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オレは異世界に転生して必死でのし上がる  作者: 国後要
迷宮突入から脱出まで
42/62

ただいま

 迷宮を進む。

 リズのいう仲間のところに行き、居ないことがわかってからはまっすぐに迷宮の外を目指していた。

 

 道中に度々死者の遺品と思わしきものを発見し、それらを拾って進んだ。

 亡骸は見つからなかったが、恐らくはこの迷宮に潜む化物達に食われたのだろう。

 上の階層に行けば行くほどに敵との遭遇率が上がったからだ。本当にうじゃうじゃと出て来やがった。こいつらに襲われたのだろうな。

 とは言え、既にだいぶ強くなったオレ達が苦戦する事は無かった。

 

 そのため、滞りなく道を進み、オレ達は無事に迷宮の出口へと辿り着いていた。

 そして、この迷宮が一人でしか挑めない、とコノハさんが言っていた理由が理解できた。

 

「なんでエレベーターなんだよ……」

 

 迷宮の出入り口はエレベーターだった。

 確かに、地下にある関係上、エレベーターであるのはおかしくないかもしれない。

 だが、それなら別に階段でもいいだろうに。しかも定員一名のエレベーターってなんなんだよ。

 その癖すぐ近くには、関係者以外の利用はご遠慮くださいと書いてある大型エレベーターがあるし……。

 

 面倒なので大型エレベーターの方のボタンを押すのだが、反応が無い。電源……いや、魔力源とかそういうのが遮断されてるのだろうか。

 

「一人用のエレベーターを使うしかないとおもう」

 

「そーだな……」

 

 こういうわけのわからない凝り方をするのは絶対にコノハさんだ。あの人以外に居ない。

 ここから出れたら成長したオレの実力を見せつけてやる。返り討ちにされるとは思うが、やるったらやる。

 

 そう思ってエレベーターを呼ぶボタンを押す。

 暫く待つとエレベーターが降りてきて、扉が開き……コノハさんが出て来た。

 

「今だぁぁぁぁっ!」

 

 そしてその顔面めがけ、何の躊躇も無くオレは斧を振り下ろしていた。

 

「ふははは、甘いわ」

 

 そして白刃取りされた。無理やり押し切ろうとするのだが、ピクリともしない。どうなってんだこの人の腕力は!

 

「クソッ、女の腕力じゃねえ!」

 

「そりゃこっちのセリフだ。お前こそ女の子の腕力じゃねえ」

 

 ギリギリと音を立てる斧。どんな腕力してんだこの人は!

 

「というか、迎えに来てやったのにこの歓迎はちょっとどうかと思うが?」

 

「うっ……」

 

 言われてみればその通りなので、しぶしぶ斧を引く。流石に失礼だったか。

 

「まぁ、無事に帰ってきてよかった。リンもフランも心配してたぞ」

 

「そーですか。あんたは助けに来るつもりは無かったくせに」


「うん、無かったぞ。ここでくたばるようじゃ、いずれくたばっただろうしな。まぁ、その時はその時で死体は回収して蘇らせてやったがな」

 

 非道なんだか慈悲深いのかよくわからん。

 

「ちなみに、その場合は強制的にオレの養女だ。一生家に軟禁してやるからな」

 

 何サラッととんでもないこと言ってんだこの人……。

 

「完璧な淑女に育て上げてやろうと思ってたんだが、まぁ、無事生き残れてよかったな。ああ、そうだ、お前妹居ない? 居たら完璧な淑女に育て上げてやるぞ」


「居ません」

 

 弟なら居るが、まだ赤ん坊だしな。

 

「じゃあその弟を立派な益荒男に育て上げてやるぞ」

 

「だからナチュラルに人の心を読むな!」

 

 再び斧を振り下ろすが、今度は軽々と避けられてしまった。

 ええいくそっ、その気が狂いそうな程の美形面を、まともに見れる程度にぶち壊してやろうと思ってんのに!

 

「ま、とにかく地上に行こうぜ。そこの貨物搬入用のエレベーター動かしてやるからよ」

 

 貨物搬入用エレベーターって……なんで屋上だろう場所にそんなもんがあるんだよ。

 

「ここを住居に使ってた時代は物品は空輸してたからな」


 だからナチュラルに心を読むなよ……会話が楽だから別にいいけどさ……。

 

「ああ、そうですか……そういえば、千三百年前に妖怪を封印する為に作ったとか言ってませんでしたか、ここ」


 リズの話が本当なら、少なくとも八千年前には存在してた事になるぞ。

 

