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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
冒険再開からバルティスタ共和国脱走まで
52/62

防衛戦

 城壁の上で、意気揚々と出発した兵士たちを眺める。

 一糸乱れず整列した軍馬が走っていく様は中々に壮観だ。

 装備も統一されているので、後ろから見ていて非常に綺麗だ。

 まぁ、あのゴブリンの軍団相手には張子の虎だろうけど……。

 

 その兵士に対するように遥か遠くに見える森からは、わらわらとゴブリンが現れ続けこちらに進撃しているのが分かる。

 その数は現時点で分かるだけで、軽く三千に達しているだろうか。

 この調子で増え続けるなら、万に達するのもそう遠くは無いな。

 

 さて、互いの進軍速度からすると、あと一時間とせずに交戦するだろう。

 とは言え、途中で兵士たちは城壁からの援護が届く距離で足を止めるだろうから、もうちょっと時間がかかるか。

 あ、兵士たちの進軍が止まった。

 

「しかし、あれっぽっちの数で何をするつもりなのかね?」

 

「さぁ……軍団とは言っても、百や二百を想像していたのではないか?」


「ん、ゴブリンは確かにそれくらいで群れるのが普通」

 

 数千つってたのに、よっぽど人の話を聞いてなかったわけだ。

 そう思っているうちに、ゴブリンの軍勢は次々と湧き出してくる。

 最早大地全体が鳴動しているようにすら見える程の数。

 もう万に達しているんじゃなかろうか。

 

 そうしてさらに時間が経ち、兵士たちがゴブリンを視認出来る状況になり……兵士たちは踵を返して逃げ出した。

 

「うわー……情けねー……」


 あんなに大見栄切っておいて、やるのは撤退かよ。いや、ありゃ撤退ってより敗走だな。戦ってすらいないのに負けるとは。

 

「まあ、あれが正常な反応じゃがな。人間同士の戦争ならば、彼奴等は十二分な戦力じゃしの」

 

「ふーん……」

 

 ってことは、オレ達みたいな冒険者が戦争に参戦すれば、相当な活躍が出来るんじゃなかろうか。

 ああ、相手も同じように冒険者を雇って戦争に投入するか……。

 

「ふむ、どうやら中に入れて貰えんようだな。まぁ、当たり前だが」

 

 リンの言葉で逃げ出した兵士たちを見やると、城門を必死で叩いているのが見えた。

 しかし城門は死んだ貝のように固く閉じられており、開けられる事はない。

 まぁ、防衛部隊として外に出したんだから、逃げて来られちゃ困るわな。

 

「そろそろ行った方がいいかね?」


 まだまだ大丈夫だろうが、これ以上相手に進軍させると町に近すぎる。

 それに、兵士たちに命を助ける代金の交渉をする時間が無くなる。

 

「ふむ……確かにそうだな。行くとしよう」


「よし、オレは中央をやる。リンは左翼を、リズは右翼を頼む。玉藻はー……」

 

「わしはここから魔法で援護する。そうじゃ、ニーナ、いい魔法をかけてやろう。【モデレイト・ストレングス/中級筋力強化】」

 

「お?」

 

 玉藻が何か魔法をかけた瞬間体が軽くなる。

 背負っていた大斧を手に取ってみると、まるで羽のように軽い。

 

「筋力強化か」

 

「うむ。これ以上のものは無理せねば使えんでな」

 

「ああ、分かった」

 

 そういえば、今の段階でも使えないような魔法でも多量の魔力を消費する事で使えるようにする技術があるんだっけな。

 玉藻の言う無理は、その技術を使わずに使える魔法が、という事だろう。

 

「ついでじゃ、リン、おぬしにもかけてやろう。【モデレイト。クイックニング/中級速度強化】」

 

「む、かたじけない」

 

「たまも、私には?」


「おぬしにはいらんじゃろ。はよ行け」

 

 なにやらションボリしているリズだが、実際に要らんだろうに。一人だけいい鎧に武器使ってるんだし。

 そう思いつつ、オレは壁面から落下した。

 

「うおおおっ! こりゃスゲエ!」

 

 高速で地面が迫る感覚に、風に乗っている感覚。

 それは地面への着地ですぐに終わってしまったが、大変おもしろかった。こりゃスカイダイビングにハマる奴の気持ちも分かるな。

 

 そう思いつつも、こちらへと向かってくるゴブリンを見やり、後ろに振り返る。

 そこには神様にお祈りしたり、何やらわけのわからない言葉を口走っている兵士たちが居た。

 ありゃ、一番情けないのは隊長さんだな。小便漏らしてら、きたねえ。

 

「よう、今なら格安で助けてやるけど……助けは欲しいかい?」

 

「た、助かるのか!? 助かるんだな!?」

 

 うおっ、すげえ食いつき。まぁ、当然と言えば当然かもしれんな。

 誰だって死にそうな状況で助けが来ると分かれば縋り付く。オレだってそうする。

 

