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風呂は命の洗濯

 風呂! それはズバリ、命の洗濯!

 暖かいお湯で身体を洗い流し、心身ともに綺麗になる至高の行い。

 やっぱり風呂は最高だよな。うんうん。

 

 ハイテンションになっているのを自覚しつつも、オレは鎧も服も全部脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。

 水浴びじゃあ汚れは完璧に落とせないし、落ち着けないしなぁー。やっぱ風呂だよ、風呂!

 

「へっへっへー」

 

 髪の毛を適当な紐でくくり、鏡を見る。

 

「誰だおまえ」

 

 鏡を見たら、そこにはオレによく似た美少女が映ってた。

 いや、鏡だから映ってるのはオレのはずだが……。

 あれー? オレってこんな美少女だったっけ? 前から結構可愛いとは思ってたが、ここまでではなかったと思うのだが……。

 

「説明しよう。人間は強くなればなるほどに美しく、あるいはカッコよくなる。それは自分の遺伝子を後の世代に残そうとする本能が肉体を変質させるからだ。それ故、人間は強くなればなるほどに美しくなり、子供を作る能力が強くなる。ふむ、胸も大きくなってるな。乳のでかさはセックスアピールのためかな?」

 

「…………」

 

 人の乳を撫でている変態に無言で裏拳を叩き込もうと腕を振るったのだが、手応えは無し。

 

「危ねえな。何すんだ」

 

「アンタの顔面に拳を叩き込もうとしたんだよ!」

 

 いつの間にかオレの背後に現れていたコノハさん。

 ナチュラルに人の乳を触ってやがった。クソッ、神出鬼没にもほどがあるだろうが!

 

「ああもうっ、クソッ!」

 

 一々怒ってたキリがないのはわかってるんだが、それでも怒りたくなる。どうにかならねえのかこの変態は!

 ええい、クールだ、クールになれ、オレ。怒ってたらこの人の思う壺だ。

 

「ふぅ……やれやれだ……」

 

「まさか……今のでイッたのか? 聖女タイムか?」

 

「もう死んじまえよあんた」

 

 全く……この人は人をおちょくることしか頭にないのか?

 

「で、さっきのは本当なんですか? 強くなればなるほど美しくなるとか」

 

「ああ、本当だぞ。元から美人だとあんま関係ねえけどな。ちなみにオレは生まれつきこの顔だ。強くなっても何も変わらねえし」

 

 ますますファンタジーな人だな……この世界よりも、オレはあんたの方が不思議だよ。特に脳味噌だ。ネジが数百本吹っ飛んでるんだろうよ。

 

「オイオイ、オレに興味津々なのはわかったけど、スリーサイズは秘密だぜ?」

 

「興味ねえ」

 

 不思議だと思っただけで、興味があるとは一言も言っちゃいない。

 

「そんなに聞きたいのか? 仕方ない奴だな……上から順に九十六、五十七、九十六だ」

 

「だから聞いてねえっつってんだろ。秘密だって言ってるくせに自分からバラしてんじゃねえよ」

 

「ちなみにお前のスリーサイズは上から順に、七十五、四十九、七十五だ。身長は百三十七だな」


「いつ測った!?」

 

「今目測した」

 

 頭の中に計算機でも入ってんのか!

 

「ってそうじゃない! アンタと会話してると話が進まん! イエスかノーで答えてくれ!」


「分かった分かった。真面目に話す。強くなると美人になるのは本当だ。生物としての性能が上がってるわけだからな。動物と同じさ。七面鳥は肉垂の大きさで雄同士の優劣を決めると同時に、雌へのセックスアピールにも肉垂を用いるようにな」

 

 ああ、つまり人間はその美貌で強さを。

 その強さに至れた優秀な個体である事。

 子孫を残す能力の高さ。

 子供を守れる力を持っている事。

 そういった繁殖に有利な相手としての能力をアピールしてるのか。

 また随分と能率的でシステマチックな話だ。前世の人間とはまるで別物だな。

 まぁ、異世界だから当たり前だろうけど。

 

「ふむ、前々から言おうと思ってたんだが、ニーナ」 

 

「なんですか」

 

「オレが良識のある側の人間でよかったな。もしもオレ以外の奴がお前の思考を読んでいたら、お前は今頃知識を絞り出すためにとんでもない状態にされてただろうよ」

 

「え?」

 

「自由意思を奪い、脳の情報を吸い出すなんてのは簡単だ。残った体はどうなるだろうな。まぁ、これだけ整った顔をしてるんだ。性処理用の道具にされるだろうよ」

 

 その言葉に怖気が走った。コノハさんの目は途轍もなく冷徹だ。

 相手を物として見るような、ただ事実だけを見据える無感情な瞳。

 その眼が、言葉に真実味を与えていた。

 

