休養日二日目・後
オレはオレが選んだのを。玉藻は玉藻の。コノハさんはコノハさんの。
「おい! ふざけんな!」
「多数決の意味がねえ!」
「何の意味があったんじゃ今のは!」
冷静に考えれば、我の強いオレ達なのだから、誰かに譲るなどと言う事はしない。
コノハさんは唯我独尊な人だから、当然自分選んだ服を選ぶ。
玉藻も自分に自信を持ってるから、確実に自分の服を選ぶ。
そして、オレは二人の選んだ服は御免なので、自分の服を選ぶ。
うん、多数決の意味が無いな。
もっと多数決の要員が多ければ意味があったのだろうけど。
「よし、じゃあ、ニーナ。オレと玉藻の服だったらどっちがいい?」
「コノハさんの方ですかね」
少なくとも背中丸出しではないのでいいだろう。
「よし、得票数二点でオレの勝ちのようだな。ニーナの服は以降これだ」
「いやです」
「えっ、お前に拒否権ないよ?」
心底不思議そうに言うな……。
「待て! 待て待て! コノハ! ニーナがスカートなんじゃぞ! スカートなんじゃぞ! そして背中出しなんじゃぞ! 意味が分かっとるのか!?」
そして、それに玉藻が不服を申し立てるのだが、その内容は少なくともオレにはさっぱりわかんねえや……。
「うん、確かにそれは非常に貴重な服装だ。というわけで、得票数二点、得票数一点の服を購入する事とする。ゼロ点のダサい服はご縁が無かったと言う事に」
「気のせいじゃなければ、最初からそうするつもりだったろ……」
いや、絶対にそうだ。そうに違いない。じゃなきゃあんなに邪悪に笑わない。
「とは言え、ニーナ、お前、オレの選んだ服と玉藻の服なら、オレの選んだ服を着るだろ?」
「そりゃまぁ、そっちを着ますけど」
スカートは下着を隠す以外の意味は殆どないと言っていいだろう。
そして上着の方はと言えば、前部を隠すだけの腹掛けだけで、肩も腕も背中も丸出し。
こんなもん戦闘用に着る奴の気がしれない。
対するコノハさんの提示した服は下はホットパンツだが、上はシャツとジャケットだ。玉藻に比べれば遥かにマシ。
選ぶのなら、こちらなのは確実だ。
まぁ、そもそもオレの選んだ服を着るのが最良ではあるんだが……。
「ダメだ。許さん。ゆ゛る゛ざん゛」
そう言うだろうとは思ってたが、なんで変な言い方で言い直した?
第一に、なんでこれなのさ……。
「倉の全てをひっくり返しても、田んぼをひっくり返しても、これ以上の服は無いんだぞ」
「田んぼ……?」
「てぇかな、お前は自分を着飾る事に興味は無いのか? あるんだろ? じゃあなんで着飾らない?」
「つっても、旅をするための服を買いにきたから……つうか、あんた神なんだからこんなことにこだわるなよ……信仰失うぞ」
「をろがみて仕へまつらわむオレは適当にやっててもそれがオレだって認識されてるから問題ない」
ひどい話だ。
「そういうわけで、お前の服装はこれに決定! ああもうめんどいから、これ以外の服着れないように呪いかけてやる!」
「やめろやめろ!」
これしか着れないとか最悪ではなくても最低の呪いじゃねえか!
「分かった分かった。オレの選んだ服と玉藻の選んだ服しか着れない呪いを……」
「大して変わんねえ! わかった! わかったよ! これを着るから呪いをかけるのは勘弁してくれ!」
「最初からそうしてればよかったんだ」
くそう、なんでオレの服なのにこんな目に……。
そう思いつつも、コノハさんがホットパンツを数枚……なんで数枚もあるんだ……?