「そりゃアンタらの態度次第だな。幾ら払う?」


「い、幾らでも払う! 全てやる! 全て! だから助けてくれ!」

 

「オーケーオーケー。で……アンタらはどうだ?」

 

 隊長さんの他の面々にも問いかけてみるが、全員が全財産を支払うとの結果に。

 こいつらの全財産がどれほどのものかは知らないが、こいつらが絞り出せる限界ではあるんだろう。それで妥協しておくか。

 

「交渉成立だ。アンタらは何とかして城塞の中に入れて貰いな。ゴブリンは押し留めるが……全部仕留めきれるとは限らない。物量が未知数だ。だからこの町を放棄しな。助かりたきゃケツまくって逃げろ」

 

 それだけを言うとオレは大斧を手に一気に走り出した。

 体が軽い。こんなにいい気分なのは初めてだ。

 

「怖いものなんか、ねえな」

 

 そして、地面が砕ける程の跳躍。

 助走を得ていた跳躍はオレを砲弾の如く地面から射出し、とてつもない加速度を得て地面へと着弾させた。

 

 着弾の衝撃によって周囲のゴブリンどもが吹き飛ぶ。

 そして周囲を見渡す。

 おや、破城槌まで用意してたのか。投石器に移動式の弩砲まであるな。

 随分と用意周到だ。ますますもってゴブリンが企画した行動とは考えられないな。

 

 上には突然変異の天才ゴブリンが居るか、あるいは他の強大な種族に力で脅されているか……まぁ、いずれにしろ目の前の敵に対応する必要があるな。

 

「……イケるか?」

 

 そう呟きながら、群がって来たゴブリンを薙ぎ倒す。

 さて……やれるかどうかはともかく、試してみる価値はある。

 そう考えた時にはもう走り出していた。

 

 「退きなぁっ! オレに近づいたら漏れなくぶち殺しちまうからよぉっ!」

 

 目の前のゴブリンを力づくで薙ぎ払いながら、一直線に破城槌へと向かっていく。

 そして破城槌の元へと辿り着くと、破城槌の内部で槌を動かす為に待機していたゴブリンが襲い掛かってくる。

 

「邪魔だッ!」

 

 もはや大斧を振り回す事は出来ない。大斧を放り捨て、拳でゴブリンを殴り飛ばす。

 次々とゴブリンを薙ぎ払い、一端の終着を見せると同時に、オレは目の前の槌……長大な丸太を見やる。

 

 長さは、十五メートルはあるだろう。太さも中々。今のオレじゃあ両手を回せないほどに太い。先端部分は金属で出来ており、非常に頑丈そうだ。

 重量は、どれだけあるかな……?

 

「まぁ、重さがどれだけあろうと関係ねえよなぁっ!」

 

 右手のガントレットを外し、丸太に指をめり込ませた。

 そして全力で握り締め、持ち上げた。

 

 めきめきと木全体が悲鳴を上げる音。

 歯を食い縛り、全身の筋肉をフル稼働させる。

 丸太が、持ち上がる。

 そして、その丸太を手にオレは破城槌の内部から飛び出し、薙ぎ払った。

 

「ぐっ……! オオオオオッ!!」

 

 丸太に激突するゴブリンたちが腕に与える抵抗感は途方もないものだった。

 それを、歯を食いしばって無理やり振り抜いた。

 

 半径十五メートルに及ぶ範囲攻撃。

 それを魔法使いではなく戦士が発揮する。破格の範囲と言えるだろう。

 オレのバカげた身体能力が可能とする、文字通りバカげた攻撃方法。

 

 その攻撃方法によって、ゴブリンが次々と薙ぎ払われていく。

 今ので軽く百匹近くは仕留めた。だが、敵はまだまだ湧いて出てきている。

 

「ヘヴィだな……ほんとによ……」

 

 再び丸太を薙ぎ払いながらそう呟く。

 だが、やると言った以上はやってやる。

 言ったことは護る女なんだ、オレは。

 

「うおおっ……! らああぁっ!」

 

 もう一度丸太を振り回し、ゴブリンを薙ぎ払う。

 何度も何度も、丸太を振り回す。

 

 圧倒的な質量を武器とした破格の範囲攻撃はゴブリンを全く寄せ付けず、周囲にゴブリンの撲殺死体を大量に作り上げ続けていた。

 

 何度振り回し、何千匹殺したか。

 

 周囲の足元全てがゴブリンの死体で埋まり、骸の山が積み重なり始めた頃に、咆哮が空を切り裂いた。

 

 地響きを発するかと思うほどの途轍もない咆哮は森から発せられ、その森が薙ぎ払われていく。

 まるで巨大な何かが木々を薙ぎ倒しながら森を突き進んでいるかのように。

 

