫って来たドラゴンの脚を避け、その脚にナイフを突き立てる。
鱗を砕き、内部の肉を抉る感触。そしてドラゴンの咆哮。
「ぐがっ……!?」
次の瞬間、背後から襲い掛かって来た衝撃に弾き飛ばされる。何だ、何が起こった!?
数十メートル以上も地面を転がりながらも起き上がり、何が起きたかを把握する。
尾だ! その長大な尾を薙ぎ払ってオレにぶち当てやがった!
クソッ、注意する箇所がさらに増えやがった!
だったら今度は上から攻めてやる!
再び跳躍。先ほどよりも遥かに地面を強く蹴って、頭を飛び越え、その背中へと飛びつく。
そして、鱗の隙間にナイフを突き刺す!
肉を抉る感触。ナイフを思いっきり捻る。
ドラゴンの咆哮が響き渡る。そして暴れ出すドラゴン。
それを、ドラゴンの体に突き立てたままのナイフを握る事で耐える。
ドラゴンが暴れれば暴れる程にナイフはその身体を抉っていく!
「クハハッ……ハッハッハッハッハハハ!」
もう一本のナイフを鞘から引き抜き、それを突き立てる。
そして、もう一方のナイフをドラゴンの体から引き抜き、更に前の方に突き立てる。
それを繰り返し、前へと進んでいく。
首を掻っ捌いてやる。そう思った直後、浮遊感。
落下している。
だが、ナイフはしっかりと握っているし、ナイフもドラゴンの体に突き刺さっている。
決してオレがドラゴンの体から振り落とされたわけではない。
では、なぜ落下しているのか。
それを理解した時にはもう、オレはドラゴンの下敷きとなっていた。
「かっ……! くっ、っ、かっ……!」
コイツ、自分から倒れ込んで押し潰しにかかりやがったっ!
だ、ダメだ……このままじゃ、圧死、する……!
死ぬ……死んでしまうっ……!
「ぐっ、がっ……! があああっ……!」
全力でドラゴンを持ち上げようとしても、ピクリともしない。
ドラゴンは自ら動くつもりなど皆無だろう。
このまま、死ぬのか、オレは。
そんなの、認めない。認められるか、そんなことが!
オレがこんなところで死ぬなんて、絶対に認めない! そんなのは許容しないっ!!
体が滅び去ったっていいっ!
心が砕けたって構わないっ!
この状況を打破する力をっ!
瞬間、燃え盛る殺意の炎はオレの制御を離れ、全てが漆黒の殺意に染まった。
火薬でも叩き込んだかのように燃え盛る凄まじい激情が、完全にオレの肉体を支配する。
オレじゃないオレが、殺戮本能だけに支配されたオレが、動き出す。
「ガガッ……ギッ、ギイィィイィィイィィッ!!」
めきめきと骨が軋み、ぶちぶちと筋肉が破断していく。
だが、ドラゴンの体は持ち上がらない。耐える事も出来ない。このまま死ぬ。
そう思った直後、ドラゴンが悲鳴を上げて地を転げた。激情に支配されているオレは何が起きたのかという事も考えず、愚かにもドラゴンへと襲い掛かった。
オレがドラゴンの背中に突き立ったままのアダマンティンのナイフを回収し、その背にナイフを突き立てる。
すぐ近くには蒼い金属で出来た槍が深々と突き刺さっていた。
どうやら、リズがドラゴンに投げつけて援護してくれたと言うことらしい。
「ギヒッ! ギヒヒヒヒッ! ぎゃはっ!」
愉しそうに、実に愉しそうに、オレはドラゴンの背にナイフを突き立て続けている。
そしてまたドラゴンが倒れ込もうとした瞬間、オレは獣のように跳躍し、ドラゴンから飛び退いていた。
地面に着地したオレは疾駆し、倒れ込むドラゴンの首筋へとナイフを突き刺した。
それを一気に真横へと引き裂けば、ドラゴンの首筋から勢いよく血液が溢れ出す。
血に汚れながら、オレはドラゴンの首筋にナイフを突き込み、その肉をぐちゃぐちゃに引っ掻き回していた。
いいぞ……そうだ、やれっ、やってしまえっ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!
そうだ、殺せ、殺すんだ。こいつをぶち殺して、オレが勝つんだっ!