「ああ、予備に数着作った」
「細かい奴だな! うわっ、全部少しずつデザイン違うし!」
なんだよこのわけのわかんねえ凝り具合は。何がしたいんだよこの人は。
「コノハ、帰りに反物を買っていっても構わんか?」
「別にいいが、何作るんだ?」
「他人が作った服などではいかん! わしがニーナの服を縫うのじゃ! いつも着ろとは言わんが、たまにはわしの服も着るのじゃぞ、ニーナ!」
「名案だっ! オレもデニム地買って来る!」
もう好きにして……。
結局、服は数着ほど買う羽目になった。
しかも、コノハさんと玉藻は生地を別途で購入して、帰って来て早々に服を作り始めている。そんな何着もいらないんだけどなぁ……。
そもそも、なんでそんなに金をかけてまでオレに服を着せようとするのか……。
コノハさんいわく、美少女が着飾らないのは世界の損失だそうだが、それなら鏡に言えばいいのではないか。
まぁ、コノハさんは充分に着飾ってるか。
それならそれで、フランやリズにやればいいのに。
……既にやってそうだな。ああ、単純にオレにまだやってないからやってるだけかもしれないな……。
そう思いつつ、リズとフランが居るはずの書庫へと向かう。暇なので時間つぶしだ。
庭の影には蔵がある。木に隠れていて普段は見えないが、回り込むと見えるのだ。
その蔵の内部全てが書庫になっているらしい。
フランいわく、最初は死ぬほど驚くらしいから凄いところなんだろうな。
昨日は結局フランの読み終わった本を読むだけで終わったし。
そう思いつつ扉を開くと、内部は暗く、天井から差し込む仄かな光の筋だけが光源だった。
「暗いな……」
そういって一歩踏み出し、落下した。
「おいいいぃぃぃっ!? なんで床がねえんだよぉぉぉぉぉっ!」
叫びながら、咄嗟に入口部分にへばりつく。あ、あぶねぇ……もうちょっと遅れてたら手が届かなかったぞ……。
「はぁ、はぁ……し、死ぬほどびっくりするってこういう事か……?」
確かに死ぬほどびっくりしそうだな。反応が遅れてたら本当に死ぬ辺り、更にびっくりだ。
そう思っていると、下の方からリズが飛んできた。
文字通りに飛んできたのだ。
「ニーナ、どうしたの?」
「どうしたこうしたもねえよ! なんだこの書庫は! 防犯用にこの設備は幾らなんでも非常識すぎるだろうが!」
「?」
なんで心底不思議そうに首を傾げるんだよ……!
「そっか、ニーナ、無重力空間のこと、知らないんだね」
「はぁ? 無重力?」
んなこと言われても、明らかに重力を感じてるが……。
「平気だから、降りて来て。もう少し下の方に行くと【グラビティ・インターセプト・フィールド/重力遮断力場】が展開されてる。そこに入れば平気」
「そ、そんなもんなのか……?」
恐る恐る下を見るのだが……ん、だいぶ下の方に小さい光が……。
「あそこが書庫。降りて来て」
そういってリズが壁を蹴って斜めに落下していく。
それを何度か繰り返えし、そのまま暗闇に紛れる。
う、うーん……。
「……下までは、二十メートルくらいか? それなら、大丈夫なはず」
うん、大丈夫。五十メートルまでなら足から着地すれば問題ない。十メートルなら背中から落ちても大丈夫なはず。
覚悟を決めて手を離す。そして、一メートルほど落下すると唐突に落下速度が緩み、完全に止まる。
ふわふわと覚束ない感覚が全身を支配している。
「おお……これが無重力かぁ……」
体を動かすと反作用で動ける。それを上手く使って壁まで向かい、壁を蹴って上下の間隔が怪しいが落下していく。
そして光の見える場所までたどり着くと、そこは人一人が通れる程度の穴だった。
そこから顔を覗かせると、そこは紅水晶の壁に覆われた部屋だった。
もしかして、神殿の一室なのか?
そう思いつつその中に入ると重力を感じた。
重力に従って地面に降り立つと、そこは途轍もなく広い書庫だった。
どうやら部屋の中心部らしく、すぐ近くには円錐形の妙なオブジェが置いてある。
しかし……本当にすごい書庫だな……と言うか、これはもう図書館ってレベルじゃないか?
そう思いつつ、近くの本棚から適当に本を抜き出す。
「えーと、おにいちゃん! みゆにえっちなおべんきょおしえて……」
投げ捨てた。隣の本は、すぐ始められる日曜大工。その隣は、落語全集第四巻。その隣は、失敗しない宴会芸……。
「なんだこの無茶苦茶な並べ方は……」
これじゃあ目的の本が何処にあるかさっぱりわからんじゃないか。
そう思いつつ、すぐ近くの机で本の選別作業をしているフランの元へと向かう。
「あ、ニーナさんだったんですねっ。ニーナさんも本を探しに来たんですか?」
そういってフランがにぱーと笑う。
「はぁ……この笑みに癒される……」
そういって頭をなでなで。今気付いたが、フランよりも身長が高くなってるな。身長まで伸びたのか、オレは。
「ふみゅう……もう、そんな撫でちゃやあですよっ」
「はいはい」
最後に犬耳の柔らかい感触を堪能してから手を離す。
そしてフランの見ていた本を見る。ふむ、全部魔法関係の本みたいだな。明らかに魔法の力を感じる本もある。