「ああ、それ嘘」


 そう言いつつ、コノハさんが大型エレベーターのボタンを押す。すると、当然のように大型エレベーターの扉が開く。

 コノハさんじゃなきゃ動かせないのか。魔法的な認証システムでもあるんだろうか。


「なんでまた嘘なんか」


 そのエレベーターに乗り込みながらも聞く。


「その時代に造られたって話を流布すると、無謀にも挑戦する奴が出てくるからな」


「そりゃ確かに無謀だ……つっても、何のために?」


「大分裂戦争以前の記録ですら少ないのに、四千七百年前の最終戦争以前の記録は全部抹消されてるんだ。だから、ここがそれ以前の遺跡だと分かればもぐる奴が出てくる」

 

「はぁ……ここにはそれ以前の記録が眠ってると?」

 

「ああ。とは言っても、お望みのものは無いだろうけどな。それに、ここに魔王が封印されてるって聞いたろ? リズ、お前も話したろ?」

 

「ん、話した。それと、久しぶり、コノハ。ぜんぜん変わってない」

 

「歳は喰ったけどな。お前と会うのは千年ぶりくらいか?」

 

「ん、そのくらい」

 

 リズとは何回か会いに行ってたのか。

 

「でだ、その魔王は国一つを軽々と滅ぼす程度の怪物だ。それを利用しようと考える奴もいて当然だろ?」

 

「なるほど、悪用されるのを避ける為でもあったと」

 

 であれば情報を伏せるのは当たり前か……ところでこのエレベーターいつになったら地上に着くんだ?

 

「あと四分くらいだ」

 

「気のせいじゃなけりゃ、とんでもなく長くありませんか、このエレベーター」

 

「エレベーターシャフトを空間歪曲で数千倍の長さに拡張した大馬鹿野郎が居たんだ」

 

 本当に大馬鹿野郎だよそいつは。何の意味があったんだそれは。

 

「オレに聞くな。オレも中々ファンタスティックな思考回路をしてるが、アイツの思考回路はファンタジスタとかクレイジーの領域に至ってるんだ」

 

 コノハさんがそういうってことは、相当な変人なんだろうな……。

 そう思っていると、エレベーターが地上に到着したのかチーンと音声が鳴る。

 そして扉が開くと、そこは地上だった。

 

 太陽の光が降り注ぎ、風を肌に感じる。

 無機質な神殿の空気とは違う、草木や土の匂いを孕んだ空気。

 風が吹けば騒めく森。命の存在を確かにする鳥の囀り。

 

「地上だーっ!」

 

 意味も無く走り出し、森の中に突っ込む。

 土の匂いに草木の匂い! おっ、蝶の蛹みっけ。

 あの神殿とは違う、地上だ!

 森を駆け抜ければ感じる地上の実感。

 体全身で感じる空気があの神殿とは全くの別物。

 そして浮遊感。

 

「あれ」

 

 地面が無かった。ああ、ここ崖だったんだ。

 

「うわあああああああああああああ!」

 

 当然の如く、オレは落下した。

 

 

 

 十分後、崖を上って戻って来たオレをコノハさんが爆笑しながら出迎えてくれた。

 

「な、なにやってんだお前! くくっ、あははははっ! バーカ! バーカバーカ!」

 

「ううう、うるせぇぇぇぇ! ちょっと崖から落ちたい気分だったんだ! オレは落下し体質なんだ! マイブームはパラシュート無しのスカイダイビングなんだ!」

 

「あっはっはっはっは! 落下し体質かよ! 落下系ヒロインかお前は! というかパラシュート無しは死ぬぞ!」

 

「五十メートルまでなら問題ねぇ!」

 

 実際さっきそれくらい落ちたが、ちゃんと足から着地出来たし、何の問題もなかったし!

 

「はー……笑った笑った。やっぱお前面白いわ」


「嬉しくねえ!」

 

 くそっ、崖から落ちるとは一生の不覚……うぬぬ。

 

「まぁ、ともかく、家の方に戻るぜ。リンとフランはお前が脱出するって信じてまだ居るからな」

 

「そうだったんですか。心配かけちゃったな……」

 

 フランの旅の目的は巡礼と急ぎではないとはいえ、早くに済ませるに越したことはない旅だ。だからもう出発しているものかと思っていたのだが。

 

「リズと玉藻もついて来い。メシくらい食わせてやるぞ」

 

「ん、いく」

 

「どうしてわしの名前をナチュラルに知っとるんじゃ……いや、コノハじゃからなぁ……」

 

 共通見解が得られて嬉しいよ、玉藻。

 そう思いつつも、オレ達はコノハさんの後をついて家へと向かった。

 

 どうやら、ここは家の庭のはずれに位置する場所のようだ。

 ちょっと森を抜ければ、すぐに家の庭だった。

 

 そして家の中に入り、居間に向かうと、そこでは重い沈黙が立ち込めていた。

 

 正座し、きつく目を閉じているリン。

 何かに跪くようにして祈っているフラン。

 

 圧倒されるような空気があり、うかつに踏み込めない。

 しかしコノハさんはそんなもん知ったこっちゃねえとずかずかと部屋に入り、座布団に座る。

 

「……入った方が、いいのかな?」

 