「お前の髪、黒くしたろ。あれな、読心術を無効化する効果がある。そこらの奴らに思考を読まれるとは思えないが、完璧ではない。出来ればそういった知識を思い起こすのはやめろ」

 

「は、はい」

 

 これは忠告だ。コノハさんと言う先人から与えられた忠告。

 さっきまでふざけていたかと思えば、唐突にこうして真面目になるのだから、コノハさんという人はどうもとらえようがない。

 

「さて……しかし、お前は真剣な顔してんのに裸って言うのは中々シュールな光景だな」

 

「……やっぱ死ねよ、あんた」

 

 どうして上げたらすぐ下げるんだ、この人は……。

 しかし、考えてみればコノハさんは思考が読める。それがどれくらいのものかは分からないが、かなり正確に読めるんだろう。

 なら、オレの思い起こしている前世の事も、大体読めてるんだろう。

 

 その上でそれに触れず、隠す様に忠告をしてくれたのだから、やはり良識あるいい人なのだろう。

 ……まぁ、なんだかんだで非常識な人ではあるけど、色んな意味で。

 

「なんだよ、照れちまうぜ。そんなに褒めんなよ」

 

 褒めるとつけあがる子供の典型みてぇな人だな。

 

「まぁ、冗談はさておき、風呂に入ろうぜ」

 

「はぁ、そうですね」

 

 って、いつの間に服脱いだんだ、この人。さっきまでは服を着てたはずだが……?

 

「ああ、ゴッドパワーで脱いだ」

 

 ゴッドパワーとやらをそんなことに使うなよ……。

 まぁ、どうでもいいか……とにかく風呂に入ろう。

 

 

 

 ようやっと浴場に足を踏み入れ、まずは身体を洗う。

 この数日で溜まった汚れの全てを洗い流してから湯船に浸かるのだ。

 

「ふはぁ~……やっぱ風呂はいい……」

 

「うん、お風呂はきもちいいね」

 

 先に風呂に入っていたリズも同意する。

 白い肌がほんのり桜色に染まっている辺り、結構長く湯船に浸かってたんだろう。

 

「玉藻は?」

 

「ん」

 

 リズの指差した先には泡塗れになっている玉藻が居た。なんかデジャブを覚える光景だな……狐もイヌ科の動物なんだっけ?

 よく見るとフランも一緒だな……なんで二人して泡塗れになってんだ?

 

 そういえばリンは? と思って周囲を見渡すと、リンも同じく体を洗っていた。フランと玉藻ほど泡塗れではないが。

 

「う~……疲れが溶けてく~」

 

 ああ、やっぱ風呂最高。旅に出たら風呂に入れなくなると思うと、この家でコノハさんに軟禁されるのも悪くないかもなぁ、なんて思えてしまうのだから。

 

「おい、それは本当か?」

 

「嘘だからやめろ」

 

 というかいつの間にオレの隣に座ってたんだよ、あんた。

 

「ところでニーナ、オレは全員のバストサイズを把握したぞ。聞きたいか?」

 

「どうでもいい」

 

「そうかそうか、聞きたいか」

 

「どうでもいいって言ってんだろ」

 

「お前、リズ、リン、フラン、玉藻の順だ。ニーナ、お前がナンバーワンだ」

 

「だからどうでもいいって言ってんだろ」

 

 どうしてこの人は人の話を全く聞かないのか……。

 

「ニーナ、それは違う」

 

「何がどう違うっていうんですか」

 

「聞いた上で無視してるんだ」

 

「最悪だなアンタ!」

 

 わざわざ無視してたのかよ! もうなんなんだよこの人!

 

「何故かって? こうするとお前の反応が面白いからだ」

 

「ぐっ!」

 

 一々反応したら拙いってことかよ……うぐぐ……。

 

「まぁ、冗談はさておき。肉体的に一番優れてるのはお前ってことだな」

 

「え、そこに繋がるの?」

 

 どうして前ふりがあんなふざけてるのに、その後の内容は真面目なのか……。

 

「強い奴、それも肉体的に優れてる奴ほど発育が速くなるって言うのは普通だ。オレは九歳の頃にはこんな容姿だったしな」

 

「どういう成長速度してんですか……」

 

「オレの方が不思議だったわ、そんなの」

 

 九歳の頃にはその容姿だったって、小学校をダブりでもしたのかと思いたくなるな。この世界に小学校ねえけど。

 

「リズ、コノハさんの話は本当か?」


「ん、本当。でも、コノハはさすがに異常。普通は幾らなんでもそんなに早く成長しない」

 

「だろうと思った」

 

 コノハさんを基準に考えちゃ拙いよな。この人はたぶん、あれだ、新人類とかの類だから。

 