「何処からこんな本探してきたんだ?」
「本を探す魔法があるんですよ。そこにある水晶がそれの発動媒体ですっ」
言われた通り、確かに大きな水晶が宙に浮かんでいる。
六角錐の数メートルはありそうな巨大な水晶。その水晶の内部では、魔力と呪文回路が蠢いているのが見える。
それに手を触れて、内部で蠢いている呪文回路を起動させると、瞬間的に脳裏に情報が流れ込んでくる。
「凄いな。【サーチ・ライブラリ/図書館検索】って言うのか」
流れ込んできたのはオレが求めている本。その内容に該当する本が提示されていたのだ。
確かにこれさえあれば、こんな無茶苦茶な並べ方でも本を探すのには苦労しないかもしれない。
「オレもなんか新しい魔法でも覚えてみるかな……」
「そーですねー。ニーナさんが使えるのは三つでしたっけ?」
「ああ、【フレイム・スロワー/火炎投射】と【シールド/盾】と【サモンウォーター/召喚水】だけだ」
特に不便はしてないが、何か覚えられたら便利ではある。自分の力を磨くのは当然のことだろう。
「魔法もいろいろありますからねー。自分の肉体の能力を一時的に変性・強化する変性術とか、異次元から何かしらの力を招来する召喚術とか……」
「うーん、そうだなぁ」
身体能力に関しては苦労してないから、とりあえず遠距離攻撃の手段だよな。極普通の攻撃系統の魔法がいいな。
そう考えつつ本を検索し、お目当ての本を探し出す。
とりあえずは簡単そうな本からでいいだろう。昨日読んだのはこの世界の伝承とかの本だったから、理論面から教えてくれる初心者向けの本。
さすがに無いかと思ったが、極普通にあった。
判明した場所からその本を持ってきて、他にも数冊よさそうな本を手にして戻ってくる。
どうやら滅茶苦茶に並べられていたのは、娯楽本だけのようで、魔法教本なんかはちゃんと秩序だって並べられていた。
ただ、その種類には驚かされたが。
「この書庫は本当に凄いな。どんな本でもありそうだ」
それこそ不老不死の本とかでもありそうだな。
そう思いつつ、地上に戻ろうとするとフランも戻るそうなので本を持ってやる。
地上に繋がる部分にはハシゴが設置されていたのでそれを上る。
「ちゃんとハシゴがあってよかったな」
ハシゴが無かったらフランが昇れなかっただろう。
「でも、これって脚立って言うんじゃないんですか?」
「いや、ハシゴだろ?」
「何が違うんですか?」
「……さぁ?」
改めて言われるとよくわからんな。
「まぁ、どっちでもいいだろ。面倒だからまとめてキャシゴだ」
「ふわー、そんな無茶苦茶な解決方法初めて聞きましたっ」
オレも自分で言っておいてなんだが、無茶苦茶なことを言った自覚はある。
さておき、蔵の方に出ると無重力状態が体を襲う。
それを利用して一気に地表部分へと向かうが、途中で上昇が止まる。重力のある個所だ。
よく見ると壁に梯子……キャシゴがあったので、それに捕まって上る。
「しかし、とんでもない構造の蔵だな」
この蔵のような構造物は殆ど意味が無いんではなかろうか。実際、壁には収納スペースも何もないし。
いや、逆なのかもしれないな。書庫だけを利用する為に、地下道を掘って、その地下道を保護する為に蔵を建てたのかもしれない。
「ここの書庫は新たに作り直したものらしいですよ。昔の書庫はもっと大規模で本もたくさんあったらしいんですけど、昔の本は前部寄贈したんだそうです」
「そうなのか?」
「はい。コノハさんが言ってましたっ。人目に触れられないよりも、人目に触れる機会がある方がいいだろうって。だから、図書館を経営している友人に寄贈したそうです」
「ふうん……」
意外とまともな事もやってるんだな、あの人。
しかし、あの書庫ですら図書館って規模なんだから、それよりも大きかった書庫は一体どれだけのものだったんだか……。
「それじゃあ、勉強しましょうかっ!」
「ああ、そうだな」
蔵から出て、陽の光を浴びて背伸び。あの静謐な雰囲気の神殿も悪くないが、やっぱり太陽光を浴びてるのが一番だよな。
「あっ、ニーナさん、服を買って来たんですか? 似合ってますよ!」
「ん、ああ、そういえばそうだった」
今のオレの服装はホットパンツにシャツにジャケット。世界観を完全に無視してるが、オレはもうキニシナイ。
「いいですねー。私は神官ですから、修道服以外は着れないんですよ。修道服の上から鎧を着たりするのはいいんですけどね」
「ふうん」
よくわからん話だな。そう思いつつも、オレは本を抱えて家へと戻るのだった。
その日はあれこれと本を読んで魔法の習得を頑張ってみた。
途中で服を作り終えたコノハさんと玉藻に襲われ、着せ替え人形にさせられたのは余談だ。
アンケート結果はこんな感じになりました。
①……0票
②……3票
③……7票
ニーナの選んだ服は論外という事ですね。ええ、論外です(断言)
②が意外な追い上げを見せたので、こちらも例外的に採用。
もしかしたら今後着る可能性が微粒子レベルで存在するかもしれません。
でも基本的に③になるでしょう。やっぱりホットパンツから覗く太腿ですよっ。




