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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
冒険再開からバルティスタ共和国脱走まで
51/62

町に戻ってそれから

 ゴブリンの軍勢から逃げ出し、数時間が経った。

 途中で【戦闘のための肉体形成】が切れ、飢餓状態に陥ったが、最後の保存食を喰い尽して回復すると撤退を続けた。

 正直、今どちらへと向かって逃げているかもわからないが、戦い続けているよりはマシだ。

 

 既にゴブリンたちの追跡は感じていない。

 しかし、安心はできない。もしかすれば、存在を隠蔽して追跡を続けているかもしれないのだから。

 だからこそ未だに逃げ続けているのだ。

 少なくとも、体力の限界までは逃げ続けた方がいいはずだ。

 

 そして、その体力の限界は既に間近だった。

 戦闘状態から全力疾走での撤退だ。体力の限界に至るまで早いのも当然。

 

 しかし歩き続ける。そうそう簡単に弱音など吐きたくない。

 だが、限界はもう目前だ……そう思った時、視界がゆがんだ。

 

「ああ……」

 

 転んでるなぁ……と馬鹿な事を考えつつ、顔面から地面に突っ込んだ。

 だめだ。もう動けない。地面が柔らかくて鼻と口まで埋まり込んでしまった。

 苦しい。窒息しそうだ。まぁいいや……よくねえよ!

 

「ぶはあっ!」

 

 起き上がって、仰向けに倒れ込む。もうそれが限界。

 これが本当に最後。絶対に動けない。もー無理。

 

 もう梃子でも動かんと思って大の字に寝転がると、すぐにリズが倒れ込んで、そのまま静かに寝息を立て始めた。

 リンも同じように倒れ込み、そのままピクリともしなくなる。

 玉藻だけは座り込むが、木に背中を預けるとそのまま寝入ってしまった。

 

「ああー……」

 

 オレも寝よう。もう無理だ。色々と限界だ。

 どうなっても知るもんか。もう寝る。寝るぞ。

 眼を閉じた直後にはもう、意識は眠りに落ちていっていた。

 

 

 

 頭の痛みで目が覚める。何やら痛い。かなり痛い。まるで噛み付かれてるように痛い。

 首も痛い。無理やり頭だけ持ち上げられてるような気分だ。

 なんだか生臭い。凄い臭いだ。かなり臭い。

 しかし、なんでこんなに頭が痛いんだろう……。

 

 そう思っていると、唸り声が聞こえる。随分と近い。

 すぐ近くまで猛獣が迫っているようだ。まあ、本格的にやばくなったら起きよう……。

 

 身体が揺らされる。かなり強い力だ。誰が揺さぶってるんだ。

 

「いてえ……やめろ……リンか……?」

 

 返事は無い。唸り声と頭の痛みが強くなる。

 やかましいな……仕方ない……起きよう……滅茶苦茶眠いんだが……。

 

 そう思って目を開くと、真っ暗だった。日没が近いとは思っていたが、こんなに真っ暗になるもんだったろうか。星明りも見えない。

 しかし、頭が痛い。とりあえず頭に触れてみる。何やら随分と硬い。

 

 はて……オレの髪はこんなに剛毛だったろうか……。おかしいな……頭を触ってるはずだが頭の方に触られてる感触は……。

 

 唸り声が喧しい。すぐ近くから聞こえてくる。その割には襲ってこない……いや、頭が痛くて、なにやら生臭くて、唸り声が近くから聞こえるってことは……。

 

「既に襲われてるじゃねえか!」

 

 オレの頭に噛み付いていた虎の顎を無理やり開くと、頭を抜く。

 そして、虎の頭を掴んで時計回りに回した。

 虎の頭が百八十度逆になったところで、虎が地面に倒れ込む。

 

 クソッ、痛いと思ってたら噛み付かれてたのか。

 つうか、このサイズの虎に噛み付かれて痛いだけで済むって色々とおかしくなってきたな、オレ……。

 

「いてえ……」

 

 噛み付かれていた辺りに触れてみると、だくだくと血が流れていた。そりゃこうもなるか……。

 