 そして、オレの想像通りに、その巨大な何かは木々を薙ぎ倒して草原に姿を現した。

 

「■■■■■■■■■■■――――!!!!」

 

 大地を揺るがし、大気を振るわせ、天を切り裂かんばかりの咆哮。

 それを放った存在は、全身を鱗に覆われた途方もない巨体を持っていた。

 それが一体どういう存在であるのかは一目見ただけですぐにわかった。

 

 ――――ドラゴン。あらゆるモンスターの中でも最強の位置に君臨する存在。

 

 それはたったの一匹で城塞都市を滅ぼし、国家の動員した軍隊を薙ぎ払う最強。

 そんな最強の存在が、オレ達の眼前に現れていた。

 

「冗談キツいぜ……ヘヴィにもほどがある……!」

 

 しかし、そのドラゴンを改めてよく見れば、翼が無い事に気付く。

 ドラゴンは全て翼を持ち飛翔するものだ。それが飛翔に適したものであるかどうかはさておき。

 しかし、あのドラゴンらしきモンスターには翼が無いように見える。

 

 完全に陸上を走るのに適した四肢と肉体を持っており、翼など見当たらない。

 もしかすれば今は見えない腹の方にあるのかもしれないが、そんなところに翼があるとは思えない。

 であれば、あれはドラゴンではなく、それによく似た存在であると言う事か?

 

「……いずれにしろ――――倒さなきゃならねえよなあ!」

 

 アレを倒すことが出来れば、オレはもっと強くなれる。

 なら、挑戦する価値はあるんじゃないか?

 死ぬかもしれない。しかし、あれを乗り越えることが出来ればオレは強くなる。

 その分だけ死が遠のく。一か八かの賭けと言ってもいいかもしれない。

 

 そもそも、あれから逃げ切れるかどうか怪しいものだ。

 アレの走る速度は明らかにオレ達の移動速度よりも速い。軽く時速百キロ近く出ているだろう。

 逃げたところで追いつかれ、背後から美味しく頂かれるだけだろう。

 

 だったら、倒すしかない。

 あのドラゴンの屍を乗り越えて行かねば、道は無い。

 

「行くぜオイッ!」

 

 丸太を投げ捨て、先ほど放り出していた大斧を拾い上げると全力で走り出した。

 

 土煙を上げて疾駆し、道中のゴブリンを次々と薙ぎ払っていく。

 そして、ドラゴンの姿が近づくに連れ、その威容が分かり始め、強さを実感する。

 

 体躯は全長十メートルにも及ぶだろうか。

 その体重を支える為か、腕一本が人間よりも太い。

 対照的に頭はさほど大きくない。あれなら飲み込まれる心配はないだろう。

 全身を覆う鱗は黒曜石のように黒光りし陽光を反射している。

 

 そして、肌に感じるその強さ。それは確かに圧倒的なものだった。

 だが、決して勝てないとは言わない。そんな強さ。

 オレ一人では厳しいだろう。

 だが、オレ達四人……オレと、リズと、リンと、玉藻。その四人で挑めば、ほぼ確実に勝利を掴める。そんな相手だ。

 

 しかし、今オレは一人で挑もうとしている。

 一人では厳しい。

 いや、殆ど勝ち目はないだろう。それでもオレは挑む。

 だって、アイツらなら必ずコイツを倒すために、そしてオレを……仲間を助けるために駆けつけると分かっているから。

 

 もしオレの仲間がコイツに一人で挑もうとしていたのなら、オレは必ず助けに駆けつける。

 それは損得勘定抜きの、助けたいから助けるとか、気付いたら体が動いてたとか、そんな単純な理屈による確信だ。

 

 そんな確信を持っているのはオレだけじゃなく、他の三人もそうだとオレは信じて、頼っている。

 

 そんな信頼がオレに無謀な挑戦を許容するのだ――――!


「何よりオレは負けず嫌いなんだよっ! テメェに負けたくねぇっ!」

 

 勇気に燃え、奮い立つ心に従いオレは全力で跳躍した。

 狙うは顔面。鼻っ柱、あるいは目を潰す。

 感覚器官のいずれかを奪うことが出来れば、圧倒的な優位に立つことが出来る。

 そして、今まさに斧を振り下ろそうとした瞬間だった。


「――――オイオイ……そりゃないぜ……」


 ドラゴンがその頭のサイズからは信じられないほどの大口を開けた。そしてドラゴンは大口を開けたまま機敏に顔を動かし、オレへと喰らいついて来た。

 

 一応大斧を振り下ろして見るものの、トップ部分は当たらず、柄が鼻っ柱を叩くだけ。

 ドラゴンには全くの痛痒を与えることが出来ず、オレはそのままドラゴンの口内に飲み込まれた。

 

 そう言えば……蛇って見た目よりもずっと顎が大きく開くんだっけ……? コイツもそういうタイプなのかもな……。

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