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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
冒険再開からバルティスタ共和国脱走まで
45/62

休養日一日目

 数日ほどオレたちは休養を取る事にした。

 それは迷宮脱出の為に心身共に疲弊した為に行う休息日だ。

 何事も根を詰め過ぎるのはいけないと言うことだ。

 無闇に根を詰めれば疲労が溜まり、いつしか致命的なミスをしてしまう。

 精神的疲労は注意力の低下を招くし、肉体的疲労は直接的に戦闘力に響く。

 

 だからこそ休息日を取ったのだが、暇だ。

 この数か月、ずっと何かしらしていたせいで、何もしないでいると言うのがなんだか落ち着かない。

 

 こういうのも職業病というのだろうか、と思いつつ、オレは畳の上をごろごろ転がる。

 

 うーん、暇だ。実に暇だ。何かすることがないものか……休養日だからこそ、何もせずにぐだぐだすべきとは分かっているんだが……。

 しかし、全く何もせずにいると、なんだか落ち着かなくてなぁ。なんかしら遊ぶものでもあればいいんだが、一人で出来る遊びなんかないし。

 

 リズとフランは回復系の魔法について話し合っていて、玉藻はコノハさんの伝手で街にまで【マジックタトゥー/呪術的な紋様】の勉強に行っている。

 リンは木刀を持って道場に篭っているようなので、邪魔するのも悪かろう。

 

 というわけで、オレは一人で何もやることが無い。

 オレもなんか稽古でもするかなぁ? しかし、斧を振り回せるような場所なんかねえし。

 魔法の勉強も一人で出来るものではないし……一体どうすればいいのかね?

 

 魔法の教本とかでもあれば、一人でも出来そうではあるんだが、そういうのって高そうだしな。今のところ手が出せそうな気がしない。

 

 町まで出るという選択肢もあるのだが、一人で町まで行って何をするのか。

 なんかしら美味そうなものでも食べ歩きしてみるかな? でも今は特に腹減ってないしなぁ。


 困ったなあ。そう思いつつ、やはり畳を転がる。

 

 ちなみに、休養日の間はコノハさんの家に逗留させてもらっている。むしろそのまま住んでいいぞ、と微妙に怖いお誘いまで貰っている。

 もちろんだが、住むつもりは無い。コノハさんと同居なんかしたら、精神疲労で死んでしまう。

 

「うだー、あばー……」

 

 意味の分からない呻き声で暇である事を表現してみる。

 これはなんか疲れ切ったって感じだな……もうちょっと別の表現が無いかな。

 

「うだー……うべー……ぬわー……」

 

 いまいちどれもしっくり来ないな……。

 と、そんな変な遊びをしていると、とたとたとリンが部屋に入って来た。

 

「何をやっているのだ、ニーナ?」


「いや、暇さの表現を模索してたんだ。うべー、と、うだー、どっちが暇そうな感じがする?」


「む……そうだな……うばー、というのはどうだ?」


 うばー、か、なるほど、確かに悪くなさそうだな。

 

「うばー……」


 おお、これは中々いいな。思わず漏れたと言った感じの、気だるそうな声。まさに暇過ぎてヤバイと言った風情が透けて見えるぜ。

 

「うばー……」


 うん、これは実にいいな。これから暇だったら、うばー、という表現を使っていこう。

 こうしてまた新たな表現がオレの語録に加えられたな。

 

「……で、リン、なんか用か?」


「ん、ああ。そういえば用事があって来たのだった。ニーナ、軍の壮行式が行われるらしいぞ。見に行かないか」


「壮行式?」

 

 壮行式って言うと、遠征とかに行く人を応援する式じゃなかったか?

 となると軍のお出ましってことになるが、また物騒な話だな。

 

「うむ、なんでも、征夷に向かうらしい。征夷というのは、ここから北の地の征伐に向かうと言うことだ。北は未だ魔境だからな」


「ふうん……シェンガはまだ未開拓の地域が多いのか」

 

「ああ。人間が住んでいる地域は国土の三割にも満たんぞ」

 

 そんなに未開拓地があるのか……確かに征服に乗り出してもおかしくないのかもしれんな。

 この世界じゃ、未開の地域ってのは危険な生物が大量に存在する事を示してるし。

 それこそ数百人規模の軍勢でようやく倒せるようなモンスターがうじゃうじゃと居るのだ。

 軍隊が征服しなきゃ、誰が征服するんだ、ともいえるな。

 

「ま、確かに面白そうだな。見に行こうぜ」

 

「ああ、もう行われるらしい。母上が答辞を述べられることになっているそうだからな」

 