 周囲を見渡してみると、リンの背中に蛭が吸い付いていたので剥がしておいてやる。

 リズの頭に蝶が止まってるが、特におかしいところはなさそうだな。

 玉藻は何ともなさそうだ。

 

「うー……いてえ……リズ、起きろー。起きてくれー」

 

 リズを揺さぶってみるが、起きない。一応口許に手を当ててみるが、呼吸はしている。

 そうこうしていると、寝ていたリンが起き上がる。

 

「眠い…………ニーナ、髪が赤いが、お洒落か?」

 

「血だよ……」

 

 何ボケたこと言ってんだ……。

 

「血か……なんだ、このデカブツは。これに襲われたのか」

 

「目が覚めたらこいつに頭を喰われてたんだ」

 

 起きれなかったら永遠の眠りにつくところだった。

 

「そうか…………とりあえず、血抜きをするか」

 

「……そうだな」

 

 食料は尽きていたところなので、ありがたいと言えばありがたい話だ。

 ロープで虎の体を木から吊るして首を掻っ捌けば、勢いよく血が流れ出す。

 そして胴体を掻っ捌き、内臓を全部取り出す。

 要らない内臓は捨てる。レバーは重要な栄養分なので確保しとく。

 そして皮を剥がす。皮は売れそうなので一応保存してある。これで三枚目だったか四枚目だな。

 

 邪魔な骨を引き抜き、なんか変な膜とか管があるのでそれも引っぺがしておく。

 それらが終わるのに大体二十分ほどかかる

 

 アダマンティンのナイフと、オレの腕力のお蔭だな。意外と重労働で面倒なんだ、この二つの作業は。

 

「……腹、減ったな」

 

「そうだな……食べれるだろうか?」

 

 リンの質問の意図は火を通さなくても、という事だろう。

 とりあえず、試しに少しだけ切り取って食べてみる。

 すぐに吐き出した。

 

「臭い。喰えたもんじゃない」

 

 火を通しても臭いのだから、生だとここまで臭いのは当たり前か……しかし、臭い。

 

「かといって迂闊に火を燃やすのは危険だ。我慢して食べる他ないのではないか?」


「こんなもん食うくらいならオレは土を喰うぞ」

 

「そんなに臭いのか」

 

「臭いんだ」

 

 とにかく臭い。獣臭さと猫臭さを混ぜ込んで濃縮したような臭いがした。

 焼いた奴は結構食えたが……そういえば香辛料をまぶしたっけな。うーむ……。

 

 そんな事を考えていると、玉藻が目を覚ました。

 どうやら会話がうるさかったらしい。

 

「んう……なんじゃ……また虎か」

 

「また虎だ。ところで玉藻、火を点けても大丈夫だと思うか?」

 

「やめておいた方がいいと思うが……」

 

 そうだよなぁ……うーん、どうにかして火の明りを遮断できればいいんだが……。

 

「そうだ、玉藻。お前、【オプティカル・ハイド/光学擬装】とかいう魔法使えるよな。それ焚火にかけたらどうなるんだ?」


 周囲の風景と同化する魔法であるなら、火の光も消してくれそうな感じがするが。

 

「焚火にかけるのは無理じゃな。人用の魔法じゃし」

 

「ちっ」

 

 じゃあどうするか……どっかに洞窟でもあればいいんだがな……。

 まぁ、そう簡単にあるわけもないか。

 

「しょうがねえ……とりあえず、こいつは保存するか……」

 

 虎肉に持っていた塩と香草をまぶし、袋に詰め込んでおく。

 持っていけない部分や内臓は地面に埋める。ほんの少しの間放置するだけで虫が大量に湧くのだから困りものだ。

 

 そして、もうしばらく休憩したのちにリズを叩き起こして移動を再開する。

 喰いつかれた怪我はリズを叩き起こした時に治療してもらった。

 

 

 

 毎日毎日歩き続ける。

 リズと玉藻が言うには、一応一直線に進んではいるらしい。

 エルフは方向感覚が鋭いらしいが、本当なんだろうか。

 野生動物に近い玉藻も、反対方向はあっちと言っているから間違いではないのだろうけど……。

 