自分自身へと同調する。オレはそうでなくてはならないと、自分の全てを明け渡すように。その全てを委ねるように。
オレは嗤った。
ドラゴンの首の内部に走る管を切り裂く。滅茶苦茶にして、ぶち殺してやろうと。
ドラゴンが腕を振り上げ、オレを押しつぶそうとして来るのも無視した。
そして、当然の帰結としてオレは叩き潰された。
「キヒッ……ギヒヒッ……! ぎいっ……!」
全体重をかけられない脚一本なら、持ち上げるのは無理で、横に退かせる。
また首筋にナイフを突き立ててやろうとした直後、喰いつかれた。
「ギヒッ! ギヒャッ、ヒャッヒヒ! ヒャハハハッハハッハッハ!」
手の届く箇所に手当たり次第にナイフを突き立てる。
自分の肋骨が砕け、内臓が破裂するのが分かる。それも無視する。
何度も何度もナイフを突き立て続けた。
ドラゴンの口腔から炎が溢れ出し、オレの体を焼く。それも無視する。そんなことにかかずらっている暇はない。
「ガアアアアアアアアアアアッッッ!!」
何度も何度も、ナイフを突き立てる。
一撃一撃に必殺の意思を込めて。
深く深く、抉るように。何度も突き立てる。
絶対に殺してやると想いを篭めて。
それに業を煮やしたドラゴンがオレを放り投げる。
地面に投げ出されると同時にすぐさま立ち上がり、再びドラゴンへと襲い掛かる。
いつの間にやらドラゴンの脚を切り付けているリンを無視して、再びドラゴンの背に飛び乗る。
そして突き立っているリンの槍を引き抜いて投げ捨て、そこへとナイフを突き立てる。
肉を抉って、その内部へと手を潜り込ませる。
心臓は何処だ? 心臓を潰せばブチ殺せる。
ドラゴンは肉体を持ちながらも、霊的な存在でもあり、その心臓がドラゴンの操る元素を秘めている。
その心臓を叩き潰せば、ドラゴンは否応なく即死する。
「ギギギッ……! ギッ!」
力づくでドラゴンの傷口を切り開く。
無い。心臓が無い。どこにあるんだ。
「ニーナ! 心臓はもっと下!」
後ろから聞こえて来た声に従いもっと腕を潜り込ませる。
熱い。途轍もなく熱い。体内で火の元素が猛り狂っているのだろう。
腕が沸騰していくような錯覚すら覚える。
それも無視して、更に腕を突き込んでいく。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!!!」
ドラゴンが身を震わせ、オレを振り落した。そして、振り落したオレへと向けて喰らいついて来た。
それに対し、オレは右手のナイフを突き出していた。
「ギッ!?」
ドラゴンの口内を切り裂いた手応え。その直後、右腕の感覚が喪失する。
唐突に軽くなってしまった右腕に違和感。
自分の腕を見やれば、そこにはあるはずだった腕が無く、勢いよく鮮血が噴き出しているだけだ。
まあいい。左腕はまだ残ってる。
だが、武器が無い。ドラゴンの背中から回収しなくてはならない。
そう思った時にはもうオレの体は実行に移していた。
ドラゴンの背中へと跳躍し、着地。そして突き立っていたナイフを回収し、先ほどまで押し広げていた傷口へと向かう。
そしてまたもドラゴンがオレを振り落す。
そこからは先ほどの焼き増し。またもドラゴンがオレに喰らいついていくる。
「ガアアアアッッ!」
左腕を失うのが拙いのは分かる。武器を使う所がなくなる。だからオレは蹴りで迎撃した。
先ほど口内に突き立てたナイフを狙って放った蹴りがナイフに激突したのが分かる。
そして、左足の感覚が消失する。別に構わない。右足が残っていれば。
右腕が無くなって左足も無くなったから、バランスが取れてちょうどいい気もする。
そう思った直後に、ドラゴンの腕がオレを薙ぎ払っていた。
その鋭い爪はオレの鎧を軽々と引き裂き、その下にあるオレの腹部も引き裂いた。
その衝撃で地を転がり、左腕で地面を殴りつけて無理やり起き上がる。
何かが腹から零れ出しているような気がする。まあいい。
そう思いながら、また跳躍して、今度は一直線に傷口にナイフを突き立てていた。
左腕を傷口の奥へ奥へと突き込んでいく。何処に心臓があるのかと頭すらも突っ込む勢いで。
そして、一際熱く脈動する何かを掴み取った。
その瞬間、ドラゴンが今までにない勢いで暴れ出す。
咆哮も狂気染みたものへと変貌し、オレの事を必死で振り落とそうとしてくる。
だが、絶対に離さない。離してやらない。
しかし、このままでは心臓が潰せない。握り潰そうとしても、かなり硬くて潰せそうにない。
「キヒッ」
呪文回路を構築する。いつもよりもずっと遅いそれ。
今か今かと振り落とされないようにしがみ付きながら呪文回路の完成を待つ。
「■■■■■■■■■■■■■――――!!」
喧しい咆哮と共にドラゴンが無茶苦茶にブレスを吐き散らす。
そして、呪文回路の構築が完了したと同時、オレは持てる力の全てを注ぎ込んで呪文回路を発動させた。
【フレイムスロワー/火炎投射】。燃え盛る火炎に手が包まれる魔法。
その魔法は今までにない勢いで発動し、火の元素の渦巻くドラゴンの心臓に影響を与えた。
燃え盛る火炎という方向性を持った元素の溢れ出すオレの腕が発火剤になり、ドラゴンの心臓を途方もない反応速度の燃焼を発生させたのだ。
反応速度の速い燃焼は爆発という形を以てこの世に顕現し、ドラゴンの心臓をオレの左腕と頭ごとこの世から消し飛ばしていた。