 そして、オレはリンの案内で町の中心部へとやって来た。

 既に壮行式は始まっているらしく、勇壮な音楽と共に軍の人間たちが闊歩しているのが見える。

 

 しかし、その大半が礼装と言われるような服装を着てる。こういう場合、戦闘用の服とかを着てるものだと思ってたんだが、違うんだろうか。

 そう思いつつ、行進していく人々と、ガションガションと大きな音を立てて闊歩するロボットを見やる。

 

「……リン、オレは疲れてるらしい」


 このファンタジー世界でロボットなんかあるわけがないのにな。やれやれ、やっぱり疲れてるらしい。戻って寝た方がいいな。

 

「フフフ、流石のニーナもあれを見ては驚くか」

 

 えっ、アレ現実に存在するの?

 

「あれこそがシェンガの誇る武士の魂、疾風だ!」


 そういってリンが実に自慢げに無い胸を張る。

 

「ああ、そう……で、あれ、なんなの」


「だから疾風だ。ああ、歩行戦車とか言ったと思うが、詳しい事は知らん」

 

 戦車……? どこが……? どこら辺が車なんだ……?

 車って二足歩行するものだったっけ……?

 

「けど、あんなもんどうやって作るんだ?」

 

 この世界の技術力は見た目からは裏腹な程に高いが、それでもロボットが創れるようなトンデモ科学力は存在しないはずだ。

 あれも魔法の力で動いてるのだろうか? だとしたら、何のために存在するのか。

 

「あれは作ったものではないらしい」

 

「は?」

 

「なんでも、ここではないどこか……別次元とのことだが、そこから去来したものらしい。この次元の技術では修理が手一杯で、新しく作る事は出来ないのだそうだ」


「ふうん……」

 

 異世界の扉でもどっかにあんのかね?

 しかし、確かにリンの言う通り勇壮な式だ。

 歩いていくロボットたちの迫力は凄いし。

 そう思った時、先頭に立つロボットのコクピットが開き、そこから人が姿を現した。

 

 長い黒髪が風に靡いている。白を基調とした不思議な構造の衣服を身に纏ったその人物はロボットのコクピットから飛び降り、地面へと降り立つ。

 

 重力や衝撃を感じさせないふんわりとした着地。

 そして、しなやかな身のこなしで歩き出し、腕組みをして待ち構えていたコノハさんの前へと歩み寄る。

 

 何かを喋った。周囲の大歓声から、その内容は伺い知れない。

 そしてコノハさんが答辞を述べ、式は粛々と進行していく。

 

 そして、その人物が振り返った時、その様相がうかがいしれた。

 

 何処か無機質な印象が強い細面の美人。

 黒水晶のように透き通って見える瞳も、すっきりと通った鼻梁も、細く長い眉も、何処か人工的に作られたような雰囲気が漂う。

 不気味の谷現象が起きないほど精巧につくられた人形。そう錯覚しそうになる。

 

「あの人がシェンガ最強の機甲操者だ。機甲操者とは、疾風の操縦者の事を指す」

 

「ふうん……シェンガだと女でも軍人になれるのか」

 

 バルティスタ共和国では女は軍人にはなれない。そういう風になってる。

 

「いや、シェンガでも女は軍人になれん。そもそも彼は男だ」

 

「あれで男なのか」

 

 確かに男だと言われたらそう見えなくもないのだが、はっきり言って女に見える。

 大抵の場合、美形になればなるほど性別の差というのは分かり辛くなってくるものだ。いわゆる中性的な雰囲気と言う奴。

 

 それがあの人物の場合、女性に見える。いや、顔立ちの問題じゃなく、体付きの問題だな。随分と細い。

 手も足も筋肉がついてるようには見えないほど細い。そのせいで女に見えるんだ。

 

 でもまぁ、こないだ聞いたコノハさんの話が本当なら美形なほどに強いのだから、あの人も強いのかもしれんな。

 

「しかし、本当に凄い式だな」

 

「だろう?」

 

 思わず感心して眺めていると、壮行式は案外すぐに終わってしまった。

 少し残念な気もするが、長々とやるものでもないから仕方ない。

 機会があったら次もみたいな。バルティスタ共和国の壮行式なんかも面白そうだし、やるって聞いたらどこの国でもいいから見てみよう。

 

「終わったな」

 

「ああ、適当になんか食って帰ろうぜ。腹減った」

 

「言われてみれば確かに昼時だな。母上も外で取られるだろうし、私達もどこかで食べていこう」

 

 なにか手ごろな飯屋が無いかと周囲を見渡す。

 

「立ち食い蕎麦があるな。あれで構わんだろう」

 