 まぁ、歩くべき方向が分かっているだけでもだいぶマシだろう。

 そう思って歩き続け、七日ほど。

 森がまばらになってきて、そうではないかと思っていたが、どうやら本当に森を抜けることが出来たらしい。

 

 リズと玉藻の方向感覚は正しい事が証明されたと言える。

 そう思いつつも、オレ達は草原を移動して町へと向かう。

 

 一番近い町までは歩いて四時間ほどだ。最後のひと踏ん張りだ、もう少し歩けば町につく。

 ゴブリンについて報告しなくてはならない。

 ゴブリンの事を放置すれば、拙い事態になるだろうことは想像に難くない。

 

 町に攻め込まれれば、ゴブリンと言えどもあの数だ。一つの町程度、簡単に滅んでしまうだろう。

 放置すれば寝覚めの悪い事態になる。

 それに、報告しておけば謝礼くらい貰えるかもしれないしな……。

 

 そう考えつつ、オレ達は町へと向かった。

 

 最も近い町。町の名前は知らないが、元は城塞であった箇所から人々の住む家が増えて、やがて町になった場所。

 棲んでいる人間は千人に満たない小さな町だ。

 

 その町の出入り口には関所のようなものがある。

 簡単な答弁をして魔法で害意が無いかどうかを判断するらしい。

 そこにはこの町の治安維持に努めている武装集団が居る。そいつらに報告すればいい。

 

 そして何とか町に辿りつく。オレ達の姿を見ると同時に、詰めていた男たちが血相を変えて走り寄ってくる。

 

「どうしたんだ、何があった? 何かに襲われたのか?」

 

 どうやら、一目見て心配されるほどに酷い有様らしい。まぁ、そうだろうとは思っていたがな。

 

「ゴブリンだ。とんでもない数のゴブリンが居た……数千は居た……間違いない……」

 

「……嘘は、言っていないな。何処で見た?」


「こっから北の森で……遺跡みたいなものがあった所に、数千以上のゴブリンが……戦ったんだが、数時間以上経っても増援が湧いてきやがった……」


 今考えても悪夢だ。殺しても殺しても湧いてきやがる。

 最悪の糞ったれな光景だ。何度夢に見た事か。

 

「本当なら相当に拙い事態だな……間違いはないな?」

 

「言ってる事が信用できないか?」

 

 皮肉げに笑いながら言う。

 大方、本当にゴブリンと戦ったかどうかを疑ってるんだろう。戦ったとしても、誇張してると思ってるに違いない。

 女だからと低くみられるのは半ば当然の事だ。

 差別とまではいかないが、侮られる。

 それがこの国での普通だ。

 

「いや、そういうつもりは、無いんだが。しかし、それが本当だとすれば軍を動員する必要もある事態だ。軍を迂闊に動かす事は出来ない」

 

「ああ、そう……。だが、オレは正直に話した。一切の誇張もしていない」

 

 むしろあんなものどうやって誇張すればいいんだ。

 億に届く軍勢とでもいえばいいのか? 森が全部埋まっちまうよ。

 

「オレはもう知らん。ここに攻めてくるかどうかは知らないが、攻めてくるなら一週間以内には攻め寄せてくるだろうよ。軍を出すかどうかはアンタらで勝手に決めろ」

 

 それだけを言って街中へと入る。

 風呂に入りたい。公衆浴場があったはずだ。そこに行こう。

 それから宿を取って、ベッドでぐっすりと眠りたい。

 あとは、ちゃんとした飯が食いたいな……。

 

 その希望通りに、オレ達は示し合せる事も無く公衆浴場へと向かい、風呂で汚れと疲れを落とし、この町に最初に来た時に泊まった宿に泊まり、一日中眠り続けた。

 目を覚ました後は、飯を食いに行った。

 

 それなりにお値段の張るレストランで満足往くまで飯を食った。

 贅沢な事だったとはいえ、それくらいしなきゃやってられん。

 

 そして宿にとんぼ返りして、また寝こけた。それくらい疲れていた。

 半月近く密林で行動していたのだ。それほどに疲れがたまるのも当然と言える。

 

 

 