「じゃろうな……」

 

「入りづれえ……」

 

 言いつつも、こそこそと中に入る。

 そして、物音をたてないようにゆっくりと座布団に座る。

 

 再び重い沈黙が立ち込める。

 

「……母上、ニーナは、見つかりましたか?」


「お前の後ろにいるよ」

 

「そういう冗談を言っている場合ではありませんっ!」

 

 いや、本当に居るんだけど……。

 

「やはり、私が迷宮に挑みニーナを助けに!」


「だからお前の後ろに居るってば。リーン、うしろうしろー」

 

「今は冗談は聞きたくありません!」

 

「……すまん、冗談じゃないんだ」

 

 ようやく声を出すと、凄い勢いでリンが振り返った。

 そして、その瞳にじわりと涙が浮いた。

 

「ニーナ! 生きているのだな!?」

 

「ああ、生きてる生きてる。無事に帰って来たぜ」

 

「よかった……本当によかった……!」

 

 こうまで心配してくれてたと思うと、なんだか悪いことをしてしまった気がするのだから不思議なものだ。

 オレが迷宮に落ちてしまったのは不可抗力ではあるのだがな。

 

「ニーナさぁぁんっ! 本当に生きてるんですねっ! 無事でよかったですっ!」

 

 今度はフランが抱き付いて来た。鎧着てるんだからそんな風に抱き付いたら痛いだろうに。

 

「ふゆー……ニーナさんの匂いですっ! 本物のニーナさんですねっ!」

 

「え、匂いってなんだ匂いって」

 

 くんくんと自分の体の匂いを嗅いでみるが、特に変な臭いはしない。

 ゾルドのテントに逗留してた時は水が使えたので、水浴びしてたから不潔ではないし。

 

「えへへ、私たち獣人は嗅覚が鋭いんですよっ。匂いでニーナさんだってことはわかりますっ!」

 

「ああ、そういう事か」

 

 単純にフランの鼻が利くってだけか、びっくりした。

 

 けど、こうしてリンとフランと会話して、本当に戻って来たのだと実感した。

 

「改めて、ただいま。ちゃんと戻って来たぜ」

 

「うむっ、よくぞ帰った!」

 

「はい! お帰りなさい、ニーナさん」

 

 うん、うん。待っててくれる人が居るって言うのは、いい事だな。

 

「ああ、そうだ。こっちはリーゼロッテ、迷宮から抜けるのに手助けをしてくれたんだ」

 

 半ば忘れかけていたリズを手の平で指し示して紹介する。

 

「ん、リーゼロッテ・エルゴリア・ヴェルトール。ニーナは共に戦った戦士。よろしく」

 

 ぺこりと軽く頭を下げるリズ。次は玉藻だが……。

 

「えーと……オレの命の恩人かつ、魔法使いの玉藻だ。特技は夢の中でオレに喧嘩を売る事」

 

「うむ、玉藻じゃ。ニーナの妻じゃ」

 

「コノハさん、こいつ喰っていいですよ。物理的でも性的でもどっちでもいいです」

 

「悪いな、人妻に手を出すのは趣味じゃない」

 

 二人纏めて死んじまえ。

 

「ニーナの妻? どういう意味なのだ、ニーナ」


「女の子同士でも結婚って出来るんでしょーか?」

 

「知らん。ちょっと色々とあっただけだ。まぁ、そこらへんも含めて話すよ」

 

 そういって、オレは迷宮を脱出するまでにあった全ての事を語り出した。

 ほんの一週間に満たない出来事だったが、密度の濃い数日だった話。

 

 落下した先で出会ったリズと羅強のこと。

 毒を受けて治療の為に玉藻の本体である無明に出会ったこと。

 ゾルドという気持ちのいい戦士との戦いや、その後に武器と鎧を貰い受けた事。

 

 そう言った話をしているうちに、時間はあっという間に過ぎていき、話が終わる頃には日も暮れていた。

 

「まさに波乱万丈であったのだな。その鎧と戦斧も納得できた。勇ましさに磨きがかかったな」

 

「ニーナさん、やっぱりベルセルクだったんですねっ。凄いですっ!」

 

「まぁ、色々とあって大変だったけど、こうして無事に帰って来れたんだから万事解決だな。色々と大変だったし、しばらくはゆっくりとしたいよ」

 

 別に急ぐ旅でもないのだし、数日くらいは休んでも問題あるまい。

 うん、それがいい。数日は休養にしよう。こうして地上に帰って来れたのだし。

 

 その後、コノハさんの勧めで風呂に入り――その際にひと悶着あったりもしたが――夕食をご馳走になり、柔かい布団で眠りについたのだった。

 

 ああ、帰って来たんだなぁ……。

三章はこれにて終了です。番外編を二つほど挟んで、第四章を明日から開始します。

今日の6時に番外編1を、12時に番外編2を投稿しますのでどうぞご期待ください。

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