「お、蕎麦か」

 

 リンの指差した先には確かに屋台のそば屋が。

 鰹出汁のいい香りがするし、あそこで構わんだろう。そういうわけで、早速屋台の暖簾をくぐる。

 

「店主、二つ頼む」

 

「あいよ」

 

 メニューなんて上等なものはないようなので、提供されるのは一品だけだろう。注文するのは数量だけでいい。そこらへんは楽ではあるな。

 

「はいよ、おまちどう」

 

 早いなおい。全然待ってねえぞ。

 

「いただくとするか」

 

「ああ、うん」

 

 作り置きとかじゃないだろうな……? そう思いつつも、適当に箸を取ってズルズルと啜る。

 

 ん、結構美味いな。麺はポキポキしてるし、おつゆもちょうどよい濃ゆさだ。

 ちくわも味が染みてて中々。

 立ち食いそばにしては上出来だろう。そう思いつつ、さっさと全てを喰い終える。立ち食いそばだしな。

 美味い、安い、速い、その三拍子が整ってなきゃいけないんだ。客ももちろん速く食わなくては。

 

「ご馳走さん。二杯で幾ら?」

 

「六枚です」

 

 銅貨六枚をカウンターに置いて支払いを終える。それに合わせるようにリンも食い終える。

 

「なかなかよかったな。もう少し塩辛くてもよかったと思うが」

 

「そうか? オレはちょうどよかったけど」

 

 まぁ、好みはそれぞれだしな、と思いつつ屋台から離れていく。

 無駄に金を浪費すると言うのもなんなので、まっすぐと家に戻る。

 

 とは言え、何か暇をつぶす方法でもないとなー。暇だからこそ壮行式をわざわざ見に来たんだし。

 そう思ったところで、貸本屋という店が目に入った。おー、本か。

 この世界の文字は基本的に日本語と同じだし、オレにも読める事は確認済みだ。

 とすると、読書というのもいい暇潰しになるだろう。

 

「本かー、何か娯楽本でもないかな?」

 

「本なら家にあるぞ? 娯楽本も教本も色々とある」

 

「あるのか」

 

 確かにコノハさんのことだから、娯楽本を大量に持ってそうだな。あとで見せて貰おう。

 となると貸本屋には寄らなくてもよさそうだな。さっさと帰ろう。

 

 しかし、帰り道もあのべらぼうに長い石段を上ると考えると微妙に憂鬱だな……。

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

「ぬああああああああっ!!」

 

 疾走。階段を全力疾走。隣を走るリンに、一段でも勝るために。

 なぜこんなことになったのか。それは実に簡単なことだ。

 

 長い階段を上るのが憂鬱なら、競争しつつ手早く上っちゃえばいいじゃない。そういうことだ。

 実に安直だが、中々悪くない意見。そう納得し、オレとリンは階段を上る競争を始めたのだ。

 

 身体能力が爆発的に上がったオレの有利と思っていたが、リンも中々喰らいついてくる。

 リンは元々素早いから、オレの身体能力が上がってようやく互角に至ったと言う所だろう。

 

 そんなわけで、オレとリンは全力で階段を疾走していたのだ。

 こういう下らないことでも全力投球をするのがオレなんだ。

 

「負けん!」

 

「私とて!」

 

 階段を二段、三段と飛ばして上り続ける。

 時折跳躍するように、全力で階段を上る。

 もはや残る階段は僅か、ラストスパートだ!

 

「ぬおおおおおおっ!」

 

「うぬうううううっ!」

 

 しかし、その考えはリンも同じ。リンもまたラストスパートをかけ、オレに喰らいついて来る。

 しかし、この勢いならば、オレが勝つ!

 

 

 

 最後の数段を全力の跳躍で上り切る。そして地面に着地して、そのすぐ後にリンが転げるように階段を上り終えた。

 

「ふぅ……ふはははは! オレの勝ちぃー!」

 

「むぅ、まさか負けるとは……」

 

「どうやら成長したオレに勝てるほどではなかったようだな、リン!」

 

「次は負けん!」

 

「返り討ちにしてやんよ」

 

 まぁ、次があるかは分からないがな。

 

 さておき、階段を上り終えたので本殿へと入り、その中の家へと入る。

 いやはや、町は中々楽しかったな。主にリンと馬鹿やったおかげで楽しかったとも言えるのだが。

 

 そして、その後は本を読んだり、フランやリズと駄弁ったりと言った風に、のんべんだらりと時間を潰す様にして過ごした。

 中々のんびりした、有意義な時間の使い方だったと言えるだろう。

 

 明日は何をしようかな?

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