「おいおい、オレは数千年前から生きてるんだぞ? だとすると旧人類と考えるべきだろ」

 

 まぁ、確かにその常軌を逸した思考回路はまともな人類とは思えないが。

 

「旧人類が滅んだ理由は、余りに思考がエキセントリックだから現生人類に滅ぼされたんだろうな」

 

「……そうかもしれない」

 

 リズの見解も一致した。

 そうしてふざけていると、身体を洗い終えた玉藻とフランが湯船に入って来た。リンはまだ洗っているようだ。

 

「やはり広い風呂はええのぉ。コノハ、酒は無いのか?」

 

「そんなものはない」

 

 そういってコノハさんが何処からともなく取り出した徳利を傾け、ぐい飲みに中身を注いで飲み干す。

 ……酒の匂いがする。

 

「いま飲んでるのはなんじゃ」

 

「これは般若湯だ」

 

「む……なるほど、ではわしにも般若湯をくれ」

 

「しょうの無い奴だな」

 

 神社の人間は別に酒飲むのが禁止されてわけではなかったと思うが……この世界では違うのかな。

 まぁ、いずれにしろ建前使えば飲めるんだから、建前って便利だね。

 

「リズも飲むか?」

 

「ん、もらう」

 

 リズも飲むのか、と思いつつ、何とはなしにそれを眺める。

 

「夜に咲く花と月を照らす者の一時の平穏に祝福を」

 

 そういってリズがぐい飲みの酒を飲み干す。

 夜に咲く花と、月を照らす者ね。そういえば、最初に会った時も夜に咲く花の姉妹がどうのって言ってたな。あとで聞いてみるか。

 

「ニーナ、お前も飲むか?」


「いいです」

 

 酒自体は嫌いじゃないが、暖かい酒は嫌いなんだ。

 そうこうしてると、リンが体を洗い終えて湯船に入ってくる。

 ……なんで全員一か所に集まってくるんだ?

 

 そう思いつつも、別に騒ぐほどのことでもないので放っておく。

 しかし、風呂はいいね。こうしてゆったりとくつろいでいると、全ての疲れが抜けていくよ。

 

「たくさんで入る風呂もいいもんだな。普段は一人だから寂しいもんだしよ」

 

 そう言われてみれば、オレ達が旅立てばリンも旅立つんだろう。そうなれば、コノハさんはここに一人だ。

 それはさぞ寂しかろうと思うのだが……この人が寂しがってる様子が思い浮かばない。

 

「お前ら全員同じこと考える辺り、オレをどう思ってるのかよくわかるな」

 

 ああ、全員同じこと考えてたんだ。でも、そう思われるのは確実に自業自得だと思うんだよね。

 

「まぁ、今はこうして楽しむさ」

 

 そういってコノハさんはまた新たに酒を呷る。

 

「というわけで、お前ら好きな奴くらい居るだろ? 語れ」

 

 どうしてそういう無茶ぶりをし始めるのか……まるっきり酔っぱらい親父の絡みじゃねえか。

 

「わしはニーナが好きじゃ」

 

「ん、私もともだちとしてニーナがすきだよ」

 

「私も友としてニーナのことは好いている」

 

「私もですよっ。ニーナさんのことも、みなさんのことも大好きですっ」

 

 どうしてオレを引き合いに出すんだ。

 

「ニーナ、お前は?」

 

「お前らの事は普通に友人として好きだが、男女の仲で好きな相手とかは居ないぞ」

 

 そもそも同年代の男なんていねえしな。

 故郷には居たが、そういう感情は湧かなかったし。むしろ湧くのかも怪しい。

 

「なんだよつまんねえ奴ばっかりだな。ああ、ちなみにオレもお前らが大好きだぞ。性的な意味はあんまりない」


「あんまりかよ。皆無なんじゃなくて」

 

 というかそもそも、コノハさんって思考が読めるんだから、別に聞きださなくてもいいんじゃ……。

 

「分かってねえな、こういうのは直接言うのを見てるのが一番楽しいんだ」

 

 ああ、つまりは変態ってことか。よくわかった。

 

「お前も中々辛辣になって来たな」

 

「そりゃこうもなります」

 

 あんなわけのわからん対話させられたら誰でもこうなる。こうならない奴は変人だ。

 

「リズの仲間には普通に話せる奴が居たのに」

 

「そいつもどうせ変人だろ?」

 

 リズに確かめると、静かに目を逸らされた。

 

「あの時、訪ねて行った彼は、コノハと普通じゃないけど普通に会話していた」

 

 ああ、アイツか。納得の人物だわ。

 

「それじゃあ、次は気になってる奴が居たら暴露していこうか……」

 

 これ、いつまで続くの……?

 

 こうして夕食前の入浴は、わけのわからない質問ばかが続いていった……。

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