 そうして、その翌日。

 また北に向かうと言うのはなんなので、今度は東の方に行ってみるかとか、いっそ南下してルシウス王国に向かってみるか、とか。

 そんな風に次の目的地についての会話をしていた時だ。

 町中に警鐘が鳴り響いた。

 

「ゴブリン、かね」

 

「そうだろうな。それが自然だろう」

 

 ついに攻め寄せて来たってことか……まぁ、警告はしていたんだ。オレにはもう関係ない。

 巻き込まれるのは御免だし、さっさとこの町から出るとしよう。わざわざ戦いに赴くつもりは無い。

 

 それは全員が同じ考えであるらしく、さっさと荷物を纏め始めている。

 元々、この世界では前世よりも遥かに死が近い。

 そんな世界で生きる以上、人は必ずシビアな感覚を持つようになる。

 

 この町を見捨てて逃げ出すのは極々当然のことだ。

 愛着のある街でもない、友人や愛する人が住んでいるわけでもない。そんな街を守るためにわざわざ命を張る必要なんかないのだ。

 

 だからオレ達は手早く荷物を纏め、宿を出て南側の出口へと向かった。

 

 そうして進む途中で、行進する団体とすれ違った。

 全員が統一した装備を身に纏った団体で、軍馬に乗っている。

 どうやら、オレの警告通り、軍は準備していたらしい。

 

 まぁ、これっぽっちの数と強さでゴブリンの軍団が撃退できるとは思えないけどな……。

 三十人くらいいるが、オレ一人で纏めて相手出来る程度の強さだ。軍にしたってほんの一小隊分くらいか。

 たぶん、全員倒すのに一分とかからんだろう。その程度だ。

 

 まぁ、精々頑張ってくれ。そう思って通り過ぎようとしたときだ。

 

「あ、君は……」

 

「あん?」

 

 背後から声をかけられ振り向く。誰かと思えば、町に入る時に関所に居た兄ちゃんだ。

 

「どうした、ジェフリー。足を止めるな」


 足止めたせいで戦闘に居た強面のおっさんに怒られてるし。

 

「す、すみません、隊長! しかし、ゴブリンについての警告をくれていた冒険者が……」

 

「何? 女冒険者とは聞いていたが……まだ子供ではないか。まぁ、安心するがよい。ゴブリンの軍勢程度、我らが軽く薙ぎ払ってくれるわ」

 

 薙ぎ払う前にアンタが押し潰されるだろうけどな。そう思いつつも口には出さない。

 

「た、隊長! ゴブリン討伐の志願者を募っているはずですが、もしよければ彼女たちを雇うと言うのはどうでしょうか? 彼女たちはゴブリンの軍勢を相手に数時間戦い続けたとのことですし……」

 

「本当かどうか怪しいものだがな。何れにしろ、こやつらに出来たのならば、我らに出来ぬわけがなかろう?」

 

 そうだそうだ、と野次が広がる。明らかにオレ達を馬鹿にするような様子だ。

 ああ、知らないって幸せなんだな、と実感した。

 

「アンタらなら出来る出来る。折角だから見物していこうぜ、みんな。勇ましくゴブリンを倒してくれるらしいから」

 

「ここで無駄に足を止めるのは……」

 

 眉根を寄せて反対意見言いそうになったリンの耳元に口を寄せて言う。

 

「あいつらが死にそうになったところで助けてやればいいさ……謝礼金をたっぷりと頂くとしようぜ」

 

 そのくらいしても罰は当たるまい。

 タダ働きは御免だが、金が得られるなら問題なくやれる。

 

「なるほど……ここは町だしな……」

 

 あのゴブリンたちと戦った事でオレ達は更に強くなっているし、町という好条件下だ。

 外敵から攻められる事を予想している為に、堅牢な城塞としての機能も持っているし、大砲やらバリスタくらいはあるだろう。

 

 それらを利用すれば、少なくとも、町の人間が逃げる程度の時間は稼げるだろう。

 この町を治めてるのが誰かは知らんが、謝礼は期待できそうだ。

 

 そういうわけで、オレ達は城壁の上で兵士たちがゴブリン退治に赴くのを見物する事にするのだった。

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